教育学における情報技術の活用
楠元 範明(早稲田大学教育学部教育学科専任講師)
辰己 丈夫(神戸大学発達科学部人間環境科学科講師・早稲田大学メディアネットワークセンター非常勤講師)
原田 康也(早稲田大学法学部教授)
(1)既存の紙・黒板・視聴覚機器のマルチメディア化
情報化がもたらすマルチメディア教材は、既存の内容・課程を前提とした教育の体系においても効果的に機能し、既存のメディアとの置き換えですむ部分も大きいので、この「教科教育方法の情報化」は初期の情報化過程において急速に普及すると思われる。発展系として、地理的・時間的制約を衛星や高速インターネットを用いて解消する遠隔(通信制)高等教育(大学院を含む)なども実現されている。
(2)学生主体の学習観への変化
旧来の視聴覚メディア利用教育においては、教員が授業の中心であり、学生は受身の観客として位置付けられ、メディアは提示装置的として使われる傾向があったが、情報ネットワークとコンピュータの出現は、学生が直接参加・関与することができるという点で本質的に異なっていることに起因して実現される。
(3)情報化に伴う学習課程の変化
社会における情報化の進展とメディアの進歩にあわせて授業形態の変化が、教育の見直しから教育の前提となる社会的価値観をも変える可能性がある。たとえば学問的にあまり本質的でない事項でも、これまでは正確に記憶しているかどうかが重要になることがままあった。しかし、情報化に伴う知識情報データベース構築と、随時ネットワークに接続できる携帯端末、自然言語処理を持つ高速検索システムという手段を容易に用いられるようになると、これらの記憶は無価値なものになりかねない。オンデマンド講義配信システムの実現とともに、記憶型テストも出席も成績評価に使うことはできず、学習評価の判断基準の再検討が教育学的にも現実的にも必要となってくる。そのためこれまで言われていた「メディアいかんにかかわらず学習課程・結果は変化しない」は、この段階で成立しなくなる。
(4)教育内容・教科課程の情報化
教育現場を含む社会全体の情報化の進展に伴い知識や記憶に対する価値判断が変わり、各教科の教育内容・教育方法の大幅な再検討が余儀なくされる。これにより「教科の内容・教育課程の情報対応」がより進むことが想定される。
参考文献 | |
[1] | 楠元範明, 辰己丈夫, 原田康也: 「情報教育」と「教科教育の情報化」. 早稲田教育評論Vol.14, 早稲田大学教育総合研究所, in press,2000 |
[2] | 原田康也, 辰己丈夫, 楠元範明: 「情報教育」の情報化.情報処理学会研究報告Vol.2000, No.20, pp.41-48 情報処理学会,2000 |
[3] | 文部省:情報化の進展に対応した教育環境の実現に向けて (情報化の進展に対応した初等中等教育における 情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議最終報告), 1998 http://www.monbu.go.jp/singi/chosa/00000301/ |
[4] | 辰己 丈夫, 楠元 範明: 『情報化社会に参画する態度』の扱い方について. 情報教育シンポジウム論文集, pp.167-174, 情報処理学会,1999 |
[5] | 原田康也:情報倫理教育はいかにして可能となるか. 電子情報通信学会情報通信倫理研究会, 信学技法 FACE97,1997 |
[6] | Takeo TATSUMI, Yasunari HARADA: Why information ethics education fails. IFIP WG3.4, INTERNATIONAL WORKING CONFERENCE, Educating Professionals for Network-Centric Organizations pp.55-63 ,1998 |
[7] | 辰己丈夫, 原田康也: 新しい「情報倫理」の目指すもの. 情報処理学会「人文科学とコンピュータ」特集号Vol.40, No. 3, pp.990-997 ,1999 |
[8] | Takeo TATSUMI, Yasunari HARADA, Noriaki KUSUMOTO: Information Ethics Education as Science Education and Simulated Network Emergency Exercises for Information Teachers. International Conference on the Social and Ethical Impacts of Information and Communication Technologies, CD-ROM:ISBN88-900396-0-4, Rome, Italy,1999 |