巻頭言

情報教育環境の整備と課題


讃井 浩平(上智大学学務担当副学長)



 好むと好まざるとにかかわらず、急速なIT革命の影響はわが国の企業形態のみならず生活様式をも大きく変えつつあり、私立大学の教育においても、教育のデジタル化、メディア化が時代の要請となっている。上智大学では、5年前に学内に光ケーブルを敷設し、集中型から分散型コンピュータシステムに移行し、昨年度で事務系システム開発計画の第一期を終了した。教育系システムについても文部省補助金によって、その整備を急ピッチに進めた。この秋には学生20人にコンピュータ1台の割合にまで整備され、コンピュータを待つ学生の長い列は解消されることになろう。このように本学もインフラ的には情報先進大学における情報環境に近づきつつあるが、その教育内容の充実はこれからの課題である。
 最近本学では、コンピュータを活用した語学教育のためのCALL(Computer Assisted Language Learning)教室の新設と教材開発を行い、今年度からこれを使った授業を開始した。CALLシステムは初習言語の教育には極めて有効である。しかし、今後いろいろな初習言語のCALL教材を開発するには膨大な費用と時間と人手、そして著作権問題などを取り扱う部署の新設などを必要とし、解決すべき多くの課題を抱えている。
 本学は、建学の精神に基づき「国際交流」の充実に力を入れ、国際社会に貢献できる人材の育成を目指している。海外の大学との単位互換制度による交換留学協定校は100校を超え、今後は海外の協定校との遠隔教育システムによる授業科目の交換などを視野に入れて、どのようにして教育にIT革命の成果を利用するかが本学における個性化の重要な要因となろう。
 教育のデジタル化はこれから避けて通れないが、インターネットの普及に連れて溢れる情報をいかに取捨選択するか、ユーザーとしていかに効果的に利用するかなどの「コンピュータリテラシー教育」の充実とともに、知的財産権やネットワークセキュリティなどを含んだ「情報倫理教育」も不可欠となってきた。本学では現在、心身のバランスのとれた人材育成のために必要な全学共通科目の人間学、保健体育の必修科目とともに、高度情報化社会で活躍するには不可欠な「コンピュータリテラシー教育」、「情報倫理教育」を含んだ必修科目「情報基礎」の新設を検討している。しかし、文系学生全員に情報教育を必修科目として課すためには、教員の意識改革も必要となる。また、昨今は隣の席にいるにもかかわらず電子メールで用件を伝えるのが珍しくない状況であり、コンピュータ・コミュニケーションが進めば進むほど、対面・コミュニケーションの不得手な学生が増えてくることを憂慮せざるを得ない。そこで、人と人との対話を大切にすることも同時に教える必要がある。
 今後、私立大学にとって情報環境の整備は財政を圧迫するばかりでなく、教育のデジタル化に伴う上述の課題等があり、それらの解決に真剣に取り組まねばならない。このため本学では、総合メディア・センターを新設し、若手教員や大学院生の協力を得て、次世代情報システムの開発やメディア教材の開発を絶えず組織的に行う予定である。特にこのメディア教材開発では、従来と異なったInstructional Designが必要であり、専門家の養成が急務である。
 情報を取り巻く社会は過去に我々が経験したことのない速さで変化するので、大学はその動向をよく見極め、その時々に合った情報環境を整えることが大切である。


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