投稿
社会・人文系大学におけるネットワークの運用管理
−関西国際大学の事例紹介−
山下 泰生(関西国際大学メディアセンター)
康 敏(関西国際大学メディアセンター)
齋藤 勝洋(関西国際大学メディアセンター)
坪田 芳範(関西国際大学メディアセンター)
1.はじめに
急速なネットワーク普及がみられる今日、高等教育機関においてネットワークの積極的利用が急増しつつある。これらの利用が円滑に行われ、教育効果向上という目的を実現するには、安定的なネットワーク、教育現場からの要望に迅速に対応しうる運用管理が必要不可欠である。そのためシステム全体の保守から日常管理業務まで一括して業者に委託する大学が多く見られる。しかしこの場合、ネットワークの安定運用という面では高い効果が望めるものの、運用維持費のコスト高を招く恐れがある。また、業者による教育現場への直接のサポートは難しく、ネットワークを利用する授業の積極的展開に困難が生じうる。本稿では、このような問題の改善の試みとして行われた関西国際大学のネットワーク運用管理方針転換の事例を紹介する。
2.運用管理方針転換の経緯
関西国際大学(以下本学)は平成10年4月に開学した約1,000人規模の社会・人文系単科大学である。学内には電子メール、WWW、プロキシ、ファイルサーバなどのサービスを提供するシステムが前身の関西女学院短期大学時代に敷かれた旧ネットワークをベースに構築されている。その構成としてファイルサーバ5台、専用DHCPサーバ1台、POPサーバ1台、計7台のWindowsNTサーバとDNS、プロキシ、メールと外向けWWWサーバ、計4台のUNIXサーバがある。
情報リテラシー教育は全学学生に実施しているため、開学年度のネットワークの利用率は98.2%に達した。平成11年度現在の利用率は教職員利用者の増加によって99%になっている。学生の利用はPC教室にある214台のパソコン及び500個の情報コンセントに接続したノートパソコンから可能であり、平成11年度現在、休日を除いた正規授業期間中にネットワークへの1日平均の接続件数はPC教室から489件、情報コンセントから174件である。
本ネットワークの運用管理はセンター長以下5名で構成されるメディアセンター情報処理部門によって行われている。短期大学時代のネットワークは現在より小規模で利用率は50%に至らず、ユーザアカウントの登録・削除などの日常管理業務を除き、システムのハードウェア保守は年間契約で業者に委託し、ソフトウェアの保守、更新及び新規導入は必要に応じてスポット的に委託していた。
しかし、現在のネットワークは複数業者によって構築されており、様々な問題が現れてきた。開学に伴うネットワーク改築作業時に旧ネットワークの設定が十分把握されていなかったため、新規導入費用以外に旧ネットワークに関するソフトウェア変更などの費用が発生した。また、年度末の情報コンセントの増設工事でも同様な問題が発生し、ソフトウェア更新費用が発生した。このような複数業者により構築されたネットワークでは、障害発生の場所と原因を断定する技術力が管理スタッフに要求されるようになった。
教育面ではホームページ公開やネットワーク経由での教材提示などの要望がしばしばあったが、外部委託では構築費用が発生するため、平成10年度は要望に応じることができなかった。また、平成11年度にはY2K問題が浮上した。業者との幾度かの打ち合わせにより、Y2K問題対応を外部委託する場合、運用経費は前年度より大幅に上回ることが明らかになり、教育現場からの要望に十分に対応できず、コストのみ毎年増加する予想がなされた。このような運用管理状況を改善するため、情報処理部門はソフトウェアの保守、更新及び新規導入を外部委託から学内による運用管理に切り替えることにした。
3.運用管理の低コスト化の実現
平成11年度中、学内による運用管理の下で、PPP接続の認証システムRadiusサーバの立ち上げを始め、Y2K問題への対応、ネットワークサービス関連ソフトウェアのバージョンアップ、ネットワーク利用状況の分析ツールの導入、学内情報公開・教材提示のためのWWWサーバの構築などといったソフトウェア関連の保守、更新及び新規導入が情報処理部門のスタッフによって行われた。
前年度と比べて大きな変更がなされたが、運用経費が年度毎に更新するハードウェアの保守費用(約1300万円)を除いて前年度を下ったことが明らかとなった。Y2K問題は対応費用が当初500万円と推定されたが、実際にはメモリの増設を含めて僅か24万円で対応できた。それ以外の変更についても約200万円の外部委託費用が推定されたが、運用管理方針の転換により経費は発生していない。本学の運用管理方針の転換は今後増加が予想される教育現場からの要望に対して、引き続き低コストでのサービス提供を維持することを可能にした。
4.教育へのフィードバック
運用管理方針の転換は、教育へのサポートでも新たな展開を可能とした。
教育現場からの要望に柔軟に応じることが可能になったため、ネットワーク教育のニーズを的確に把握できるようになった。Radiusサーバの構築によりPPP接続のセキュリティが増強されたほか、本学学生の自宅からの利用状況が把握可能となった。これにより、現在学内で検討中の遠隔指導・教育を低コストで実現できる可能性をもたらした。また、学内WWWサーバの構築によって利用者の情報公開とネットワーク経由の教材提示が可能となった。また情報コンセント接続による利用時のノートパソコンに関するトラブルに一層迅速に対応できるようになった。
さらに管理スタッフの大半は教職関係のスタッフでもあり、ネットワークの運用管理の経験を直接ネットワーク教育に活かすことが今後大いに期待できる。これらの経験をカリキュラムに直接反映し、専門知識以外の技術を持つ人材の育成のためにゼミレベルで興味のある学生にネットワークの知識を教授することを検討している。
5.今後の展望と課題
昨今の教育市場の狭隘化の中、各大学はより特色を訴える戦略を採用している。従来、大学のような非営利組織ではその特性から、学生などのニーズをフィードバックすることが困難であった。しかし運用管理方針の転換によって実際のネットワーク上で必要とされるスキルや情報、教育サービスを的確に把握できるようになり、直接的に講義などを通して学生にこれらを提供できるようになった。さらに必要なサービスを低コストで迅速に稼働させることが可能になり、ネットワーク運営をより正確に効率的に行えるようになった。
このサービスの質的向上には大学が高等学校の生徒や企業、在学生のニーズを的確に捉え、これに対応するというマーケティング的要素を見ることができる。ネットワーク利用方法に関する教育がコンピュータリテラシー教育の一環として行われつつある中で、このようなマーケティング的概念を持った運用管理が必要不可欠となるであろう。
以上から円滑な利用、教育現場からの要望への対応、かつ低コスト維持を実現するネットワークの運用管理には外部委託を最小限に留めることが有効な選択の一つであると結論づけられる。
しかしながら、このような運用管理を維持していくためには管理スタッフの教育・育成が依然として今後の課題の一つである。また今回の運用管理方針の転換はスタッフ構成の変更せずに行われたものであり、管理スタッフの負担を増やしたことも改善すべき課題である。
【目次へ戻る】
【バックナンバー 一覧へ戻る】