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社団法人 私立大学情報教育協会
被服学情報教育研究委員会
この度、被服学情報教育研究委員会では、被服学関連の授業にコンピュータやネットワークがどのように活用されているかの実態を明らかにし、その結果を授業運営の工夫や改善に利活用できるようにすることを目的にアンケート調査を実施したので報告する。
1) マルチメディア情報機器がよく利用されている授業は、アパレルCADを利用したパターン設計関連が38%、CGを活用したアパレルデザイン関連が33%、テキスタイルデザイン実習が12%であり、この3分野で全体の84%を占めている。他の分野での活用はこれからと思われる。 2) 授業科目名で最も多いのは、アパレルCAD演習であり、CG演習やテキスタイルデザインが続くが、その他の授業科目名は多岐にわたっている。 3) 授業形式は、大半が演習(62.1%)と実習(15.5%)である。 4) 必修、選択の別では、選択が65.5%、必修が25.9% で、三分の二が選択である。 5) 単位数は、2単位が最も多く全体の56.9%を占める。 6) 時間数は、2コマ180分が46.6%、1コマ90分が34.5%である。 7) 授業期間は半期が58.6%、通年が32.8%であり、通年の多くは90分授業である。 8) 対象学年は、四年制大学では2、3年生中心、短期大学では1、2年生がほぼ同じ割合となっている。 9) 受講者数は40名以下が82.4%と大半を占める。その中で10〜20名、20〜30名、30〜40名はほぼ三分の一ずつを占める。 10) 授業の支援スタッフについては、1〜2名が41.4%であり、TAがいるのはわずか1.7%、支援スタッフ無しが6.9%もあった。 11) コンピュータ1台あたりの学生数は、一人が37.9%、1〜2名が24.2%であり両者を合わせても62%程度にすぎず、一人1台の状況にはほど遠い状況である。 12) テキストについては、約40%が無回答であり、適切なものがない現状が推察される。
(2)教室の情報環境
1) 被服専用のコンピュータ室を有するところは53.4%である。また共用のコンピュータ室は55.2%、自習用のコンピュータ室は62.1%が保有しており、普及が進んでいると推察される。 2) 授業で使用する設備として、パソコンは20〜40台使えるところが70.1%、プロッターは1〜5台有するところが53.4%だった。CADの専用機を持っているところは36.2%、そのうちの約6割は20台前後を有していた。一方CGの専用機が使えるところは17.2%にすぎず、普及はまだまだのようである。 3) コンピュータ教室の設備としては、情報コンセントを39.7%、インターネット接続を46.6%、スクリーンを65.5%、プロジェクターを36.2%の大学が有していた。今後徐々に改善されていくと思われる。
(3)授業での使用状況
1) コンピュータをどのように活用しているかについては、下表のように講義のための資料作成や、実習の補助機器として使用されることが多いことが分かった。CADやCGの専用機として使われるのは、その他の中の約1割と非常に少ない状況である。これらを設備するには膨大な費用がかかることが普及を妨げていると思われる。
コンピュータの活用目的(複数回答) 回答率(%) 1.講義のための資料作成 70.7 2.実習補助機器として 69.0 3.学生とのコミュニケーション手段として 3.4 4.スライドやOHPの代わりとして 20.7 5.その他 34.5
2) 授業期間中全面的にコンピュータを使用する場合の内容としては、右表のようにパターンメーキング、CGが多く、企画・デザイン画やグレーディング、マーキングがこれに続いている。
内 容(複数回答) 回答率(%) 1.企画・デザイン画 29.3 2.CG 36.2 3.テクスチャーの作成 15.5 4.パターンメーキング 44.8 5.グレーディング 25.9 6.マーキング 25.9 7.その他 10.3
3) 授業期間中の一部にコンピュータを使用する場合の内容は、下表のように多岐にわたっている。また、多くの大学では授業の一部にコンピュータを用いている場合が多いことが分かった。
コンピュータの活用目的(複数回答) 回答率(%) 1.衣服デザイン(画像によるシミュレーション) 32.8 2.パターンメーキング 44.8 3.体型と衣服との関連 5.2 4.グレーディング 27.6 5.テキスタイルデザイン 25.9 6.カラーシミュレーション 39.7 7.画像データベースの利用 8.6 8.アパレル生産管理 0 9.衣生活 1.7 10.温熱と衣服 1.7 11.卒論などのデータ集計、解析 17.2 12.文献検索 6.9 13.プレゼンテーション 29.3 14.インターネット 19.0 15.その他 3.4
4) 授業にネットワークを利用している教員は1割程度である。その内容は課題やレポートの提出、学生の個人指導や連絡である。他の大学との交換授業を実施している教員は一人であり、本格的にネットワークを活用した授業は皆無に近いことが確認された。しかし昨今のインターネットの急速な普及状況をみると、授業にネットワークを取り入れ始めるのも時間の問題と考える。
(4)教材環境について
1) 使用のソフトは大半が既製のものを利用しており、専用ソフト(41.4%)が多いことが分かった。 2) デザインデータベースについても同様に既製のものを利用している場合が多いようである。 3) 教材作成のスタッフについては、担当教員一人で作る場合が60.3%、学内協力での共同製作が27.6%、学内・他機関との共同製作32.8%であり、教員の負担が重くなっている現状が分かった。 4) 教材の共同利用についてはWeb上で利用できるものが10%にも満たない状況にあり、今後の課題として検討していく必要がある。 5) 既製の使用ソフトには次のようなものがあげられた。
No. ソフト名 No. ソフト名 1 Adobe Photoshop 16 Auto CADR14 2 Adobe Illastrator 17 FCAD II 3 Jun-4DBox 18 Norway 4 ATD-PA 19 Shina ext 5 ATD-DE 20 Canvas 6 ATD-KN 21 イメージペイント 7 PAD System 22 Painter5 8 シノマ 23 Photo Magic 9 パトリエ 24 UP SERIES 10 クレアコンポ 25 スーパーα 11 DigiServer 26 スーパータヴロー 12 EXPERT PATTARN SYSTEM 27 サイクロン 13 AVL-Weave maker Pro 28 ポリゴンエディター 14 AVL-Colorin 29 着物デザインシステム 15 AVL-Weave Maker One 30 着装シュミレーション
(5)情報機器使用に際しての授業運営上の課題
以上のように教員は人手、予算、時間、情報技術の不足による多くの問題を抱えながらも鋭意努力していることが明らかである。よりよい情報環境を築いていくために、本調査結果を踏まえて、皆で知恵を出し合うことが大切と考える。
1) ハード面のメンテナンスについては、「専門家に外注する」が58.6%、「常駐の専門家が行う」が29.3%、「自分で行う」が20.7%だった。大部分の利用者がハードのメンテナンスについては専門家を必要としていることがわかる。つまり支援組織の必要性を示唆している。 2) ソフト面のメンテナンスもハード面と同様に、自ら行うものは27.6%しかおらず、授業に活用していくには身近に専門家の存在が必要である。 3) コンピュータ使用の授業で困っていることを自由に記述してもらったところ、次のような意見が寄せられた。
- スタッフが不足している。どうしても個別指導が必要となるので。
- ソフトが高額で使えない(パターンメーキング、CG)。
- 適切なソフトがない。
- パソコンが不足している。
- 学生1人に1台のパソコンがほしい。
- 授業の時間数が足りない。
- 学生のパソコンの技術がまちまちである。
- 教材費がかかりすぎる。
- 機種がどんどん新しくなるので、トラブルのあったときに対処が困難である。
- 新機種と旧機種が混在していて指導に時間がかかる。
- 予算が足りない。
- 故障とトラブルのメンテナンスに苦慮している。