論文誌「ICT活用教育方法研究」
 第15巻 第1号

− 概 要 −
 

構造力学の理解を深める補助教材の開発とその効果について

日本大学 中山晴幸

構造力学の理解を深める補助教材の開発を行い、その学習効果を5年間に亘って確認した。開発した補助教材は、手にとって確認できるA5サイズの自己学習用パッド、Javaを利用して構造物の種類や複数の荷重条件でのせん断力図(SFD)、曲げモーメント図(BMD)イメージをグラフィック表示で確認できるサイトおよびPHPとデータベースを組み合わせた小テストを解答する形式の自己学習サイトである。

開発した補助教材の学習効果は、定期試験で実施しているSFD、BMDのイメージを解答する形式の試験結果と比較した。結果は、自己学習用パッドがSFDおよびBMDの座標系に関する間違いを減少させる効果があること。また、ICTを活用した補助教材は、複雑な荷重条件下での問題に対する理解度が高まるとともに、自己学習サイトにおける正答率が高い学生は、定期試験の合格率も高いことを確認した。

 

学際的チーム体制により開発した薬学6年制教育支援システムと主体的な学習時間の確保

北海道医療大学 二瓶裕之、和田啓爾、小田和明、中山 章、唯野貢司、千葉逸朗

北海道医療大学薬学部では、学生が主体的に学習時間を確保することを目的として教育支援システムを開発した。システムの特徴の一つが、本学独自の教育手法を細部まで具現化するため、教員が学際的に一体となり、すべてのプログラムを自作した点である。もう一つが、一貫した学びの連続性を保つため、特定の科目ではなく6学年すべての科目を対象とした点である。この取り組みにより、学年の枠を超えた事前学習と振り返り学習も定着し、また、授業時間以外の放課後や自宅、さらには、通学時間をも主体的な学習時間として確保されるといった教育改善効果が得られた。

今後は、北海道全域での展開も視野に入れて、本システムを薬学教育に関する情報共有基盤として発展させることができるように取り組みを続けたい。

 

プログラムの実行・評価機構を持つWeb教科書によるソフトウェア開発技能育成

芝浦工業大学 松浦佐江子

 近年IT技術が発展する一方、産業界ではソフトウェア開発技術者不足のみならず、ソフトウェア開発技術教育を受けていない技術者によるソフトウェアの品質低下という問題も生じている。産業界の要請に答えるために、大学はソフトウェア開発技能をもつ質の高い人材を産業界に輩出する仕組みをもつ必要がある。ソフトウェア開発技能を育成するためには、ソフトウェア開発で遭遇する問題解決プロセスを学習し、自分でソフトウェアの良し悪しを判断できる訓練が必要であるが、大学の学部教育カリキュラムだけでは、学習の機会が不足している。本論文では、学部教育カリキュラムに基づく体系的なシナリオベースの教科書とソフトウェアの良し悪しを評価する評価ツールの教材をWebブラウザ上で動作するプログラミング学習環境として提案する。

 

大学講義におけるコラボレーションサイトを活用した共同学習と双方向授業

東京工科大学 飯沼瑞穂、中村太戯留、千代倉弘明

 情報化の進展を受け、大学では情報通信技術(ICT)を通じて学生同士が学び合うなど、双方向で分かりやすい授業の実現が推進されている。大学教育では、講義科目の改善が必要とされているものの、知識伝授型の講義が中心である。本研究ではコラボレーションサイトを活用し、大人数授業での工学系の専門講義科目にコンテンツ制作教育と、共同学習を適用し、双方向型の授業に改善することを目的とした。本授業は、大学3年次の専門講義科目「コンピュータ造形」で、2012年春学期に実施した。コラボレーションサイトを適用し、共同学習と双方向型の授業を行って、コラボレーションスキルと情報スキルの習得の促進を試みた。その結果、授業外でも学生同士が容易にファイルやデータを共有し、当初の目的を達成できた。この双方向授業の実践によりドロップアウト率が12%から8%に減った。

 

プロセス可視型ポートフォリオ作成のためのカリキュラムについて

西日本短期大学 大隣昭作、西川真水、金澤弓子

 緑地環境学科では、実践的な実習内容が表現できるポートフォリオの作成が求められる。そこで、学生の学びのプロセスを可視化したポートフォリオの作成の支援を行った。学生全員がポートフォリオ作成を行うために、カリキュラムを見直し、ポートフォリオに反映できるコンテンツを検討した。それにより、学科教員全員がポートフォリオ作成の指導に関わることができるシステムとなった。また、クラウドの活用により、インターネット環境下で、効率良くポートフォリオを作成することが可能となった。その結果、プレゼンテーション能力やパソコン技術が底上げされ、さらに就職への意識の早期促進へとつながったと考えられる。また、作成されたポートフォリオを再評価し、教育内容の改善に反映することで、さらに今後も相乗効果が期待できる。

 

保育でのメディア活用イメージを豊かにするカリキュラムと協調アノテーション機能の開発

                                              園田学園女子大学       堀田博史
                                              秋田大学             吉崎弘一
                                              大阪大学             松河秀哉
                                              関西外国語大学短期大学部 森田健宏
                                              四天王寺大学短期大学部  松山由美子

 本研究では、保育でメディア活用する経験が少ない保育者養成校の学生が、多様な保育展開のイメージを抱けるようなカリキュラム、及び学習者間でのアイデアや意見を共有できる協調アノテーション機能を開発した。

開発したカリキュラムおよび協調アノテーション機能の教育効果を、学生91名を対象に質問紙調査で測定した結果、カリキュラムでは、授業で学んだ内容が実際保育者になったときに役立つか、実践してみたいかの質問項目で5段階評定で各4以上、協調アノテーション機能でも、他の利用者との協調アノテーション機能を用いた情報共有の役立ちが4以上と高い値になった。

開発したカリキュラムや機能を活用することで、保育でのメディア活用の経験が少ない学生でも、協調的な学びのスタイルが有効に働き、保育での役立ち感や実践想定イメージを抱きやすくなる知見が認められた。

 

Web教材による英語運用能力の基盤スキルの習得

東洋大学 湯舟英一、峯 慎一

 著者らは、勤務校の必須英語科目を通して、英語運用能力の二つの基盤スキル「速読力とボトムアップ・リスニングスキル」の習得を促す目的で、Adobe Flashを用いた2種類のWeb教材を開発した。本論文では、これらの教材開発の工夫と、教材を異なるレベルのクラスで4カ月間週1回の授業および学外での予習復習で使用し、チャンク単位での音読練習やシャドーイング訓練の学習効果について報告する。事前事後テストによる効果測定の結果、速読力習得のためのWeb教材については、理解スコア、読解速度および読解効率において、統計上有意な学習効果が認められた。一方、リスニング用Web教材では、上位・下位クラスにおいてディクテーションスコアが有意に向上した。さらに、授業アンケートの結果からも、ICTの導入による英語運用能力の基盤スキルの向上と学習への動機付けの向上が認められた。

 

社会人育成を俯瞰する短大型入学前教育の構築

湘北短期大学 小棹理子、伊藤善隆、岩崎敏之、高橋可奈子

 本学の教育理念である「社会で本当に役立つ人材の育成」を2年間という制約下で実現するため、高校3年次の進路決定後の2〜3月に入学前授業を実施し、早い段階からの獲得すべき能力の理解や、勉学意欲・基礎能力の向上を目指した。授業は、大学や社会で必要とされる「コミュニケーション能力」を、「[読・書・話・パソコン]により他人とともに仕事をこなす力」と定義し、ノンバーバルコミュニケーションを含めた日本語コミュニケーションや、情報通信社会におけるコミュニケーションツールを用いてグループで問題を発見・解決し、プレゼンテーションを行う構成とした。また、言語・非言語能力や一般常識など基礎学力向上のため、部分的にeラーニングも導入した。受講者に自己評価や振り返り、他者との比較による客観的な評価の時間推移を測定した結果、短期間での取り組みでは、他人に対する働きかけ力やチームで働く力の向上に有効であることが認められた。