特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)

統合教育情報基盤の構築に向けたLMSの導入と
Learning Analyticsによる医学教育の高度化

佐藤  梓(東京女子医科大学医学部 統合教育学修センター基礎科学講師)

1.はじめに

 本学では、中長期ビジョンとして作成した「ビジョン2020」の教育における基本方針として、「質の高い教育を提供するために、新校舎棟を含めた教育環境の整備、教育カリキュラムの検証と改革および教員の質の向上に精力的に取り組む」、「医学部と看護学部の垣根を越えて、両学部の協働教育を推進する」をあげており、全学的にDXを推進しています。
 その中で、対面授業と遠隔授業の両立によるニューノーマル時代の教育のあり方という視点を踏まえ、@LMSを新規に全学的に導入し、その運用を開始すること、A医学・看護学教育の新しいパラダイムである「教育・研究・臨床」のデータを統合して活用する三位一体のDX統合教育プラットフォーム(DXプラットフォーム)を構築すること、BLMSやDXプラットフォームから得られる対面・遠隔での学修ログ分析と成績分析とを統合化したLearning Analytics プラットフォーム(LAプラットフォーム)を開発し、学生の習熟度に応じた学修支援や教員へのフィードバックを行うこと、の3点を実現することによる医学・看護学教育の高度化を図る事業(図1)(名称:統合教育情報基盤の構築に向けたLMSの導入とLearning Analyticsによる医学教育の高度化)が、令和2年度大学改革推進等補助金デジタルを活用した大学・高専教育高度化事業、いわゆるPlus-DXに採択されましたので、その取組みについて紹介します。

図1 Plus-DX推進計画図

2.LMSの導入

 本学は学修に対する主体性を高めるべく、1990年度に日本の医学部で初めてPBLテュートリアル教育を導入し、また2011年度よりアウトカム基盤型カリキュラムを導入するなど、医学教育における多くの先駆的な授業方法論を全国に発信してきました。また、今回のコロナ環境下においては、学修と感染防御を両立させるべく、必須な実習を対面で行うとともに、全学生がすべての授業を遠隔オンデマンドで学修できる環境[Mediasite(株)、収録システムおよびMediasite Player]を整備しました。2020年度には医学部と看護学部を合わせてオンデマンドの3,700講義を配信し、延べ62万回、計30万時間の授業視聴がありました。一方でLMSが未整備であり、教務システム[富士通(株)、Campusmate-J]の他にアンケートシステム[Googleフォーム]、同期型会議システム[Zoom]など多数のサービスが個別に利用されている状況でした。そこで、LMSとして日本データパシフィック(株)のWebClassを選定・導入し、授業の配信管理、受講管理、アンケート配信や集計を一元化するなど、学修支援の強化を図ることとしました。現在ではWebClassの構築が完了し、次項に述べるDXプラットフォームと連携した学生・教職員向けの利用を開始しています。

3.DX統合教育プラットフォーム(DXプラットフォーム)の構築

 教育現場にはLMSおよび収録・配信システムが整備され、教育向けコンテンツやデータを蓄積してきましたが、研究所や病院にもそれぞれ研究データ、臨床データが個別に保存・利用されております。
 多くの医療系大学において、教育・研究・臨床の融合は課題として挙がっており、一足飛びの解決は困難ですが、本事業では特に先進的な取組みとして「教育・研究・臨床」のデータを統合して活用する三位一体のDXプラットフォームの構築を行うこととしました。すなわち、研究と臨床の現場に収録システムおよびDXプラットフォームを導入し、臨床・研究コンテンツについても全学的にDXプラットフォームにアクセスを可能とすることで、研究活動や学会活動への活用、臨床活動における活用、教育活動へのフィードバック、教職員FD・SDへの活用、初期臨床研修医向け学修環境の向上、感染症や災害などの非常時における医療学修者としての行動規範教育支援を行う取組みです。
 具体的な研究コンテンツとしては、学会活動や研究データの他にアバターロボットやメタバースを用いた遠隔国際交流システムを、臨床コンテンツとしては、臨床データの他に手術手技評価システムをそれぞれ構築し、三位一体のDX基盤として活用していきたいと考えております。

4.Learning Analyticsプラットフォーム(LAプラットフォーム)の構築

 WebClassおよびDXプラットフォームからは、多くの学修者データや学修行動履歴(出欠、アクセス履歴、課題実行率、資料ダウンロード日、科目成績、CBT成績、OSCE成績、講義アンケート回答、オンデマンド配信講義初回視聴日、視聴率、視聴回数等)が得られます。そこで、このデータを収集・統合解析し、学生の個別の学修成果を可視化すべく、得られたデータや解析結果を学生・教職員へ一元的に提示するためのLAプラットフォームの構築を行います。このLAプラットフォームでは、例えば、学生の講義動画視聴履歴一覧の表示や学生自身のラーニングポートフォリオの出力や成績の推移表示を行うことで、自己の学びの進捗を振り返ること、主体性を向上させること、今後の目標設定に活用することが期待されます。また、在学期間の履修履歴を積み上げることにより、在学時のディプロマポリシーの達成度確認や卒業時のディプロマサプリメントの出力も可能となります。さらに、教員向けには講義動画の視聴履歴の頻度確認、学生に課した課題やその成績の一覧表示、学修遅延の学生のピックアップ、講義アンケートの個別フィードバックなどの授業支援や授業改善に資する情報の提示を行います。

5.取組みの目標と目指す成果

 本補助事業で行う取組みの教育効果については、DX推進プロジェクトチームがその調査・検証を行います。すなわち、LMS導入後の令和3年度とLMS導入前の令和2年度の学生個人の学修データ、授業評価アンケートを比較し、LMSの導入に関する教育効果を検証します。また、DXプラットフォームの構築および得られた学修データを利用したLAプラットフォームの開発とパイロット運用を行い、この教育効果を評価します。
 医学・看護学教育における膨大な知識習得や態度に関する学修支援には、学修者の習熟度の的確な把握と学修者が主体的に学ぶモチベーションを高めるための個人の学修状況のデータ提示が必要です。これまでは学生や教員が個別のシステムにそれぞれアクセスをして、学内の教学IR部門が教務システムから得られる限定的なデータを文字通り手作業で解析し、学生や教員への学修支援と授業改善支援が行われていました。
 本取組みは、LMSやDXプラットフォーム、LAプラットフォームを用いることで、学生と教員が自身および担当学生の情報に一元的・網羅的にアクセス・フィードバックが可能となり、学生の学修スキル・教員の教育スキルの向上や、継続した授業改善につながるPDCAサイクルの確立に資するものとなると考えております。


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