論文誌「IT活用教育方法研究」
 第11巻 第1号

− 概 要 −
 

研究論文

「系統的な情報処理教育による薬物動態の理解向上の試み」

 長崎大学   西田孝洋、和田光弘、伊藤 潔、丸田英徳、鈴木 斉、黒川不二雄

 薬物動態の理解向上を目指して、eラーニングを活用する系統的な情報処理教育を、長崎大学薬学部で試みた。情報演習科目を各学年に揃え、実際のデータをMicrosoft Excelを用いて解析する独自の演習教材を作成した。系統的な演習により、学習者の解析スキルは向上し、薬物動態への興味も高まった。また、学習者のeラーニングへの定着効果も認められた。3年次に薬物動態の講義科目を計算問題の解法例やドリルによるeラーニングで支援し、4年次に薬物動態実験とその結果を解析する演習を行った。考査の結果、学習者の薬物動態への理解度が有意に向上することが明らかとなり、eラーニングと実践的な解析演習が効果的であることが示唆された。さらに、演習の題材をアレンジすることで、他の学部・学科への応用も期待できる。

「学習者対応型知的チュータシステム」

 芝浦工業大学   横田 壽

 学生の理解度向上を目的にクラス編成と授業設計を行い、その後、入学時のプレイスメント・テストの成績と学期末の統一試験の成績を回帰分析した結果、微分積分を苦手とする学生の多くが自学自習の習慣がないことが判明した。 また、微分積分学習ソフトウェアを用いた授業を受けた学生の中には、途中で投げ出してしまった学生が一人もいないことも分かった。これより、コンピュータを用いた学習は自学自習に効果があると推測した。習熟度の低い学生に対して学習効果があるよく知られている教授法は、チュータによる一対一の学習法であるが、チュータによる一対一の学習は費用対効果の観点から現実的でない。そこで、チュータの役割を模した機能を微分積分学習ソフトウェアJCALCに組み込み、ブレンディド学習を行えば、習熟度の低い学生でも自学自習の習慣を身につけることができるのではないかという仮説を立てた。
  本論文では、この仮説が正しいのか検証する。そのための準備として、前期の統一試験で認定を受けることができなかった220人の中から、36人を抽出しJCALCを用いた学習を行った。その後、JCALCを用いた学生の線形回帰直線の傾きと、それ以外の学生の線形回帰直線の傾きの差の検定を行い、仮説の正しさを示した。

「ブレンド型学習による授業外学習の強化とその効果について」

 法政大学   鈴木 靖

 我が国の単位制度は、授業時間外に必要な学修を考慮して45時間の学修時間をもって1単位と定めており、例えば、通年で2単位となる外国語科目では、毎回2時間×30回=60時間の授業に加えて、毎回1時間×30回=30時間の授業外学習が求められている。しかし、最近の調査によれば、授業外学習の時間が1日1時間にも満たない学生が64.2%に達し、その形骸化が問題となっている。こうした現状を踏まえて、中教審が今年3月にまとめた「学士課程教育の構築に向けて」と題する答申案でも「学習時間の確保など単位制度の実質化」が大学教育の立て直しの柱の一つとして提起されている。本稿はこうした問題をICTの応用によって解決するため、授業同期型eラーニング・システムeHomework!の開発と導入による外国語科目の授業外学習の強化とその効果について検証したものである。

「コンピュータを用いた医療面接シミュレーションの学習効果」

 日本大学   中島一郎、 山崎晴美、 尾崎哲則、安藤 進、桑田文幸、大塚吉兵衛、松野俊夫

 我々は医療コミュニケーションの技能を高めるために、コンピュータ・シミュレーションシステムを開発した。本報告では同システムの教材としての教育効果について検討した。
  歯学部学生133名に仮想患者との会話文を選択して急性期の炎症疾患に関わる医療面接、診断および治療過程が進行するシミュレーションを実施した。学生の選択した会話文は交流分析に基づき自動的に分類され、その結果は最終画面で提示された。さらに教材のコンテンツに関するアンケート調査を行い、また試験の成績も検討した。
アンケートの評価点は高く、またシステム開発前の学年の成績と比較しても、試験の平均点は有意に高かった(p<0.01)。これらから、本システムは、診療のなかでの患者の心理状態に配慮した医療コミュニケーション能力の習得に役立つものと思われた。

「6年制薬学教育に展開する動画教材の開発と評価」

 名城大学   武田直仁、竹内 烈、橋爪清松、川村智子、野田幸裕

 自学自習を促進させるeラーニングシステムの実践に向けて、63の動画コンテンツ(総時間8時間35分)を講義や実習の基本操作や客観的臨床能力試験(OSCE)に活用するために制作した。「物理化学実習」、「調剤・医薬品情報実習」、「OSCE」のビデオにおけるアンケート調査で、「動画教材は役に立ったか」の5段階評価の平均値±標準偏差はそれぞれ4.17±0.784、4.84±0.770、4.14±0.760であり、83〜97%の学習者が「役に立った」と答えた。学習者は動画教材をDVDやWebで視聴したが、操作や手続きが簡便で高画質なDVDでの視聴を好む傾向がわかった。約7割の名城大学薬学部の教員は動画教材の制作に自ら携わってもよいと考えており、本取り組みをFDの一環であると認識していることがわかった。

「学習を広げるトピックマップ型e-Learningによる物理学入門」

 東海大学   松浦 執  

 著者が開発してきた従来の初等物理学e-Learningシステムでは、教材を1次元的に配列してコースを構築するものであった。しかし、物理学の知識の関連性は1次元的なものにはとどまらないため、このような学習コースのもとでは、知識の関連性が十分認識できないことが多かった。本研究では、学生が知識の関連性に基づいて学習できるように、初等物理学全般の知識の関連性を可視化したトピックマップ型ポータルを導入した。加えて、学習記録をトピックマップの項目名称の色彩で表示して、学習ポータル上に可視化した。各学習者が、物理の基礎5分野をどの程度幅広く学習しているかを評価するため、5分野の学習の非等方性の量を定義した。コース型ポータルとトピックマップポータルを併用した2006年春学期では、ほとんどの学習者の学習において、非等方性が0.8程度(非等方性最大値は1)の値を示していた。これに対し、トピックマップポータルのみを用いた2006年秋学期から2007年秋学期まででは、学習者によって、非等方性の値が0.1程度から1程度までの広い範囲にわたるようになった。以上から、トピックマップポータルの導入により、学習の多様性が生じることが示唆された。

「eラーニングによる協働型仮想業務体験実習の授業設計と実施」

 成蹊大学      筧 宗徳、渡邉一衛
 青山学院大学   玉木欽也

 経営工学分野の一つである「生産システム設計」の本授業は、経営戦略、生産管理の分野において、製造業を対象とした業務プロセス、生産管理のための知識・理論だけでなく、これまで大学教育で困難であった技法・手法、評価方法の理解とその応用能力の習得を学習目標とした。本授業は、シミュレーション技術と、協調学習の教育方法によりケーススタディによるモデル化した仮想企業を設定し、実業務をモデル化した仮想業務を、役割を分担した学習者同士が協働で体験することにより、技法・手法を利用した問題発見・解決能力を習得することが可能となった。
  本論文では、学習者の協働による仮想業務体験実習について「生産システム設計」の授業を例に授業設計・開発、実施、評価について議論する。

「BBSを用いてピアレビューとフィードバックを強化した情報リテラシー教育」

 桜美林大学   笠見直子

 文科系大学の表計算ソフトExcelを中心に学ぶ「情報リテラシーII」授業において、筆者は「ストーリーベースの教材、課題、ピアレビューとフィードバック」を統合して、三つのI(Interesting、 Intelligent、 Interactive)の要素を「3I」と称して組み入れた授業法を実践してきた。2007年度の授業(2クラス合計受講者98名)では、e-Learningシステムを導入し、「3I」を強化して授業を改善した。本研究は、BBS(電子掲示板)による、「3I」の特にInteractiveに関する1)効率的なピアレビューと、2)教員の速やかなフィードバックによる改善効果に注目して授業方法とその効果について示すことを目的とする。改善効果をアンケート、試験結果、LMSの学習履歴から分析した結果、LMSを導入した授業では、導入前に比べて学生のピアレビューやフィードバックに対する評価が改善された他、学習効果が高まったことが明らかになった。