論文誌「ICT活用教育方法研究」
 第13巻 第1号

− 概 要 −
 

研究論文


学習意欲向上を目指した課題達成型学習プログラムとグループワークの連動


 創価女子短期大学 折本 綾子、 南 紀子

  本研究では、課題達成型学習プログラムとグループワークを連動させた学習サイクルの実践とその成果を報告する。学習者がコンピュータの苦手意識を克服し、意欲的に自律学習に取り組めることを目的とし、授業内外の個別学習とグループワークを組み合わせた4つのステップからなる学習サイクルを考案して運用した。その結果、苦手意識のある学習者もグループワークで支援を受け、苦手意識を改善し、Excelの基礎・応用技術を習得した。協働のレポート作成を円滑に進めるため、オンラインのグループ機能を活用し、相互のグループワークの可視化を行った。その過程で、グループ内外の学びや評価から触発を受け、学習者の内省を促し、学習の質を高めた。グループの課題を達成しながら、コミュニケーション能力や問題解決能力を含む個人のICTスキルを向上させ、学習者の授業外週平均の学習時間も106分に増えた。


授業時間外の学習時間の増大による英語力の向上


 京都産業大学 ロブ トーマス、加野まきみ

 本稿では、言語習得に効果が広く認められている多読学習を全学的に導入することを可能にした、MoodleReaderというプログラムについて述べる。MoodleReaderは本学で開発した、ムードル上で動作するモジュールで、学生が行った多読学習を確認するための小テストを出題し、受験の際の成績、読んだ語数、読む頻度などを記録・管理すると同時に、学生による不正な利用を抑制し、自力で計画的に多読学習を行うための機能が多く組みこまれた学習システムである。毎年1年次英語コア科目履修者約2500人を対象に年度末に実施される同一の統一試験のリーディングのスコアを比較すると、多読学習導入前の2008年度と導入後の2009年度とでは、非常に大きな向上が認められ、MoodleReaderの有用性を示している。


LMSを活用した多人数授業におけるアクティブ・ラーニングの実践


  関西大学 岩ア 千晶、武蔵大学 中橋 雄

 本研究では、多人数授業である「メディア表現論」を事例に、 CEASのフォーラム機能を活用したアクティブラーニング(AL)をデザインし、評価を行った。多人数授業では学生は受け身になりがちであるため、学生の思考力を促す方策としてALを導入し、「多様なものの考え方」を知り、「自分なりの意見」を考える力の育成を目指した。
授業では、「立場により多様な考え方が存在する課題」を与え、個人で意見を考えさせた後、意見を発表させたり、グループで話し合ったりさせた。授業外には、学生がより多くの学生の意見を知り、時間をかけて課題を考えるために、フォーラムで意見交換をさせた。調査の結果、学生は授業やフォーラムで他者の意見に触れ、「多様なものの考え方」を知り、さらに自分の主張を検討するプロセスを通じて「自分なりの意見」を考えることができるようになり、学生の思考力を育む能動的な学習に関して一定の成果を得られた。


文章作成支援ツールによる日本語文章力育成


  青山学院大学 又平恵美子、竹内 純人、大野 博之、稲積 宏誠

著者らはこれまで、母語としての日本語文章力の育成における総合的な学習支援環境を実現するためのツールを独自に開発してきた。この日本語文章作成支援のための各種ツール群は、1)文章構成についてのルールや論理展開方法の理解、2)自発的に学習に取り組む精神的側面からの支援、3)他者を意識した文章作成と他者からの文章添削、4)学生が作成した文章の形式的なチェックと助言、という各学習フェーズに対応するものである。
本論文では、これらのツールの教育的な位置づけを明確化し、それを用いた授業実践を通じて、新たな教育方法を提案する。さらに、その成果として、学生の主体的な学習への取り組みの実現、人手に頼る添削指導の負荷軽減による教育効果の向上を示し、今後の展望を論じる。


ICTを活用した情報系科目における授業改善の取り組み

 
  千歳科学技術大学 林 康弘、深町 賢一、小松川 浩

 本稿では、千歳科学技術大学におけるICTを活用した情報系科目における授業改善の取り組みについて述べる。本取り組みにおいては、我々はブレンデッド型対面授業、eラーニングによる宿題、Webテストを通じて、学生らの学習取り組み状況を一体的に把握するためのWebベースのICT学習環境を構築してきた。一般的に、情報システムの詳細を理解するためには、情報技術に対する体系的な知識やスキルが必要不可欠である。構築してきたICT学習環境を活用することにより、我々はプログラミング科目において約三割の学生らの基本的な知識とスキルを向上することを可能とした。本取り組みにより、教育の質保証のための単位の実質化に向けた検討を行うことができた。


自律学習のための中国語総合教育システム"游"(You)


 成蹊大学 湯山トミ子、武田 紀子

 中国語人材の需要増大に伴い大学教養課程における中国語履修者が増加している。しかし、中国語の言語学的特徴、授業時間数の制約等により、中国語を使える人材が育成されていない。成蹊大学では、この問題を改善するために、2009年度より汎用性の高いWeb教材を複合利用し、短期間に質の高い基礎教育を行い、コミュニケーション力に高めるe-Learning活用、基礎力活用型教育"游"を実施している。"游"教育の特徴は、1)視覚情報の活用による中国語の言語学的特質に即した精度の高い音声教育、2)音声学習と語法教育の有機的連係、3)個人差に対応する授業完全同期型web教材を用いたBlended型授業運営、4)個人の学習状況を反映した演習問題の提供等、学習者の側に視点を置くエンドユーザ能動型システムによる自律学習を実現することにある。本稿は、"游"教育プラン&システムの特徴と現段階における検証成果について述べる。


日本人大学生の英語力養成のための統合型Online CALLシステム


 千葉大学 高橋秀夫 土肥充 久保田正人

 本研究の目的は、これまで千葉大学で開発されてきた英語コミュニケーション能力養成用Offline型CALL教材をOnline化し、インターネットを介して自由にアクセスできるよう拡張するとともに、従来1〜2年次学生の一般英語(EGP: English for General Purposes)学習用であった教材群に加え、専門英語(ESP: English for Specific Purposes)教材を開発し、本学で学ぶ学生であれば、一般教養、専門、大学院を問わず、時間・空間の制約のない英語学習環境を構築することであった。研究の結果、聴解力養成EGP教材10種、ESP教材4種、 語彙力養成EGP教材8種、 ESP教材7種に加え、各種専門分野の英語講義を収録したESP教材17種、論文作成用英文法講義ESP教材5種の計51種が開発された。開発された教材を半期の授業で試用し、その教育効果を測定した結果、EGP教材で55点、ESP教材で57点(推定)の上昇が確認された。


大人数講義の双方向教育を実現した授業支援システム


 阪南大学 花川 典子

 本学では2008年4月より、携帯情報端末を用いた大人数講義用の授業支援システムを授業に適用し授業改善を実施した。本システムの特徴はWifiとブラウザを装備するほとんどの携帯情報端末をクライアントとし、出席管理や小テストなどの基本機能に加え、学生と教員の授業中の双方向教育を実現するレッドカード機能やみんなのこえ機能を実現した。本システムの教育効果を確認するために、同一教員同一科目において、本システムを利用したクラスと利用しないクラスの2種類を設定した。それぞれのクラスで28回の授業の成績を比較したところ、論述式試験において本システムを利用したクラスの成績が良いことを確認した。また、アンケート結果においても70%以上の学生が理解度が向上したと回答した。


過去の学習データに基づく成績予測による教育指導の実践


 名古屋工業大学 伊藤 宏隆、舟橋 健司、山本 大介、内匠 逸、松尾 啓志、齋藤 彰一

 教員が学生の理解度や学習意欲を適切に把握することは難しい。理解度の低い学生が発見されるのは学期末の成績算出時で手遅れとなっていた。そこで、過去の受講生のデータをサンプルデータとし、現在の受講生のデータを用いて成績を予測し、落第候補者を早期に発見し教育指導を行うことで、落第者の減少が見込めると考えた。著者らは、ある授業において、出席データとCMSでの学習データを用いて成績予測を行い、学生を予測成績のレベルに応じて3つのグループに分け、学生にレベル別課題を課した。レベル別課題実施前後で、予測成績が改善した。また、最終成績算出後、前年度と比較したところ、成績Sの比率が増加し、失格者の比率が減少した。成績予測を基にしたレベル別課題実施について教育指導効果が確認された。


学生の相互評価によるプレゼンテーション能力向上


 名古屋学芸大学短期大学部 山本 恭子、南山大学 河野 浩之

 プレゼンテーション授業の改善方針として、1)標準的なプレゼンテーションの評価項目の設計、2)Webサーバーを用いた相互評価と集計、3)レーダーチャート化した相互評価結果の提供、4)自由記述データのテキストマイニングの4点に絞り、受講者46名(4クラス)に対し授業を実践した。相互評価結果を迅速に提示したことにより、学生は改善点を具体的に把握することができ、プレゼンテーション能力向上の動機付けを得ることができた。相互評価の中間発表と最終発表の得点の比較では、24項目中13項目(54.2%)で最終発表の得点が高く、プレゼンテーション能力の改善が見られた。自由記述データに関しては、テキストマイニングソフトKH Coderと統計ソフトRを用いたクラスター分析と印象語抽出を行い、抽出結果からプレゼンテーション評価への活用の可能性を確認した。