ICT活用コース「教育改革に向けた大学データの活用と可視化」の報告概要

 
 本年度の大学職員情報化研究講習会、ICT活用コースは、「教育改革に向けた大学データの活用と可視化」をメインテーマとして掲げ、平成28年12月17日(土)、龍谷大学深草キャンパス和顔館地下2階(京都府伏見区深草)において開催し、53大学から88名の参加があった。


全体会概要


 全体会では、会場提供校の龍谷大学、池田励副学長からご挨拶の後、本講習会のイントロダクションとして木村増夫運営委員長(上智大学)から、研究講習会〜ICT活用コース〜のねらいについて、教育改革に向けた「ビッグデータ」、「学修成果の可視化」の重要性、「ビッグデータ」の活用から「学位プログラム中心」への質的転換を推進することについて説明され、また今各大学に求められている「SD」についての考え方や今後のあり方といった話があり、今後ますます職員の意識向上が必要であるという認識を深めた後、本日の分科会テーマである「大学データの活用」の一つの取り組みとして、國學院大學教学事務部次長の山口輝之氏より「國學院大學におけるビッグデータ活用のための組織体制と現況」、具体的な活用方法として、京セラコミュニケーションシステム株式会社の名和輝明氏より「大学向け教育ビッグデータ分析」の講演があった。

分科会

第1分科会

【セッション1:学修成果の可視化】
「学修成果の可視化システムを用いた学生・教学マネジメントの改善」
新潟工科大学 教授・大学改革促進チームリーダー 飯野 秋成 氏

 新潟工科大学では、「NIIT達成度自己評価システム」を導入し、ディプロマポリシー達成度と単位修得数という学修成果を可視化するなど、学生の振り返りや教学マネジメントに活かしている。例えば、英語・数学・物理について毎年達成度テストを行い、企業が求める基礎学力とのギャップを可視化し、教員がその克服に向けてシステム上でアドバイスを行う。また、「対話型企業技術・要素会」では、学生と企業が面談し、学生が人間力も含めて自身の現状を可視化できる工夫がある。これらは教員・学生に配布したiPadを通じて、助言指導に活かされ、さらには電子書籍を通じての学修履歴をデータとして活用することで、学生がどの程度予習し、何に興味を持っているかなどを調べ、次年度以降のシラバス作成や授業運営に役立てているという紹介もあった。まさにビッグデータを用いたラーニング・アナリスティックへの取り組みとして、参加者からも様々な質問と共に高い興味が示されたセッションであった。

【セッション3:IR】
「意思決定を支援するIR」
明治大学 教学企画部評価情報事務室副参事 山本 幸一 氏

 明治大学でのIRの立ち上げから現状までが紹介された。最初に「IRで何を実現するか」では、IR開始のきっかけとして学内各所で統一性のないデータが散乱していたことから、それらを統一・蓄積・利活用するまでの経緯が語られ、日常的業務として定型レポートと対話を通じて非定型レポートを作成していることの説明があった。次に「IRカタログのコンセプト」の中では、IRを各署の意思決定に利活用してもらえるように、統計レポートをサンプルとして提案していることの説明があった。さらに「IRのニーズ」の例や今後の課題などが紹介され、具体的な日常の実践について詳しい説明があった。現在IRに携わっていたり、今後どのように取り組んでいこうと考えている参加者には大いに参考となったと思われ、活発な質問・意見交換があり、アンケートにおいても今後各大学でデータを戦略的に活用していくことへの高い関心が示された。


第2分科会

【セッション2:学修成果の可視化】
「評価の見える化に向けた全学的な取り組みとIR活動の推進」
横浜国立大学 学務部教育企画課長 岸 信治 氏

  横浜国立大学での学修成果の可視化の立ち上げから現状までが紹介された。「全学教育改革(学部改組)」、「教養教育・英語教育改革(全学教育システム改革)」、「教学マネジメント改革(PDCAサイクルの実質化)」、「大学教育再生加速プログラム(学修成果の可視化)」、「新たな高大連携接続改革推進事業(学生IRの方向性)」について説明があった。説明の中では、改革を進める為の分析データの活用方法や学内会議での工夫等について、示唆に富む話があり参加者の興味を引いていた。また、補助金活用にあたり、事業を進める上での組織体制を考慮した対応方法や学生ポートフォリオ構築の勘所などがわかりやすく説明された。

【セッション4:ステークホルダーに向けたネット戦略】
「近大流コミュニケーション戦略におけるWebの活用」
近畿大学 広報部主任 江川 丈晴 氏

  近畿大学での「近大流のコミュニケーション戦略におけるWEBの活用について紹介された。「近畿大学の現状」、「近大流のコミュニケーション戦略」、「WEBを使ったコミュニケーション」について説明された。コミュニケーション戦略では、組織改編や広告と広報の融合など様々な事例に触れながら、「広報ファースト」という考え方があり、教職員10,000人全員広報という説明があった。WEBを使ったコミュニケーションでは、様々なWEBサイトやSNSを活用した広報手法が紹介され、質問も多数寄せられた。


「ポータルサイトを用いた保護者サービスの展開」
関西大学 学術情報事務局システム開発課 宮口 岳士 氏

  関西大学での保護者ポータルの紹介があった。全学ITシステム全体の概要説明があり、その中での保護者ポータルの位置づけが紹介された。保護者ポータルのサービス内容や対応デバイスについて紹介された。学生の履修・単位修得情報、教育後援会行事情報、メール通知設定、知りたい情報を検索するコンシェルジュ機能などについても説明があった。利用状況としても多くのアクセスがあるとのことから、併設校の中学校や高等学校にも利用拡大し、効率化にも寄与しているとのことであった。


施設見学


 分科会終了後には施設見学が実施され、多様な学びの空間として学生に提供されている、龍谷大学の「ラーニングコモンズ」、「ステューデントコモンズ」、「グローバルコモンズ」の施設見学が実施され、多くの参加者が見学に参加した。


おわりに


 今年度の取り組みとして、分科会の参加セッションは当日の変更も認めることで、自分がより興味を持つセッションへの参加を可能とした。参加者からは「すべてのセッションに興味があり、全部参加したかった」、「興味深いテーマだけにもう少し余裕をもって話を聞きたかった」などの意見もあったが、時間的制約もあり次年度の検討課題としたい。
 本コースでは、情報提供型の研究講習会として教育の質的転換を図るための改革行動について認識を深めることができたと考える。なお、開催の時期や時間設定、開催場所、情報提供別の聴講希望など運営に関する要望についても次年度の検討課題としたい。

▲TOP