情報教育と環境

情報の教育環境から学習者の情報環境への転換
流通経済大学における情報化の推進



1.はじめに

 流通経済大学は、昭和40年に日本通運株式会社によって創立された実学色の強い大学である。現在、経済学部に経済学科と経営学科、社会学部に社会学科と国際観光学科、流通情報学部に流通情報学科を置いている。それぞれに大学院をもち、総学生数は約6,000名である。さらに、自治行政学科と企業法学科を置く法学部の平成13年度開設に向けて認可申請中である。大学大競争時代にあって、創設の経緯から今後は専門型社会科学系総合大学として発展し社会に貢献することになる。
 情報教育の環境整備に関しては、当初、情報処理センターを設置し対応してきた。その後、大学間学術情報ネットワークが実用期になり、インターネットとして社会の隅々までの情報化が広がったことに対応し、平成10年に総合情報センターに改組した。これにより、教育研究部門、教学事務部門、法人事務部門のみならず付属高校も含めた、全学園のネットワーク化と情報教育を含めて大学教育の情報環境の整備に着手した。
 本稿では、情報環境の全体的なバージョンアップの前後関係について、要点を紹介する。なお、建学の趣旨がシルクロードに関わるので、SILK(RKU SILK-net: Super Information LinK network)をプロジェクトコードとしている。


2.情報環境整備の転換点

 全国の小・中・高等学校や盲・聾・擁護学校の総数は約4万校といわれる。平成13年度中にこれらの学校がインターネットで接続されることになっている。大学などを含めて、すべての教育機関が情報空間を共有することになる。
 高等学校などでは、「情報」という必須科目が設けられる。中学校では、今までの選択科目である「情報基礎」から「情報とコンピュータ」という必修科目が設けられ、電子メールなどが実習される。小学校でも、13年度以後も情報機器の整備が進み、各教室にインターネット接続によるテレビ会議システムが導入されるので、遠隔地の学級と協働相互学習が可能になる。「総合的な学習の時間」では、コミュニケーション手段として必須になろう。そのための教員の再教育をも始まっている。
 社会変動が最後に形になって現れる教育行政を振り返えると、これらの意味するところは、情報、知識、場合によっては、知恵を含めた知に価値を認める社会がすでに出現していることになる。
 大学は、情報教育、もう少し遡るとコンピュータ教育を一手に引き受けて、今まで主役の立場にあった。ネット経済の出現に象徴される情報社会と情報、コンピュータ、コミュニケーションの教育が一つの柱になる小中高等学校などの間に挟まれて、情報環境の整備に発想の転換が求められる。


3.情報の教育環境の整備を終えて

 社会科学系大学の教育研究には、形式的情報だけではなく、意味豊富な情報の流通を促進する情報ネットワークの整備に積極的に取り組まねばならない。しかし、理工学部をもたず、人的財政的能力に限界があり、導入後の運用管理の体制を十分に整えることができないので、次の事項を導入方針とする。
1)社会科学系大学としての理想的環境の追求
2)全大学構成員に対して何らかの便益確保
3)学生が所有するハード・ソフトとの調和
4)ネットワークの集中管理
5)国際標準、国内標準、業界標準の重視
 いわば、道具と手段の利用に徹底し、純技術的にみて先進大学の導入状況を追わずに全体としての利用水準と底上げを目標としている。図には、本学の情報ネットワークの利用環境を示す。この図の第1層に相当する部分は、キャンパスネットワークのLANになる。
 LAN構築の基本は、商用系ネットワークとの接続、FDDIリングによるスター型トポロジ、OSI下位層はイーサとTCP/IPである。セキュリティは、ルータの多用とLAN内LANのファイアフォールで維持している。その他、ビデオサーバなどの設置を行っている。
 一方、情報などの教育環境が展開される教室などの第2層に相当する部分の構成は次のとおりである。学生のシステム環境は、実社会のエンドユーザ環境の動向を考慮して、Windows系に統一している。
 60人単位の視聴覚機器を強化した3教室、50名単位でゼミ用にも対応するためニ分割できる教室、ゼミ用の25人単位のマルチメディア室、約350名の留学生がいることを配慮したゼミ用の25人単位のマルチリンガル室、10名単位の学生専用の2自習室、院生専用の3研究室、教員専用の2共同研究室、教員の約130の個人研究室、図書館内のパソコン室、図書館内用貸出しパソコン、自宅学習用貸出しパソコンなど、総合情報センターが直接管理する教育研究用パソコン類だけでも、700台弱に達する。その他、マルチメディア対応の大教室、中教室、小教室を整備している。
 このように、情報の教育環境から学習の情報環境にすべく徐々に教室の仕様を改善してきた。その上で、人と人との接遇コミュニケーションを重視し、利用形態の多様化から派生するいろいろな相談に対応するため、利用相談室を常設している。地域在住で、企業等での業務経験と専門知識のある女性を3名採用し、専従のITヘルパーとして学生の利用を手助けしている。学生の評判はよく、教育効果をあげている。


流通経済大学情報ネットワークの利用環境

4.学習者の情報環境の整備に向かって

 大学進学率が50%に近づき、インターネット社会が出現するとともに、情報や知識に新たな価値を見出す知識社会を迎えようとしている。学習環境を社会に提供するという大学の役割は、知識社会であればあるほど、重要になろう。
 もう一つ重要なことは、個人のコミュニケーション手段のインターネット化であろう。携帯電話は、マルチメディア情報端末に発展しつつある。個人の生活行動に追従しながら時空を超越できるコミュニケーション手段の出現である。いままで、文系大学では、「コンピュータ=電子そろばん」の理解で十分であったが、IT革命によって、「インターネット=交流空間」と理解した方がよい時代になり始めた。 考えてみると、社会科学系は、視点の違い、観点の違い、あるいは、複眼の視座による交流によって発展する科学である。この意味で、情報環境の中でも、コミュニケーション環境の整備と運用が課題になる。ようやく、社会科学系のニーズに応えられるITの時代がきたといえよう。
 本学では、平成12年8月に情報機器の更新を行うことになっている。図に示すパソコン機器は、量的な拡充は最低限にとどめて、質的な向上に重点を置いている。この目的は、大学内の学生の集まる場所などを含めて、パソコン機器としてでなく、学生の学習支援と学生のコミュニティ形成支援を目的として、情報端末として機能できる性能をもつものにする。
 そのために、情報ネットワークの第3層に相当する部分に、利用環境として、Web技術とグループフェアに基づく学生学習イーデスク(e-desk)というべきシステムを導入すべく、準備を進めている。
 学生イーデスクでは、学生が1日に一度は学内に展開された情報端末にアクセスするように、各種学内情報の提供、本学が開学以来成果をあげてきた全員ゼミ制を強化するため、所属ゼミ交流の情報受発信の機能など、学生個人別のインタフェースを用意する。社会科学系大学に必要な情報共有によるグループの形成ないし、学生コミュニティの形成に資したいと考えている。
 なお、これらを実現すために、入試関連情報、教務部関連情報、学生部関連情報などのWeb対応データベースサーバの整備が並行して行われていることは言うまでもない。同様な目的で、教育研究環境の教員イーデスク、業務環境の職員イーデスクなどを順次整備することになる。


5.おわりに

 SILK-1では、全学に対してインターネットの普及と啓発のため、ディレクトリー型の情報提供ホームページを用意して、学生や教員の利用の便をはかった。これにより、インターネット上でどのような情報が入手できるかを知らせた意味で、比較的好評であった。これを学術情報アリーナと命名して、いわば、学内の共通の話題づくりに寄与したといえよう。
 携帯電話の普及をあげるまでもなく、情報の発信や受信は、極めて個人的なものである。情報の教育環境であれば、情報機器中心の利用形態を提供するで許された。しかし、SILK-2では、学習者の情報環境の整備に私たちの組織の存在価値を示すことになると、利用者が点に集まるセンター方式から、利用者の行動範囲の面上に展開するアリーナ方式が当面の目標になろう。平成13年度にLANをバージョンアップすることになるが、学生が持参したパソコンを接続できるアクセスポイントを各所に配置したいと考えている。なるべく早く、組織名を総合情報アリーナにしたいものだ。

文責: 流通経済大学 総合情報センター長 市川 新

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