教育学における情報技術の活用
鈴 木 慎 一(早稲田大学教育学部教授)
モノ対モノ関係この関係の派生的な諸関係は学問の諸分野で論議されているが、その相関は極めて見えにくい。ところが、バーチャルリアリティが技術的に可視化されると、見えにくかったそれらの相関を具体的にビジュアライズすることができるようになるだろう。統計数値以上に具体的に「何か」を示せるのではないか。
モノ対ヒト関係
ヒト対ヒト関係
(1)事例―1
中学生のころから天文少年で、独りで観察していたH君は、あるとき天体望遠鏡に興味を示された書道の先生に望遠鏡の視野を見せたことによって、先生のとても嬉しそうな表情に励まされ、自分も嬉しくなった。そして彼は、理科離れが進んでいると言われる今日の子どもたちに、何とかして自然を学ぶことの楽しさを知らせたいと願い、始めたことが天文教育に携わる人々との共同研究であり、そのネットワーク作りであった。
先例としてH君が学んだものは、カリフォルニア大学バークレイ校で試みられていたHOU(Hands-On Universe)という、高校生のための理科教育プログラムである。現在、このプログラムには、アメリカ、スウェーデン、オーストラリア、ドイツ、日本が加わっている。このプログラムでは、インターネットを通じて、遠隔地にある天体観測用望遠鏡を用いてネットワークに参加したものが自分自身の観測を行うことができるようになっている。用意された画像処理ソフトを使ってデータを処理し、データの可視化や解析が行える。
用意されているプログラムの内容は興味深く、いくつかの作業課題、例えば、木星の運動を追跡すること、銀河の写真から超新星を見つけ出すこと、散開星団から恒星の進化について考察することなどは、単に主題として興味深いばかりではなく、作業が周到に教育的に計画されており、教育学を学ぶ学生にとっては、実地に学習計画やカリキュラムの開発と評価を行い、かつ、理論的に考えるよい機会になっている。さらに、取り上げられている内容に即しつつ、既存の諸教科を学ぶように構成されているところから、今日言うところの総合的学習とは何かを同時に考え学ぶことができる。
このプログラムを体験しつつあるH君は、作業が生徒の興味を中心にしていて、結果的に生徒が新しいことを体験することができるようになっており、そのことがこの共同学習のなによりの特徴だと評価している。教員は、そこでは協力者なのである。一方的に教え込むという古いタイプではない教師がそこには確かに活動している。H君の体験は、教育学演習の中で、従来の専門諸分野(教育内容論、教育方法論、教師論等)を本質的に再検討する機会と内容をH君のゼミ仲間に供するだけでなく、指導にあたる私にも貴重な研究動機を供してくれている。
(2)事例―2
Fさんは、自分が韓国国籍であり、韓国人の日本と日本人に対する感情、日本人の韓国と韓国人に対する感情の具体的なありようを見つめて、そこから二つの国々の民衆がどうすれば本当に理解しあえるかを探りたいという問題を提起した。日韓歴史教科書問題研究会等の専門家による研究の積み重ねを学びながら、Fさんはインターネットによる様々なアプローチを試みた。
日本の学校と韓国の学校の間に情報交流の提携が結ばれている場合や、研究所間の交流を含め、事前に韓国の学生や研究者との間で意見の交換を行い、その後、実際に韓国を訪れ、約半年の間、韓国の民衆の間に溶け込むように工夫し、努力し、貴重な体験と記録とを持ち帰った。卒業論文発表会で、Fさんが学生仲間に与えた感動は、聞いたものにも、聞かせた当人にも、終生忘れがたいものになったと思う。もし、この発表が、韓国側の若者や教師あるいは市民が同時に参加できる方法を駆使して行われていれば、その感動はもっと深められたに違いない。
この場合も、私たちがエスノメソドロジーと呼んでいる比較教育研究方法の活用と修正について、情報の立体的総合的活用(多くの代理経験とかつて呼んだものが含まれている)が、どれほど重要であったかを私たちに教えた。