社団法人私立大学情報教育協会

平成 17 年度第 1 回物理学教育 IT 活用研究委員会議事概要

 

T.日時:平成 17 年 6 月 4 日(土)午後 4 時から午後 6 時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:藤原委員長、松浦、満田、徐委員

W.検討事項

1.ブラックボード・ジャパン社による LMS の大学における事例紹介

昨年度より継続して、物理学教育における Learning ManagementSystem (以下 LMS )の効果的な活用方法の研究を行うため、本協会賛助会員であるブラックボードジャパン株式会社より山口 博道 氏をお招きして、「教育機関におけるコースマネージメントシステムの導入」と題して、国内外の大学における e-Learning 利用状況や、 e-Learning の今後の展望についてお話いただいた。

1 海外 e-Learning 動向 アメリカ

アメリカの高等教育機関 4168 校中 91% の大学が Course Management System (以下 CMS )や LMS を導入している。主な利用目的としては、対面授業補完、ウェブ教材提供、オンラインテスト・アンケート、オンライン協調学習、学生進捗管理を挙げることができる。システム自体は、コスト削減を図るため、商用の CMS を利用している大学が 88% を占める。さらに、管理運用の負担を削減するために、 ASP ホスティングを利用している大学も年々増加している。なお、 Harvard 大でも 6 割利用されており,教員側も他の人の授業内容を調べて、自分の教授内容の調整を行うといった、カリキュラムの内的調整を行っている。

日米を比較すると、学生の求めるものはそれほど大きな差は無いが、教育する側の体制には大きな差がある。日本国内でしばしば問題にされるのは、教員の Instructional design の欠如である。

2 海外 e-laening 動向 イギリス

イギリス高等教育機関数 531 校(全て公立)のうち、ほぼ全ての機関が導入している。と言うのも、イギリスにおいては国家プロジェクトとして e-Learning を推進しており、公的機関である National Learning Network ( http://www.nln.ac.uk/index.asp )が e-Learning コンテンツ共有体制構築、国家的 e-Learning ポリシー策定等、多面的に e-Learning の普及を支援している。

3 国内大学の取り組み

インターネット授業を配信している教育機関は、 4 年生大学 16.5% 、短期大学 7.7% 、高等専門学校 11.9% である。また、メディア教育開発センターによる大学の e- ラーニング実態調査によると、調査対象である 93 校中、 e-Learning 授業実施科目数が 3 科目以下が半数以上であること、一部の科目や一部の教員しか利用していないこと、単位互換や海外大学との連携も殆ど実施されていないことが判明した。このことからも、日本の大学においては e-Learning は発展途上の段階にあると言える。今後の課題としては、予算不足、教授スキル不足、組織的な支援体制が確立していないことなどが挙げられた。

4 ブレンディドラーニング

e-Learning は単に教材を電子化することではない。あくまでも対面授業をサポートするシステムとして運用されるべきである。具体的には、予習復習のための教材・資料の提供、オンラインテストやディスカッションの促進、成績管理等、対面授業外での学習を促進・補助することが挙げられる。このように、対面授業と e-Learning を融合させた授業形態をブレンディドラーニングと呼ぶ。

5Blackboard を活用した事例

玉川大学における物理科目での Blackboard 活用事例を紹介いただいた。物理科目では、 Blackboard 上で、シラバス・アナウンス・教材・課題資料提示、レポート回収、リメディアル教材提供を行っている。具体的なリメディアル教材としては、 Word 教材を PDF 化したファイルであるが、授業の進捗に合わせて、その都度掲載するようにしている。今後の予定としては、シミュレーション教材やオンラインクイズの実施、実験機材の取り扱いを収録したビデオファイルの掲載を計画している。

学生に対して Blackboard の機能が役立っているかアンケートを実施したところ、課題の内容が確認できること、課題の提出ができること、成績の確認ができること、などの機能に対して役立ったとの回答が多数あったが、予習機能、ディスカッション機能、テスト機能などに対する回答は少なかった。

その他に、岐阜大学、防衛医科大学校での導入事例も紹介された。岐阜大学では、テレビ会議システムを用いた同期型遠隔授業の力を入れてきたが、学生からのフィードバックや資料提示の簡便化を図るために Blackboard を導入した。 Blackboard の具体的な活用方法としては、主に遠隔授業システムや VOD システムとの連携や、学務システムとの情報共有を図っている。防衛医科大学校でも、主に学務システムとの連携の円滑化を図る役割を担っている。

さらに、海外の大学で Blackboard の全システムを導入している事例として、カナダのセネカ大学 ( http://www.senecac.on.ca/ ) の例が紹介された。またカリフォルニア州立大学では、 8 分校が一つのシステムを共有しているとの紹介もなされた。

6 今後の展望

ユーザーのニーズを反映して、 (1) 機能拡張・柔軟性の追及、 (2) コミュニティ構築支援、 (3) 教育資源共有の向上を図りたい。具体的に、 (1) では学生の進捗に合わせたコンテンツ提示機能、保護者への情報公開機能、 (2) ではユーザーレベルに合わせた情報配信機能、複数の教育機関によるシステムの共同利用、 (3) では学内の教材の共有化やコンテンツのメタ情報、アクセス管理機能、学生の学習・研究履歴を掲載した e ポートフォリオ機能を普及したい。

7. その他

質疑応答を行ったところ、まず玉川大学でのサポート体制について質問があったが、玉川大学では情報推進センター( 6 名)が担当しており、その中の 1 人は Blackboard の管理を専任で行っている。管理と言っても、 SE 的にサーバーに常駐している訳ではなく、あくまでも Blackboard のシステム管理を担っている。また、 LMS を導入しても、教員は負担が増えるので積極的に活用しないと思われるが、教員に何かインセンティブを与える方法は検討されているか、という質問に対しては、 LMS の導入初期はどうしても負担が増えてしまうことは否めないが、例えば利用者には TA を付けるといった工夫をしている大学もある、との回答があった。

また、 LMS と CMS の違いを訊ねたところ、 LMS という言葉は、かつての学習管理の色彩が強い企業内教育のためシステムというイメージが強いため、ブラックボード社では、 教員、学生がいつでもどこでも、教育・学習目標を達成するための学習環境( Networked Learning Environment )を構築するシステムであることを強調するため、一貫して CMS という言葉を用いているとの説明がなされた。

その他に、 Networked Learning Enviroment の一例として、米国の MERLOT( http://www.merlot.org/Home.po ) に関する紹介がなされた。 MEROT は、 Web 上に公開された高等教育向けのコンテンツの情報を集積することを目的としている。さらに、ピア・レビューを実施しており、優れたコンテンツに対しては年に一度顕彰していることに特色がある。

2.報告書の授業モデルについて

 次回委員会では、委員各位報告書で紹介する授業モデルのフレームワークを、 A4 用紙1〜2枚程度に取りまとめ、それぞれ報告いただくこととした。

3.サイバー・キャンパス・コンソーシアムメールマガジンについて

事務局より、サイバーキャンパスコンソーシアム事業再構築について説明がなされた。具体的には、これまでの大学による登録制参加を廃止し、国公私立大学問わず多くの教員を サイバー FD 研究者として登録し 、ネットワ−ク上でオ−プンに教育改善に関するフォーラムに参加できるよう、制度改革を図ることとなった。また、事業内容としても、本委員会での議論された教育改善に関するトピックスを、サイバー FD 研究者に対してメールマガジンで配信するほか、分野別に優れたIT活用授業を Web 上でアーカイブ化し、教育業績としての教員の努力も併せて紹介するなど、見直しを図ることとなった。

それに伴い、各学問分野別に運営委員会を設置することとなり、松浦委員、満田委員、徐委員に就任いただくこととした。