特集
情報化時代の教育(2)
服飾デザイン教育における教材のデジタル化
小倉 文子(女子美術短期大学服飾デザインコース教授)
1.経緯
本学の服飾デザイン教育において、CADのデジタル教材を作成したのは、平成10年のことである。CAD教育をスタートさせて、ちょうど5年目であった。
これまでは、CADを利用することにより、作業の合理化、データの蓄積、マーキング(裁断の型入れ工程)、グレーディング(サイズの展開)といった、効率化を最優先するCADの使い方に重点をおいてきた。しかし、これでよいのだろうか。服飾デザイン教育において最も重要なことは、学生一人一人の豊かな感性、イメージの発想といった創造的能力を引き出すことである。
デジタル教材を作成した目的は「CADを創造性豊かにする道具」として利用することにあった。
2.内容
どのようにしたらCADは創造性豊かにする道具とすることができるのか。その方法を私は「基本データの自由な発想による変形」と考えた。そのためには、まず「基本データ」となるマスターパターンを決定する必要がある。それも、あらゆるデザインに対応できるマスターパターンをである。この基本となるマスターパターンを「基本シルエット」と呼ぶことにした。そして、基本シルエットをデータベース化することから始めた。
身頃の原型(3種)、袖(4種)、衿(5種)に分類し、それらの組み合わせにより60種類の基本シルエットを作る。この基本シルエット1〜基本シルエット60をCADにデータベース化し、教材として利用する。感性を主体とするパターン設計をCADで実施することに重点を移すのである。
本学では1年次のデザイン、パターン設計はすべて手作業で行い、基礎知識と技術を学ぶ。2年次ではCADの操作方法を修得する。専攻科(3年次)、研修生(4年次)に対してはデータベース化したCD-ROMを使って三つの方法により授業を行う。
- 学生個々のデザインにより、基本シルエット1〜基本シルエット60の中から一つ選択し、どこまで自由にバリエーション展開できるかを条件とする。
- 一つの基本シルエットを選択し、何通りにもバリエーション展開できることを条件とする。
- 一つの基本シルエットを選択し、どれだけデザインを進化、発展させられるかを条件とする。
上記によって、どの方法においても、学生は自由な発想とチャレンジ精神で「パターン展開」を試み、作品を制作するようになった。
3.デジタル教材を利用したメリット
デザインとアートの世界が接近している今日、多様なデザインへの対応が迫られている。このデジタル教材を利用することにより、誰もが容易にパターン展開を考えることができ、デザインのバリエーションが無限に広がる。また、他者のパターン展開したものや、一部のデザインを利用し、拡張することも、さらに創造性を加えていくことも可能である。まさにデジタル情報の共有化である。
4.今後の課題
作成したデジタル教材であるCD-ROMは、あるメーカーのある機種に対応するものである。今後は、これを他社の他機種にも利用できるようにすることが必要不可欠である。
学校間、企業間、学校と企業の間等、デジタル情報の共有化が進むことを願う。
|
|
図1 CD-ROM「デザインワーク60」 |
【目次へ戻る】
【バックナンバー 一覧へ戻る】