論文誌「IT活用教育方法研究」
 第10巻 第1号

− 概 要 −
 

研究論文

「初心者に学習しやすい中国語e-Learning教材」

 日本大学  郭 海燕

 初修外国語教育では、学習時間、クラス数、教材、個人指導の不足が問題となっている。そこで、筆者は初級中国語e-Learning教材を独自に開発し、従来の対面授業に導入した。これにより、語学学習環境の改善、学習者の学習意欲と学習成績の向上、特にリスニング成績の向上に一定の効果が得られ、授業外の学習指導にも有効であることが確認できた。教材中の語彙、例文にはすべて音声が含まれ、学習者はそれを利用し予習、演習、復習という学習サイクルで反復学習ができること、また、独自開発であることから学習者の要望や中国情勢の変化に対し、内容を安価に即時更新できるメリットがあり、学習者にとって学習しやすくなっている。
 対面授業およびe-Learning教材を使用した自習という授業スタイルは、今後の語学教育の授業形式として期待できるものと思われる。


「病理学教科における動画教材コンテンツの開発と自学自習向けのWeb配信」

 日本歯科大学  佐藤かおり,島津徳人,青葉孝昭
 
 病理学講座では、学習者が病理組織画像などの視覚素材へアクセスしやすい学習環境を整備することを主眼として、2000年度より画像データベースの構築、講座ホームページの開設、視覚教材のWeb化を実現してきた。現行の対面授業では、細胞・組織の構造とその病的変化を動的に表現するイラスト・アニメーションや3次元動画表示を導入している。学習者はこれらの視覚教材に学内LANでアクセスできる。Web配信に際しては、視覚教材の動作性やコンテンツ相互の連関性を重視して、学習者が閲覧しやすいように編集している。病理学実習においては、バーチャルスライドのLAN配信システムを自主開発することにより、学習者がコンピュータ端末でグラフィックス加工を施した画像解説ページを参照しながら「顕微鏡観察」できる環境を整えている。


「複数のソフトウェアとチームティーチング による効果的な外国語授業の試み」

 成蹊大学  里村 和秋
 南山大学  オリファ バイアライン

 近年の第二外国語の授業時間数削減に対応し、初級ドイツ語教育の学習レベルを維持するために、対面授業にe-Learningを結びつけたいわゆるBlendedlearningを導入したが、さらに従来のBlended learningモデルの教育効果の向上と運用コストの削減を図るために新たな授業モデルを設計した。この授業モデルは、従来の対面授業とe-Learningの組み合わせに加えて、対面授業でのビデオ通話ソフトを利用したネイティブ教員と日本人教員によるチームティーチングの採用、また対面授業と授業時間外のe-Learningをリンクさせた学習コミュニティの形成やフィードバックシステムの構築、さらに授業時間外のネイティブ教員による遠隔個人授業の実施、運用コストの安いソフトウェアの複合的活用などを特徴としている。この新しいBlended learningモデルの教育効果について、従来のモデルとの比較調査を行い、成績などの点でより高い教育効果が得られることが確認された。


「情報リテラシー授業におけるケース教材とピアレビュー導入の試み」

 桜美林大学 笠見 直子

 従来の「情報リテラシー」の授業評価アンケートの結果、[1] 説明のわかりやすさ、[2] 課題に対するフィードバック、[3] 総合満足度 の3点で改善の余地があった。そこで、学生ニーズに合わせ、「おもしろくて、役に立ち、課題に対してフィードバックがある」授業をめざし、次の3つの要素を「3I」と称し、授業に導入した。「3I」とは、[1] Interesting:学生の興味を惹き、学習意欲を高めるストーリーベースの授業紹介、[2] Intelligent:将来役立つ知的でユニークなアイデアを求めるケーススタディ形式の課題、[3] Interactive:学生同士のピアレビューと教員からのフィードバックシートである。改善前後の年度のアンケートと試験成績の比較分析の結果、「3I」を導入することにより、従来の問題が改善され、学生の満足度と学習効果が高まったことが明らかになった。


「アセンブラプログラミング演習におけるセルフラーニング型の補習と人的支援による学習活動の促進」

 帝京大学  高井久美子,荒井正之,古川文人,及川芳恵,渡辺博芳,武井惠雄

 演習授業の修了試験で不合格となった学生に対して、コース管理システム(CMS)上のスモールステップ教材を使った自己学習を、対面でインタラクティブに支援する補習授業を実践した。まず、学習内容を小さなモジュールに分割し、自己学習が可能なようにe-ラーニングコンテンツとしてCMS上に配置して、いつでもどこでも学べる環境を提供した。1つの学習モジュールを学んだ後には理解度をセルフチェックするオンラインのテストを配置している。さらに3つの学習モジュールごとに、教室で受験する通過試験を設け、対面での指導を行った。補習授業は、TAを含む教員チームで運営し、「学習、理解度の確認、再学習」といった学びのサイクルを経験させて、それが定着するように支援した。この方法を取り入れた2004年度から再試験の合格率が上がり、2005年度と2006年度には受験者全員が合格するなどの効果が確認された。


「遠隔学習支援システムを用いた教育・保育実習の実践」

 常磐会短期大学  平野真紀,恒川直樹,卜田真一郎,輿石由美子,糠野亜紀,新谷公朗,植田 明

 保育現場では、個々の子どもに合わせた保育が求められており、保育者の更なる資質の向上は不可欠である。本研究では「自ら課題を発見し、解決できる力」の養成を目指し、教育環境の充実を試みた。実習園と大学をインターネットで結び、ビデオ映像の実習実践記録を基に、学生、実習指導教員、大学教員による「実習反省会」を実施する。実践の結果、対象となった学生からは、実践後すぐの指導・助言は今後の実習に有効であること、実習指導教員と大学教員の両方の助言をもらえること、動画記録は実習を振り返る上で有効であることなどが報告された。教育実習現場と大学教員との連携により、理論と実践とが繋がり、体系的な理解が深まることが、確認できた。システムの利用により、実習生に限らず、現場教員のリカレント等にも活用できると考えている。


研究ノート

「科学文献読解のための日本語教育コンテンツ」

 東京農工大学  加藤由香里

 理工系分野の留学生を対象とした日本語教育では、従来から、日本語教員と専門教員との協同の重要性が指摘されているが、時間的な制約や価値観の相違から実現が難しい状況にあった。本研究では、Moodleを利用することにより、専門教員と日本語教員の「組織的チームワーク」を実現し、複数のレベルに対応した機能を充実させた。従来の語学教育支援のほかに、執筆者による「講義」や「専門用語集」などもマルチメディア情報を用いて充実させ、留学生から日本人学生まで「広いユーザ」に対応することを開発の目的とした。理工系外国人留学生(22名)と日本人学生(21名)を対象として評価アンケートを行った結果、外国人留学生が日本人学生よりもeラーニングの効果に対する期待が高いことが明らかになった。