特集 大学教育への社会の期待

活力ある日本を創造する「イノベーション」の担い手の育成
〜日本アイ・ビー・エム株式会社〜


北城 恪太郎(日本アイ・ビー・エム株式会社 最高顧問)


1.日本社会の持続的な成長に向けて

 米国では、2004年12月にIBMのパルミサーノ会長が中心となって取りまとめた、米国競争力協議会の政策提言(http://www.compete.org/)が発表された。産業競争力の低下に強い危機感を持ち、この打開のためには「イノベーションこそ唯一最大の原動力」と考え、1)人材資源の確保、2)投資による支援、3)インフラ整備、によってイノベーションを推進しようとしている。日本においても成長を持続するためには、社会のあらゆる分野でイノベーション(変革)を実現する必要がある。


2.活力ある日本を創造するための人材の素養

 日本がイノベーションで成長するためには、イノベーションを支える人材を育成する必要がある。戦後の経済の復興期には、企業は欧米先進国の優れた技術を学習し、これを知識として蓄積することを重視してきた。すなわち、キャッチアップ型の学習に優れた人材が求められてきた。しかし、日本が先進国となった現在では、既に存在する知識を記憶する能力から、新しい物を作り出す能力、意欲、行動力が求められている。すなわち、自らイノベーションを実現する能力を持った人材が求められている。経済同友会による「これからの社会で求められる能力」についての調査結果は次のとおりである。

図1 これからの社会で求められる能力

 また、同じ調査で実施した「企業が採用の際に重視する事項」についての調査結果を以下に示す。

図2 企業が採用の際に重視する事項

 企業が採用の際に重視するのは「面接」の結果であり、成績や出身校で採用する企業はほとんどない。これを踏まえ、大学では「人間力」を磨くことを期待したい。また、企業が求める人間像、価値観・意識が変わったということを社会や児童・生徒、保護者に説いていくことも喫緊の課題である。
 そこで、学生時代に十分に身につけさせてほしい力は

基礎力として ●国際社会で通用する豊かな教養
●基礎学力、言語力
モラル・マナー面で ●高い倫理観、価値観
●社会規範性
●他者への思いやり
社会人基礎力として、 ●課題を発見し、考え、行動する力
すべての根幹となる ●熱意、意欲、コミュニケーション能力

である。豊かな教養については、自国の歴史や文化について学ぶことが、国際社会で通用する人材を育てることに結びつく。専門分野は入社後でも磨くことが可能であるが、大学では、社会人としての基礎や高い倫理観を身に付けて欲しい。このために、教養教育は重要である。
 社会で、通用する人材を育てるために、学校・家庭・地域・企業等とが、幅広く連携・協働を展開していく必要がある。大学入学時に重視される“知識量や記憶力”と企業採用時に求められる「熱意・意欲、行動力・実行力、問題解決力」とのミスマッチは大きな問題である。記憶力を重視した試験の点数で合格者が決まる大学入試制度を変えていかなければ、それを支える初等・中等教育の仕組みも変わらない。


3.大学(高等)教育への期待

 わが国の国際競争力を高めるためには高等教育の充実が不可欠である。研究のみに偏ることなく、未来を担う人材の教育・育成に一層力を入れていただきたい。日本の大学の研究面での国際競争向上に加えて、教育面での充実が図られることを期待する。国立大学の法人化に伴って、多くの大学において教育改革の試みがなされているが、社会の変化のスピードに追い付いていないのではないかとの懸念がある。


4.終わりに

 教育改革についていろいろ議論されているが、単に学力の向上を求めるのではなく、日本社会が求める人材の育成、すなわち、「イノベーションの担い手」をいかに育てるかの観点で改革が実現することを期待している。終わりに、チャールズ・ダーウィンが言ったとされる言葉を記したい。

「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるわけでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である。」


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