大学教職員の職能開発
短期大学部門FD/IT検討会議 開催報告
多くの短期大学が危機的状況に直面している現況を打開するためには、教育改革を断行し社会に信頼される教育研究活動を展開する必要がある。本会議では短期大学が抱える固有の教育課題に関して、その解決策を見出すため、今年度は、「教育改革IT戦略大会」と併催し、平成21年9月2日(水)にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)を会場に、下記の通り、基調講演、事例紹介をもとに全体討議を行った。
基調講演
「短期大学の再構築に向けて」 |
日本私立短期大学協会会長
学校法人目白学園理事長 佐藤 弘毅 氏 |
短期大学の輝く軌跡と不振の時代を概観した後、21世紀の世界は「知識基盤社会」であり、そこで再び短期大学が輝きを放つには、新時代に向けて短期大学の役割と機能を明確にし、短期大学教育の再構築を目指さなくてはならない、と指摘し、次の四つの提言としてまとめられた。1)全ての国民に高等教育の機会を、2)地方の高等教育の灯を消してはいけない、3)小規模化への適切な誘導を、4)「地域の生涯学習拠点」づくりに発想の転換を−短大、国、地方公共団体−[1][2]。具体的な姿としてア)創造性と倫理性を備えた勤勉な社会人や人材立国を支える中堅実務者を育成するための「短期大学士課程」充実、イ)さらに深い学びへの学習ニーズへの対応、学士の学位取得に導く課程等4種類に分類される専攻科の充実、ウ)地域の生涯学習拠点として、あるいは学位・卒業を目指さない学びの場等「非学位課程」の提供の3点が示された。
ア)の「短期大学士課程」の充実に向けては、教養教育と専門教育のバランスに配慮しながら、きめ細かな少人数教育が重要な点であること、イ)の「専攻科」については本科に続く「+1年」または「+2年」という柔軟性を活かして、養成すべき人材や学習目的に合わせてプログラム等工夫すること、ウ)の「非学位課程」については学習期間に柔軟性を持たせることや講師として教員・実務者・市民など多彩な人材を活用することが重要であることが述べられた。
最後に、短大危機の要因を外に探し求めるのではなく、短大内部に目を向け注視することが肝要であると指摘された。
講演内容のポイント |
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序.
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短期大学、その輝く軌跡と不振の時代 |
I. |
日短協「短期大学教育の充実に関する検討特別委員会」 |
1.
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行政等に向けた協会意見の取りまとめ |
2. |
短期大学の未来を拓く審議と提言 |
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II. |
「短期大学教育の再構築を目指して―新時代の短期大学の役割と機能―」について |
1.
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現実に向き合う |
2. |
新時代の短期大学の役割と機能 |
(1) |
「知識基盤社会」における高等教育の多様性 |
(2) |
短期大学の役割 |
1)
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高等教育の機会均等を確保する役割 |
2) |
教養教育の担い手として |
3) |
職業教育の担い手として |
4) |
地域の生涯学習の拠点として |
5) |
国際化・グローバル化の担い手として |
6) |
21世紀学習社会の担い手として |
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(3) |
短期大学の教育機能 |
1) |
21世紀型市民教育の推進 |
2) |
職業一般に必要な実務能力の育成 |
3) |
特定分野での専門職業能力の育成 |
4) |
地域の人材ニーズに対応した教育 |
5) |
学士の学位への接続教育 |
6) |
地域の生涯学習拠点 |
7) |
外国人留学生・研修生・労働者の教育 |
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3. |
短期大学教育の再構築に向けて |
(1) |
短期大学士課程の教育 |
(2) |
専攻科の教育 |
(3) |
地域の生涯学習拠点としての短期大学 |
(4) |
短期大学が取組むべき改革の道筋 |
4. |
国等が取組むべき施策 |
5. |
残る論点 |
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III. |
提言 |
1.
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全ての国民に高等教育の機会を |
2. |
地方の高等教育の灯を消してはいけない |
3. |
小規模化への適切な誘導を |
4. |
「地域の生涯学習拠点」づくりに発想の転換を ― 短大、国、地方公共団体 ― |
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IV. |
当面の取組み |
文科省 先導的大学改革推進委託事業 H21・22
「短期大学における今後の役割・機能に関する調査研究」 |
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事例紹介
「産学連携における教育改善事例−インターンシップとキャリア教育」 |
埼玉女子短期大学准教授
キャリアサポート委員長 三ツ木丈浩 氏 |
埼玉女子短期大学は2004年に「キャリア短大宣言」を行った。その中核となるのが「インターンシップ」で、選択科目として配置しており、約150社に及ぶ企業と連携し、キャリア形成支援教育として全学的に推進している。インターンシップは3週間と2ヶ月のプログラムがあり、1年次の夏季休暇から実施される。インターンシップの参加実績は2008年度は延べ人数で279名であった。
一般教育科目の中に「基礎ゼミ」、自己理解やコミュニケーション能力を高めるための「キャリアデザインI」、履歴書やエントリーシートの書き方などを指導する「キャリアデザインII」が必修科目として置かれ、その他「マナーとホスピタリティ」、「文章表現法」、「現代社会と企業」といった科目を配置し、一般的な教養の習得にも力を入れている。
全学生必修の「キャリアデザイン」は「キャリアサポート委員長」を中心に、「キャリアサポートセンター長」や「キャリアサポートセンター」が、相互に連携しながら進めている。教員は企業出身者が比較的多いのが強みと言える。
キャリア教育の要となるインターンシップの効果を高めるために、事前の学内オリエンテーションの実施、教員の受け入れ企業先への訪問などに取り組んできた。この制度を10年近く継続した結果、受け入れ企業の一部にはインターンシップを安価な労働力や社会貢献と捉えてしまい、教育効果が思ったほど上がらないという、企業側に研修内容を任せる実施形態の限界も明らかとなってきた。昨年度は、学生と企業の両者のニーズのマッチングを高めるために、一部の企業との協力のもとに、研修先の企業に合わせた個別の研修プログラムの開発にも着手している。
全体討議
討議よりむしろ質疑応答となったが、基調講演の佐藤氏は所要で参加いただけなかったため、三ツ木氏への「インターンシップとキャリア教育」に関する質疑応答となった。以下に三ツ木氏からの回答をまとめる。
- 埼玉女子短期大学は商学科と国際コミュニケーション学科の2学科からなっている。商学科はファッション・トレンドコース、ブランド・マーケティングコース、会計事務コンピュータコース、医療事務コンピュータコースの4コース、国際コミュニケーション学科は観光ホテルコース、ブライダル・コーディネートコース、エアライン・ホスピタリティコース、国際交流・英会話・留学コースの4コース、両学科共通としてビューティ・キャリアコース、健康・心理コース、子ども文化コースの3コース、計11コースを配置しそれぞれのコースに合わせた教育を行っている。コースごとの希望者には偏りがあるため、各コース基礎ゼミの人数を最大30人として人数調整をしている。
- インターンシップは基本的には夏季・冬季・春季休暇中に行っているが、それでも学期中に食い込むことがあり、授業を欠席することがある。その欠席は公欠扱いにはならず、欠席の扱いとなる。
- 1年次の夏休みからインターンシップを実施するために、入学時にコースを決定し、インターンシップに必要な指導を早い段階で行っている。
- インターンシップ先の企業探しおよび交渉はキャリアサポート委員会の教職員を中心に行っている。
- 基礎学力や一般常識を身につける基礎ゼミで使用する問題集は、市販のものではなく教員が作成している。学生の習熟度に合わせて、平易なものから順に、レベルが上がるように作成されている。中学校程度の内容から始めるようなリメディアル教育的な要素もある。
- 英語TOEICに力を入れている。企業からTOEICのスコアを要求されることが多いので重要なスキルと位置付けている。
- インターンシップと就職先とは必ずしも一致してはいないが、長期インターンシップの場合には就職先に結び付くケースもある。
- 短大再生に向けて各大学で様々な取り組みをし、結果を出している。しかしその結果を高校生、保護者、進路指導の先生に認知してもらわないと志願者増に結びつかない。各短大で作られている学校案内やホームぺージでのアピール以外に有効な手段、アイデアをお持ちであれば紹介していただきたい。在学生が出身の高校を訪問したとき話される短大の印象の影響は大きい。
討議は活発で、参加者のキャリア教育への関心の高さを伺わせるものであった。しかし、討議時間が当初の予定よりも短かくなったこともあり、討議内容がキャリア教育の実施状況等の各論的な話題で終わってしまったことが残念であった。基調講演・事例紹介を踏まえ、討議を短大教育活性化に向けた戦略的な議論に繋げることが今後の課題と思われる。
参考資料 |
[1] |
日本私立短期大学協会編:短期大学教育の再構築を目指して−新時代の短期大学の役割と機能. |
[2] |
日本私立短期大学協会編:短期大学教育の再構築を目指して−新時代の短期大学の役割と機能〜概要版〜. |
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