社団法人私立大学情報教育協会
平成15年度第1回法律学教育IT活用研究委員会議事概要

 

T.日時:平成15年11月21日(金)午後2時から4時まで

U.場所:ホテル・メトロポリタン・エドモント会議室

V.出席者:吉野委員長、野口、笠原、高嶌委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 本年度委員会の活動内容について

議事に先立ち、井端事務局長より委員会改組に関する説明がなされた。要旨は下記の通りである。

本年度より、本委員会のみならず、全ての「情報教育研究委員会」の名称を「学系別教育IT活用研究委員会」へと改組変更した。改組の主たる目的としては、今後は教育方法に関する研究のみならず、教育基本振興計画でも謳われているように、教育内容を豊富化・高度化するためのITの活用方法を研究することに活動の主眼を置くことにある。例えば、教育内容の豊富化としては、個々の学生の能力や多様なニーズに応えるようなe-Learningシステムの活用が考えられ、また教育内容の高度化としては、アジア等諸外国との連携により、学生の学習意欲や競争意識を向上させることなどが考えられる。

次に、法科大学院開校等含めた、昨今の法学部を取り巻く状況について意見交換がなされた。要旨は下記の通り。

(1)法科大学院の制度について

委員会前日に発表された法科大学院設置認可結果から、申請数72校のうち、4校が認可されず、2校が保留あったことが判明した。また、認可された学校においても、留意事項が付与され、それは一般に公開される。

大抵のところでは、法学既学者と初学者の差異化を図るために、2年コースと3年コースを設けるが、今後は学部3年生が飛び級で法科大学院3年コースに入学することも多く見られることが予想される。

法科大学院は、神戸大学の例外を除き、大学院法学研究科とは別に独立大学院として設置されるケースが殆どである。

(2)学部での教育内容について

法曹実務家養成のための専門的教育が、今後法科大学院中心に行われるのであれば、学部での教育目標も変容することが迫られる。例えば、今後法律的知識がより専門化・高度化されていくため、専門家以外の一般市民が司法をコントロールできない立場に置かれる可能性もある。そのため、学部では、市民の側から司法の権力をコントロールするための基礎的な法律的知識や思考法を中心に教育していくことが考えられる。

法曹家の数が増加すれば、弁護士・検事・裁判官以外にも法律知識を必要とされる事務職・パラリーガルも必要とされるので、そのような職業に就くための教育もなされていくことも考えられる。

その他に、学部教育とは直接関係ないが、今後裁判所のIT化が促進されていくと思われるが、その際に裁判官に対してITスキルを誰が教えていくのかという問題がある。例えば、米国では裁判所が教育を行い、ヨーロッパでは大学が教育を行っているが、日本ではそのことが議論されていない。しかし、日本では裁判所と大学・ロースクール間に溝があることから、裁判所が大学に教育を委託することは考えにくい。

(3)今後の委員会活動について

次に、今後の委員会活動に関して、昨年3月に開催された研究集会のアンケート結果を踏まえて意見交換がなされた。

まず吉野委員長より、昨年3月に開催された研究集会のアンケート結果にもあるように、今後研究集会・シンポジウムを開催する場合には、大学教員のみならず、企業の方や、あるいは消費者保護団体等NPO、NGOのメンバーの参画が求められるのではないか、との意見がなされた。それに対して、事務局より、企業はビジネス目当てで参画することも考えられ、また議事の進行等が妨げられる可能性もあるので、一般参加させることにはあまり望ましくはないが、問題意識の高い企業をピックアップして、逆にこちらから招聘するということは可能である、との回答があった。事務局の意見に対しては、大学を卒業する学生の殆どは企業に就職するのであり、また多様な教育内容を追求していくのであれば、企業側から学生に求めるIT能力や望ましい教育内容等を話していただくことも考えられるのではないか、との意見が高嶌委員よりなされた。以上を踏まえ、今後研究集会を開催する際には、何らかの形で企業人にも参画いただく方向で検討していくこととした。

次に、笠原委員より、私情協としてサイバーコートシステムの互換性や標準化を図るための議論の場を提供していくべきではないか、との提案がなされた。それに関して事務局より、多くの人たちが議論に参加し、個々の大学の能力に応じた環境の研究などを委員会のテーマとして、実際のサイバーコートや模擬裁判の技術的ノウハウの提供や実験することは考えられる、との意見がなされた。その他にも、法律xmlフォーマットの標準化の話題にも及んだが、教育的観点から望ましい様式を提案することはできるが、フォーマットそのものの内容まで検討することは委員会活動から外れることもあり、議論は留まった。

また、高嶌委員より、来年から法学教育をめぐる状況が著しく変容することもあるので、まずは学部とロースクールそれぞれに求められる教育内容や問題点を洗い出すことが活動の出発点になるのではないか、との意見があった。

それに対して、野口委員、笠原委員より、法曹家の養成という従来の法学部教育の目標は、ロースクールに移ったこともあり、学部教育の目標を再検討することが迫られているが、例えば特定分野の専門的知識に強い学生を養成して企業に輩出することや、裁判所の導入するシステムを扱えるリテラシー能力や司法通訳能力を育成することなどが新たな目標として考えられる、との意見があった。その他に、新聞や雑誌等の記事や情報の信頼性を分析する能力を育成することが、今後の市民社会において求められていくとの意見もあった。

更に、事務局より、学生が市民的立場から法的に判断するための能力を身に付けるために、例えばサイバーコート等の遠隔システムを活用して、法曹家や社会人に授業に参画してもらうような仕組みができないか、との意見があった。それに対して、サイバーコートを導入した大学の目的として、学生確保という一面はあるものの、大学外の人材に授業に参画してもらうという側面もあり、また一般市民に対するリーガルサービスを通じて、社会に開かれたロースクールを目指す大学もあることから、社会との連携は大いに考えられるとの意見があった。

以上を踏まえ、吉野委員長より、今後ITを活用した法学教育においてポイントとなるものとして、サイバーコートを始めとした遠隔講義の運営方法と、ビデオ等のマルチメディア教材の活用方法などが考えられるが、研究集会を企画するのであれば、これまでのように複数のテーマで事例を報告するのではなく、一つのテーマに絞り、例えば実際の遠隔講義を集会中に実施してみてはどうか、との提案があった。ただし、外国大学と実施すると時差や同時通訳の問題などがあるため、国内大学間での遠隔講義として、継続して検討することとした。

最後に、事務局より、サイバー・キャンパス・コンソーシアムを通じて、国立大学も含めた大学間共同による遠隔模擬裁判を行うためのプロジェクトを企画していただきたいとの提案があったが、時間の都合上、次回以降改めて検討することとした。

なお、次回委員会では、高嶌委員の提案にあったように、学部とロースクールそれぞれに求められる教育内容や問題点を洗い出すこととした。