特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)

小規模女子大学でデジタルを活用した
教育高度化を目指す

小林  忍(京都ノートルダム女子大学 教育支援部長兼ND教育センター事務室長)

1.はじめに――NDの「デジタル」

 本学は2021年、創立60周年を迎えました。学部入学定員370人の私立大学で、キリスト教をベースとした建学の精神「徳と知(Virtus et Scientia)」をモットーとしています。聖母マリア(Notre Dame)の生き方に倣うことを目指すカトリックの学校らしく、奉仕の気持ちを大切にする傾向があるように思います。学生と教員との距離が近くて相談しやすい雰囲気があるのはいい所です。

写真1 北山キャンパス 図1 徳と知を表す学章

 今回は、国の大学改革推進等補助金(デジタル活用教育高度化事業)「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択された取組みについて報告します。本学は取組み・「学修者本位の教育の実現」区分に「小規模女子大学における『ブレンド型授業モデル』の創出―「つまずき経験」で「前向き力」を涵養する個別最適化プラン―」というタイトルで応募し、関西の女子大学では唯一採択されました(応募延べ252校中54校)[1]
 のんびりした印象を持たれることも多い本学がデジタル活用などというと意外に思われる方もありますが、ちょうど30年前の1991年には「コンピューターセンター」を設け、実は当時としてはかなり先進的な環境を整えていました。以来、基礎情報教育に取り組んできたという素地があり、それが恐らく今回の事業につながっています。

2.「学修者本位の教育」を目指す教学改革

 今回の申請は、本学にとって大きなチャレンジでした。「学修者本位の教育」というと当たり前のようにも聞こえますが、これは「(学生に何かを)教える」から「(学生が何かを)できるようにする」へと大学が変革することを求めるものです。
 本学でも以前から、カリキュラムや授業をどう変えればよいのか、議論を続けています。2021年度からは「『対話』から始まるND教育」として、「卒業研究をゴールとした学びの道筋」構築などの教学改革を全学で実行中です[2]。そして、その実現にはDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進が不可欠だと考えています。
 そのような中でコロナ禍に見舞われ、否応なくオンライン授業を経験することになり、そのメリット・デメリットも次第に見えてきました。教務委員会が学生を対象に4回にわたって実施した「オンライン授業に関するアンケート」は、学生が結果の分析にかかわり、授業改善への提案もしてくれました。第3回アンケート結果では、対面授業とオンライン授業が相互に関連した授業デザインの必要性などの気づきが得られた他、「その授業スタイルを選んだ意味・意義はそもそも何なのか」を求める鋭い指摘もありました[3]

図2 2021年1月第3回アンケート結果報告から

 これらを踏まえれば、恐らく、コロナ禍の収束後にすべて以前のままの対面授業に単に戻すことにはなりません。とすれば今、採択されてもされなくてもDX推進計画を立てておこう、そう考えたのが応募の「動機」でした。

3.本学のDX推進・教育高度化の取組み

 小規模である本学におけるDXは、学内資源を集中的に投じにくいのがつらいところですが、それでも少しずつ前進しています。LMS(Learning Management System)は2017年度からmanabaを全学で導入し、今ではほとんどの授業で欠かせない存在になっています。
 このような状況の下、次の3つの柱で「デジタル活用教育高度化」に取り組むこととしました。

(1)「ブレンド型授業モデル」創出により教育課程をレベルアップ

 オンラインを活用した教育のよさは確かに実感しました。反転授業への活用などオンデマンド授業高度化のための動画撮影システムも整備しました。一方で本学は対面を基本とする通学制大学であるため、対面・オンライン両方の長所を生かした授業を追求しようと、学内事例を共有するなどFDを活性化しています。2021年9月22日には「今後の授業デザインを考えるワークショップ」をライブ配信し、教職員97人が参加、学長を含む教員3人の実践から学びました。
 これらの取組みから、何かはっきりした結論を直ちに得られたわけではありません。ただ、少なくとも、画一的に何らかの授業形態を推奨するような意味での「モデル」を志向するのではなく、・教員間の多様な授業実践の交流を通して日常的に改善が自ずと行われるような「風土」づくり、・そのために教員がデジタルを効果的に活用しやすいような支援体制の整備、などの活動自体を「モデル」として整理できれば、デジタルを活用した授業のあり方の一つの指針になるのではないか。そういう感触が得られたように思います。

(2)教育ビッグデータ活用で「いつでも・どこでも」個別最適な学修

 教育課程編成等の全学的な方針策定及び成果の検証・改善を担う「教学マネジメント会議」の方針に基づき、ND教育センターを中心としたチームでBIツールを導入し、分析機能を強化しています。成績やLMS内の情報、電子教科書・教材やeラーニングの利用による学修ログなどから、例えば学生の行動と学修成果の関係や経年変化などを捉え、「つまずき」を適切なタイミングで支援して学生が自分に合った学修機会を自ら選び取れるような仕組みを目指しています。周囲を気にせず発話ができるように仕切られた学修ブースの設置など、学生が学びやすい環境も用意しました。

(3)「情報活用力プログラム」を新設しDXを加速できる人材を養成

 学部横断で「AIとデータサイエンス入門」「情報の科学と倫理」など30単位修得により修了証が授与されるプログラムがスタートしました。履修者の履修指導・相談や履修者同士のコミュニティ形成・維持の支援、各自の問題意識に応じたeラーニング活用も奨励しています。「情報活用力プログラム(基礎)」(18単位)は、内閣府・文部科学省・経済産業省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」に認定されました(有効期限2025年度末)[4]
 古くなったシステムを更新・拡張できたことは、学生の学修成果などデータの可視化を進め個別最適な学修を目指して取り組む上で大きな意味がありました。新システム導入には設定や研修など大変なこともありますが、日々生成されるデータをどう活用すれば「学修者本位の教育」に近づくのかを各々の持ち場で自ずと考えることにつながると実感しています。

4.おわりに

 世界はますます小さく、予測しにくくなり、多様な他者との「対話」が重要になっています。学生たちには、大学の様々な場面で、自分なりの方法で失敗や試行錯誤を重ねながら課題を発見し解決する力――「つまずき経験」を通して壁を越え、不確実な時代に自信を持って学び続ける「前向き力」――を身につけてほしいと願っています。

参考文献およびURL
[1] https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/sankangaku/1413155_00003.htm
[2] https://www.notredame.ac.jp/ndec/pdf/about/curriculum_2021.pdf
[3] https://www.notredame.ac.jp/news/news/3449/
[4] https://www.notredame.ac.jp/ndec/program.html

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