情報教育と環境

日本大学理工学部の情報教育と環境



1.はじめに

 日本大学理工学部は、私立大学としては2番目の理工系学部として1928年に設立され、現在12学科が設置されている。また、大学院17専攻、短期大学部3学科が併設されており、総学生数は約13,000人である。
 キャンパスは東京都千代田区にある駿河台キャンパスと、千葉県船橋市にある船橋キャンパスに分かれており、7学科の大学院を含む3年生以上、約5,500名が駿河台キャンパスで学び、全学科1、2年生と短期大学部を含む7,500名が船橋キャンパスで学んでいる。
 情報教育関連教室は両キャンパスに設置されており、教育用コンピュータ教室、リテラシー教室、マルチメディア教室の3種類に分かれる。
 本稿では、それぞれの教室の設備概要を説明し、また運用に際してのいくつかのトピックスについて触れる。また、以下に情報関連教室の移り変わりを簡単に示す。
1971年 駿河台、船橋キャンパスに研究用電子計算機センター設置
1989年 電子計算機センターにTSS端末を利用した教育用コンピュータ教室を併設
1992年 WIDEネットワークに接続
1993年 教育用コンピュータ教室をUNIXマシンに機種変更
1996年 PHSネットワークカードを利用したノートコンピュータ50台による実験教育開始
1997年 ノートコンピュータ550台による実験授業開始
1998年 ノートコンピュータ2,700台によるコンピュータリテラシー教育開始
マルチメディア教室を開設


2.教育用コンピュータ教室

 日本大学理工学部では、研究用の計算機施設として1971年に駿河台、船橋両キャンパスに研究用電子計算機センターが設立された。これらの計算機センターに併設される形で、1989年にコンピュータの言語教育を目的とした教育用コンピュータ教室が誕生した。当初、メインフレームの端末として使用されていたが、理工学部が1992年にインターネットと接続したのを受け、1993年より順次UNIXコンピュータに置き換え、言語教育だけでなく、ネットワーク教育も可能な演習室へと生まれ変わった。現在は、駿河台キャンパスに2教室140台、船橋キャンパスに3教室200台のUNIXコンピュータが整備されている。
 授業は各学科専任教員が担当しており、内容はFORTRAN、Cなどの言語教育を始め、電子メール、Webブラウザーを中心としたネットワーク教育、X Windowやコマンドを使ったUNIX教育、独自に開発したプログラムを使用したグラフィック教育など多種にわたる。
 現在、駿河台キャンパスは約3分の1が、船橋キャンパスでは約2分の1が授業で利用されており、それ以外は夜8時の閉館まで学生に開放されている。


3.リテラシー教室

 ノートコンピュータが比較的安価になり、Windows95という使いやすいOSが一般的になってきた1996年に、教育用コンピュータ教室のデスクトップによる教育と並行して、ノートコンピュータによるリテラシーの実験教育を開始した。これは、主に教員の習熟と教育方法の模索、教育効果の評価などを目的としたもので、初年度はPHSネットワークシステムをインストールしたノートコンピュータ50台による実験教育を行った。50台はネットワーク教育、リテラシー教育のほか、外国語教育などの少人数教育に利用された結果、学生が携帯し、授業や自由時間、また自宅でコンピュータを使うというノートコンピュータの特性が教育に活かされることが確認された。翌1997年には550台のノートコンピュータを購入し、4学科による実験授業を行った結果、当初の実験教育の目標が達せられたと判断し、翌年のカリキュラム改定に合わせ、全学科1年生科目として「コンピュータリテラシー」が設置された。コンピュータリテラシーで使用するノートコンピュータは1年生在籍者数を大学で一括購入し、1年間貸与する形式を採用した。
 コンピュータリテラシーで使用する教室は、150名が着席できる教室を7教室用意し、各机からネットワークが利用できるよう情報端末と電源設備を整備した。また、コンピュータ教育には欠かせない画面提示装置と大型スクリーンを全室に完備した。教室には赤外線を利用した無線LANシステムも導入しており、特別な配線の必要なく、学生がいつでもネットワークを利用できるシステム構成となっている。
 一方、ノートコンピュータを携帯する利点として、自宅でも大学と同じ環境で学習ができることが必要と考えられ、学生が自宅からネットワークを利用できるよう、ダイヤルアップ接続用の回線を開設した。現在は両キャンパスにINS1500をそれぞれ3本整備し、約150回線を学生、教職員に提供しており、レポートの提出、情報収集等に利用されている。
 コンピュータリテラシーでは、一部担当教員により執筆された教科書を用いて全学科共通の教育を行っている。内容は、コンピュータのハードウェアの概略説明から、Windows OSの使い方、ワープロ、表計算の他、電子メール、Webブラウザーといったネットワークの利用までとなっている。


4.マルチメディア教室

 プレゼンテーションソフトを利用した教材提示やホームページの検索情報提示など、コンピュータ関連教育だけでなく、通常の授業においてもコンピュータやネットワークを利用するよう授業形態が変化してきている。これに合わせ、1998年には両キャンパスの54教室に、液晶プロジェクタやネットワーク設備、ビデオ関連機器などのマルチメディア機器を整備した。これらマルチメディア教室は主に通常の授業で使用されるため、天井にシーリングユニットを設けた赤外線方式の無線LANを導入することにより、ネットワーク設備の配線が通常の授業の際に邪魔にならないように設計されている。赤外線受信用のカードは3,000枚用意し、統計教育などの授業受講者や希望者に貸与している。


5.情報倫理教育の必要性

 UNIXマシンを導入した当初は、まだインターネットが一般的に普及していなかったため、利用希望者には放課後に開催した初心者講習会を受講させ、受講者にのみアカウントを発行していた。講習会では「使い方」だけでなく知的財産権やネットワークセキュリティなどの「情報倫理教育」も同時に行い、真のユーザ教育を目指した。しかし、数年後には受講希望者が急激に増え、担当教員だけでは負担が多く、講習会開催が不可能となった。また、ネットワークを利用した授業も増加し、授業担当者からの要請もあり、簡単な手続きだけで在校生全員にアカウントを発行することになった。
 学生が気軽に使えるコンピュータは、利用者のすそ野を広げることにはなったが、同時にセキュリティレベルの低下を招き、罰則規定の制定などが望まれるようになったり、システムのセキュリティ強化などを余儀なくされたりと、使い勝手の悪いコンピュータ環境を生むことになった。
 講習会を丁寧に実施した初期のユーザが、その後、ボランティアグループとして管理やユーザサポートを手伝う人材に育ったことを考えると、講習会の効果は絶大である。一方で、ノートコンピュータを接続すれば誰でもネットワークが使える教室の開放など、「敷居の低いネットワーク環境」の整備も推進しており、今後、効率よいユーザ教育の方法を考える必要があろう。


6.OSの選択

 UNIXマシンを導入してから、両キャンパス6教室は各2回のリース切れに伴う機種変更を行った。10数回に及ぶ機種変更時期に毎回議論になるのは、どのOSを採用するかである。
 当初はネットワーク教育にはUNIXが欠かせないOSであったが、Windows95、NTの登場によって、UNIXでなくともネットワークは利用できる時代になった。また、ハードウェアも安価であり、使いやすいアプリケーションソフトが揃っているWindows OSは無視できない選択肢となった。また、PC UNIXの普及により、UNIXとWindowsのマルチブートマシンなどもあり、教育目的、方法を十分に検討する必要がある。
 2000年4月の機種変更に伴う選定時に際しても同様な議論があったが、Windowsによる教育は常時携帯して個人環境が自由に構築できるノートコンピュータによって行い、教育用コンピュータ教室のデスクトップ機はセキュリティに強いUNIX OSを採用し、教育目的によりOSを明確に分けることになった。


7.社会動向に合わせた情報環境の提供

 ノートコンピュータを大学が一括購入し1年生に貸与する方法は、情報教育のみならず大学教育にコンピュータを積極的に利用するための導入としては有効な方法であった。しかしながら、貸与、返却の手続き、故障時の対応等は事務処理として担当者の負担が大きい。1999年4月に大学で一括購入したノートコンピュータを学生に販売したところ、同機種を1年間無償貸与するにも関わらず、約400人の学生が購入した。そこで、2000年4月にも積極的に購入を推奨する予定でいる。
 一方、ダイヤルアップ接続用回線は当初20回線からスタートしたが、利用者の増加により話し中が多かったため、150回線に増設した。しかし、最近はプロバイダの低価格化が進み、当時の予想ほど回線の利用率は高くない。
 このように、数年のうちにノートコンピュータやプロバイダ加入料金が驚異的に安くなるなど、情報を取り巻く社会の動向はとてもスピードが速い。大学は状況をはっきりと見極め、時代に合った情報環境を学生に提供する必要があると考える。


8.実験的運用から本格安定運用に向けて

 理工学部では研究用の計算機センターから教育用コンピュータ教室、リテラシー教室など、教育目的に応じた情報関連施設の充実を順次図ってきたが、それら教育システムを支える基盤ネットワークやネットワーク上で提供されているサービスなどは、研究用に整備されたキャンパスネットワークを利用してきた。キャンパスネットワークは1992年のインターネット接続以来、教員有志の努力により年々整備が行われ、現在では駿河台ATM、船橋FDDIを基幹ネットワークとして、両キャンパス約30棟のすべてのフロアからネットワークが利用できるようになっている。ネットワーク敷設当初に目標とした「すべての部屋からネットワークが利用できるようなハードウェアの整備」は達成されたと考えられるが、コンピュータ教室やマルチメディア教室がネットワークに接続された現在、トラフィックの増大によるトラブルも発生するようになり、十分なネットワーク設備とはいえなくなってきた。
 理工学部では、2000年4月に研究用汎用機、教育用コンピュータ教室、キャンパスネットワーク、ならびにデータベース管理などの情報関連システム全体を管理・運用する情報教育研究センター(仮称)の設立を予定している。今後、情報教育研究センターを中心にギガビットネットワークを基幹としたネットワークや情報関連施設の整備、先に挙げた管理・運用面の整備など、安定した情報環境を提供するため、現在準備中である。情報教育研究センターについては、機会があればまたご紹介したい。

文責: 日本大学理工学部次長・教授 高田邦道
  情報化委員会委員長・教授 横内憲久
  計算機センター講師 登川幸生

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