私情協ニュース1

平成12年度 教育の情報化フォーラム開催される



 平成12年度「教育の情報化フォーラム」(情報教育問題フォーラムを改称)が、6月9日(金)、10日(土)の2日間、京都産業大学において開催された。今年度の参加者数は過去最高となる約420名余り(128大学、24短期大学、1高専、賛助会員16社)にのぼり、今後の授業改革の視点から「教育の情報化」に関わる問題について幅広い討議が行われた。

 第1日目に開催された全体会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)の司会のもと、戸高敏之私情協会長(同志社大学)による開会挨拶、そして会場校を代表され京都産業大学新田政則学長によるユーモアを交えた挨拶が行われた。その後、フォーラム運営委員の紹介に続いて、今年度の全体集会では二つの事例紹介が行われた。
 初めに、インターネットの基本コンセプトである「つながり」と「共有」をその設計思想として、大学教育の「革新」を意図して開発された教育支援システムである「TIES」について、帝塚山大学経済学部中嶋航一教授を中心に、「インターネットによる教材の共同利用:TIESを利用した5大学プロジェクトの現状と展望」と題した講演が実演・デモを取り入れられながら行われた。TIESを利用した演習講義は、学生たち一人一人のための知識の「創造と体系化」の作業場であり「自己実現」の発信場所になるということ、そして大学や大学教員の競争ルールは「本質的な教育サービスの中身」にあるということ、そこでTIESやそこから発生する様々な付加価値や権利を一般に解放していることを、氏は強調された。なお、会場からは具体的なTIESを導入する際の費用等の質問が出された。
 二つ目の事例は、マルチメディアを用いて教育の質と学生のモチベーションを高める授業方法の一つとしての「合同授業」の可能性を検証する目的で行われた「遠隔地講評会」についての事例紹介が、「ビデオ会議を用いた遠隔地授業、遠隔地講評会の試み」と題して、東京工芸大学工学部眞鍋信太郎教授を中心に行われた。遠隔地授業・遠隔地講評会などを通して、学生に作品発表の機会を与えることによるやる気/モチベーションの喚起とともに、学外者からのチェックを受ける機会を設けることで、教員、担当者に対してもよい意味での緊張感を創出でき、授業効果にも好影響が出ている。このような遠隔地授業・遠隔地講評会の効果と可能性を確認するとともに、本実験を通して得た、技術的な課題や会議ソフトの改善案、さらに授業の方法やシステム構成の工夫などについての報告も一部なされた。なお、本実験を進めるに際しては、実験に参加された東京工芸大学と東海大学の関係者、そして私情協関係者や賛助会員企業からの専門的技術的な支援も受けて進められたものであるとの紹介がなされた。
 このような事例紹介を聴聞し、教育改革に向けての数々の取り組み姿勢とともに、教員の資質としてのプロジェクトマネジメント能力などを考えさせられた報告であった。
 事例報告に続き、井端事務局長による私情協活動報告として、平成12年度の事業計画、振興財団補助金申請についての補足説明等が行われた。

 全体会後に開かれたテーマ別自由討議は、第1日目4テーマ、第2日目4テーマの分科会が設定され、フォーラム運営委員各位による司会のもとで進められた。少ないところでも約30名程、半数の分科会では100名を越える参加者のもと、熱意のある、実質2時間半ほどの時間を有効に使った活発な自由討議が行われた。数学的な一意の解を探るのではなく、今年もフォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索する。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題および関連情報等について協議する。」ことが全体的に活かされたフォーラムであったといえよう。
 なお、第1日目の分科会終了後に、私情協を代表され戸高会長(同志社大学)よりの開宴の挨拶、会場校を代表されて新田政則学長による挨拶の後、懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることができた。
 また2日目の分科会終了後の午後に、京都産業大学のキャンパスツアーが組まれ、多くの方々がキャンパス見学に参加された。

 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった京都産業大学の関係教職員の皆様に敬意を表します。

(文責:立正大学 山崎和海)


テーマ別自由討議(6月9日)


A:これからの大学図書館の役割と展望

 最初に、長野由紀氏(国際基督教大学図書館長)より以下のとおり課題提起をいただいた。
 国際基督教大学では、2000年9月から、電子情報サービスを主体とする図書館新館が完成する。これまでの紙媒体の資料を提供する旧図書館の建物と併設されるが、新館には旧来の図書館の機能を再検討し、これからの大学にふさわしい新しい図書館機能をもたせている。例えば、授業や学習を支援する紙媒体による情報提供に加えて、ネットワークのアクセス、電子メディアを提供する電子情報サービスの提供を主体としていることと、図書館が情報教育を支援する機能をもたせたことである。具体的には、インターネットを使ってInformation ResourcesやAcademic Resourcesを検索する方法やコンピュータの基本的な操作などの技術を教育する機能を持つ組織となったことである。さらに、これまで人手の必要だった図書の貸し出し返却を合理化し、地下に図書80万冊が収納できる自動化書庫を設置したこと、情報教育を支援するための情報端末を120台設置した広い空間や、50台の情報端末が配置された研修用マルチメディアルーム、三つのグループ学習室などがある。これらは、図書館の従来の枠組みにとらわれない電子メディアを活用するための学習環境の場を提供し、情報の受信・発信ができる新しい図書館を目指している。
 IT革命が社会で叫ばれ大学の情報教育にも期待が集まっている昨今であるが、大学全体のIT化を促進するには、大学図書館は要となる組織である。学内LAN、インターネットなど情報環境の整備が進み、多様な電子資源や電子教材も充実してきた。このような状況で学生が情報機器や資源を有効に使い、教育や研究を活発に行える環境を作るには、図書館の新しい協力が必要である。とかく保守的な大学図書館のこれまでの機能の中で、教育を具体的に支援することを打ち出された国際基督教大学の試みは斬新であり、他大学への良い影響を与えると考えられる。
 図書館がオリエンテーションの一環として、新入生に対して、図書検索を含むコンピュータの基本操作を教え、学内外の情報を活用できるようにすることについての反対の意見はなかった。むしろ、これからの大学の情報教育の内容をより充実していくべきであるという考えが参加者の共通の見解であると思われた。

(文責:関西学院大学 雄山真弓)


B:バーチャルユニバーシティ構築のための実証実験と教育研究コンテンツ開発への取り組み

 本分科会では、2件の課題提起を基礎に質疑・討論を行った。まず、玉木欽也氏(青山学院大学経営学部教授)田中正郎氏(同大学経営学部助教授)より、青山学院大学で1997年度からスタートしているACC(Aoyama Cyber Campus)プロジェクトの成果と実施状況について報告していただいた。ACCは情報処理振興事業協会が推進する「教育の情報化推進事業」における「バーチャル・ユニバーシティ構築のための実証実験プロジェクト」の一つである。青山学院大学のシステムでは、教育ソフトウェアや授業支援体制を整備し、仮想企業環境の構築を基礎にした「サーバービジネス協調型演習」の教育コースと、初・中・高等教育を貫いた「マルチメディア型総合学習」の教育コースを設けるとともに、「情報化教育基盤システム」を開発行っており、国内の諸大学および各種教育機関から注目を浴びている。開発したいずれのシステムもその教育上の有効性が検証されたとの報告があり、2000年度からはACCIIをスタートさせ、国内外での実験を行いつつ、より洗練されたシステムの構築を目指しているとのことである。
 第2の課題提起では、安藏伸治氏(明治大学政治経済学部教授)より、明治大学で構築された『Oh-0! Meijiプロジェクト』の試みに関する報告があった。本報告では、アメリカなど海外の大学におけるホームページ等の利用の現状を踏まえながら、明治大学で開発している教育研究コンテンツの特徴、サポート体制、およびその基礎となる情報イントラネット構築について報告があった。
 本分科会には103名の参加者があり、課題提起者と会場の参加者の間で活発な質疑や議論が展開された。システム構築のおける大学と企業の協力関係、日本における教育パッケージの販売の可能性、教員におけるコンピュータ・ネットワーク利用の現状、学部横断的なプロジェクト実施上の苦労・問題点、ホームページ制作に対する教員の義務や反応、ホームページへの教材掲載と学生の授業態度へ影響、著作権、コンテンツ作成の費用、特に人件費などが主な質疑の例である。
 課題提起者の発言の中で、システム開発で目指しているものは、バーチャルユニバーシティや遠隔授業でなく、対面授業を支援するのが基本であり、それを基礎にしたサイバー大学を目指しているとの発言は印象的であった。

(文責:専修大学 齋藤 雄志)


C:Webを使った学習支援型授業−ホームページと電子メールを活用した大学外とのコラボレーション−

 まず、本分科会の課題提起者である妹尾堅一郎氏(慶應義塾大学助教授・知的資産センター副所長)より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の社会調査法の授業では、ホームページと電子メールを活用して、4〜5名ずつのグループによる調査プロジェクトを実施しており、その授業概要についての報告いただいた。
 本授業の狙いは、グループによる調査プロジェクトを体験させることにより、「社会的意味探索法」を習得させることである。この授業の特徴の一つは、グループごとに進捗状況や調査データをホームページにアップロードして、それを常に更新することにより、グループ同士が相互に研究内容を高めていくような仕組みを作ったことである。また、スタッフが電子メールによる指導や支援を適宜行うことである。SFCでは、この授業を「デジタルメディアを活用した学習者志向の学習環境の構築と運用、並びにプロジェクト型の授業運営法の開発」と位置付けて、大学の新しい授業形態の試みとして捉えている。
 さらに、毎年新たな試みを加えレベルアップも図っている。その一つに、学生の調査プロジェクトに社会人のサポータと上級生によるSA(Student Assistants)を正式に組み入れて、グループティーチングを図った点が上げられる。プロジェクトごとのホームページによる進度報告と電子メールによる指導は非常に高い効果を上げている。社会人サポータ導入の意味は、学生の自主的学習を支援する「学習支援者」として、従来の学内教員やSAだけではなく大学外部の人材を導入したことである。この実験の試みによる成果は、次の3点である。

  1. 社会人サポータの指導は、プロジェクトの充実に非常に大きな貢献があった。プロジェクトのテーマによっては、社会人サポータは教員より幅広い情報をもっていることも多い。このような知識を学生の学習支援に活用できたことである。
  2. 学生自らが「作品作り」を行う「環境」を設定し、支援者と共に学生を支援し、調査結果のレポートの報告会を通しての「評価」という3段階により、知識伝授から学習支援への転換が図れたことである。
  3. 講義、ホームページ、電子メールのメディアミックスにより情報社会における新しい「教育モデル」を提案できたことである。
 課題提起者の熱意のこもった事例報告を受けて会場は大いに盛り上がり、その後の質疑や討議も活発に行われた。参加者にとって、これからの教育の場、教育支援について参考となる事例であったが、一方では、大学の規模や環境の異なる事例も今後は紹介する必要性が感じられた。

(文責:武蔵大学 梅田 茂樹)


D:大学教育における情報技術と授業・教育システムとの関わり

 本分科会は、標記テーマのもと、吉野 一氏(明治学院大学法学部教授)山岸忠雄氏(東海大学政治経済学部教授)安藤裕明氏(愛知医科大学情報処理センター助教授)田辺 誠氏(神奈川工科大学システムデザイン工学科教授)の4名の話題提起者によるパネルディスカッション形式で行われた。
前半では、各氏からそれぞれの分野(法律、経済、医学、機械工学)における教育の情報化に関して、具体的な事例(データベース等の整備、コラボレーション型遠隔講義実験など)の紹介と今後の課題について報告があった。後半は、これらの報告をふまえてディスカッションが行われた。
 学問分野やアプローチの違いを反映し、それぞれの取り組みは多様であったが、少なくとも以下の2点については、同様のテーマを共有していることが明らかとなった。

  1. 知識「伝達」型教育からの脱却
     各氏の報告で共通した認識として、これまでの知識詰め込み型・記憶中心型の教育ではなく、問題解決能力・思考能力の育成が重要であることが指摘された。また、専門性の高い応用分野のみならず、学習の動機付けをふくむ基礎的能力やコラボレーション、コミュニケーションに関する能力の育成を情報技術によって支援することが課題としてあげられた。
  2. 知識ベース・データベースの整備と活用
     思考能力を育む一方で、過去の事例(ケース)やリファレンスを有効に活用することの意義が指摘された。こうしたネットワークリソースの活用は、アクセスやデータ共有の問題など、取り組むべき課題は少なくないが、これからの教育のあり方を考える上で極めて重要といえる。

 分科会には90名余の参加者があり、活発な意見交換があった。教育の情報化は、それぞれの学問分野に固有の問題としてではなく、さらに広い意味で大学という「場」の問題として再認識することで、今後の方向性がより明確になると思われる。

(文責:龍谷大学 加藤文俊)



テーマ別自由討議(6月10日)


E:CALLを活用したマルチメディア教育への取り組み

 上智大学ではCALLプロジェクトが企画立案されてから約3年、教材開発実験・導入準備段階を経て1999年度後期から「CALL教室」が本稼働した。課題提起では、田中幸子氏(上智大学外国語学部助教授・CALLシステム担当主任)より「CALLを活用したマルチメディア教育への取り組み」のテーマで、プロジェクト管理、教材開発を中心に、このCALL プロジェクトの概要説明から始めた。さらに田村恭久氏(上智大学理工学部専任講師・情報科学教育研究センター所員)から、より一般的な遠隔教育のトレンドとの関連や今後の教材開発のあり方等についての説明があった。
 具体的には、開発実験・導入準備段階を経て得られた、学内でマルチメディア教材を開発し、安定運用・継続的更新を可能にするための課題認識(目標値の明確な設定と開発作業関係スタッフ間の共有、役割分担と責任範囲の規定、開発プロジェクトの管理スキルの蓄積など)が重要との指摘があった。また、このプロジェクトの特徴として

  1. 図書の電子メディア化や電子教材開発・授業展開を目的とする「総合メディアセンター」の一部として今後展開される。
  2. 学生グループを組織し、学内に教材開発の技術が蓄積・継承される体制作りを考慮している。このために50−70名の学生グループを組織し、教材開発は主にこの学生グループが担当する。また、このグループのメンバーは、教材作成ばかりでなく、教員や学外の専門家(学生の技術指導)との連絡やグループメンバーの調整をするコーディネータの役割、CALL教室利用相談などを行っている。
  3. 開発した教材はAICC(Aviation Industry CBT Committee)のガイドラインに準拠したWBT(Web Based Training)型が主体であり、TCO(Total Cost of Operation)を削減できるメリットがある。
などが強調された。
 その後、両氏のプレゼンテーションへの質問・討議へ移り、多くの問題で議論が行われた。主な質問・討議内容は以下の通りである。  なお、このセッション参加者の約20%が何らかの形で、CALLやマルチメディア教材の作成・利用経験者であった。

(文責:阪南大学 市川隆男)


F:大学教育とインターンシップ

 本分科会では、松浦敬紀氏(多摩大学経営情報学部)により、同学の情報系3年生を対象に実施しているインターンシップの詳細な説明および過去2年間の実績の紹介があり、併せて次のような課題が提起された。

  1. 実施の際、大学の横並びの組織に囚われると手続が複雑になり、機能しない恐れがあるので、トップダウンで組織化する方が良い。
  2. 安い労働力として実習生を受け入れたり、就職時の採用ルートとして利用する企業もあるので、インターンシップに対する企業側の体制を把握する努力が大学側にも必要である。
  3. 事前に実習生と企業側が十分話し合い、実習内容を詰めておく必要がある。
  4. 派遣学生には指定した情報系科目の履修を課しており、比較的成績の良い者が多いが、大学側と企業側での情報環境の差等により、事前に補講等の準備が必要になる場合がある。
  5. インターンシップの成績評価用に報告書を実習生に提出させるとともに、企業からも実習生の評価報告書を提出してもらっている。前者についてはより詳細に記入するよう書式を改めたり、指導する必要がある。後者の評価が低い項目は企業にその理由を問い合わせ、評価の参考にする必要がある。
 以上の課題提起に続き、熱心な質疑応答と意見交換が行われた。以下は主な討議項目である。  その他、会場からも各大学における事例や意見が多数披露され、参加者数は26名と少なかったものの、関心の高さを実感させる分科会であった。

(文責:武蔵工業大学 松山 実)


G:イントラネットを利用した教育システム導入実験

 情報リテラシー教育をはじめ、基礎教育レベルで学内ネットワークを教育支援に活用していく試みは、多くの大学で次第に一般化しつつある。しかし、専門教育における取り組みは、学部や学科単位で一貫した教育システムとして実践されているところはまだまだ少ないのが現状である。
 早稲田大学理工学部経営システム工学科では、この問題に積極的に取り組み、学生のノートPC必携を前提として、学科内イントラネットを軸に、専門教育全般にわたる教育システムを構築し活用している。
 まず最初に、この教育システムの構築ならびに実際の教育に直接携わってこられた、森戸 晋氏(早稲田大学理工学部教授)より、専門教育システムの基本設計理念、教育環境、教材開発の基本思想や具体的な教材内容、教育方法等をご紹介いただくとともに、学生の評価を踏まえた教育効果や問題点等について課題提起をいただいた。また、学生のノートPC必携に係る諸問題についても詳細にご紹介いただいた。参加者の関心は、学生のノートPC必携やこれに伴う教育環境に関る問題に集中したが、概ね以下のような意見交換がなされた。

  1. ノートPC必携にかかわる諸問題
    ・専門教育全般でノートPCを活用した授業を展開する場合の教室等における情報コンセント等の整備について
    ・必要なソフトウェアをノートPCへインストールする際の問題について
    ・ノートPCを必携にした場合の2年次以降の専門教育での利活用について
    ・ノートPCを必携にした場合の学生からみた不満要因について
  2. 学科レベルでの専門教育への導入について
    ・TAの不足など専門教育導入の際の諸問題について
    ・学科単位で実施する場合のコンセンサスや教員間のコラボレーションについて
  3. レポート管理システムおよびその効果について
  4. 外部人材の活用について
    学部や学科単位で、専門教育の教育支援環境として、ネットワークをはじめとする情報環境を活用していくことは、教育効果や授業の多様性を向上させる上で、きわめて有効であることが改めて確認された感があるが、同時にこれを実践する上で、施設設備を含め教育環境の構築整備等について、様々な諸問題を解決していく必要があることも実感した。

(文責:長崎総合科学大学 横山正人)


H:キャンパスのデジタル化とインターネット社会

 インターネットの普及により、社会が急速に変化していく中で、大学においても教育環境や事務業務の改善にインターネットを利用した取り組みがなされている。本分科会では、穂積和子氏(神奈川大学経営学部助教授)より、日本の大学におけるキャンパスのデジタル化を阻害している要因について課題提起が行われた。まず、イリノイ大学を例にした米国におけるキャンパスのデジタル化の現状が紹介された。次に、日本の大学でデジタル化が推進されないことについて、大学を取り巻く要因(電話料金の高さ、国の施策の遅れ、教育素材の流通の遅れ等)、大学内部の要因(情報公開に対する抵抗感、上層部の認識不足、学生教職員が利用できるネットワーク環境の未整備、教職員の情報技術レベルの低さ、知識提供型の教育への固執等)、教材開発(教員の負担、支援態勢の未整備、著作権等)に分けて課題提起が行われた。これらの阻害要員に対するイリノイ大学での取り組みについて、教材作成支援組織が存在し、情報提供や各種のサポートが選られること、優秀な教材を作成すると表彰制度があり教員の評価に加えられること等が紹介された。
 この報告を受けて、イリノイ大学の取り組みについての質疑応答を行った後、提起された問題について討論を行った。フロアーからは大所高所に立ったテーマから、実際に直面している問題点の指摘まで、幅広い意見が寄せられた。主なものは次の通りである。

  1. 一体、キャンパスのデジタルかとは何であるのか。何を目指しているのか。
  2. 教員の雇用形態や制度の違う日本では、紹介されたような方式がうまく機能するのか疑問である。
  3. キャンパスのデジタル化が進むと、学生が学校に出てこなくなるのではないか。
  4. 最近の学生は議論ができないといわれるが、メールを導入すると活発な議論ができるので、情報機器でのアシストが重要ではないか。
  5. コストがかかるのをどうするのか。(これに対しては、学生へのBenefitの問題であり、大学の評価に関することとして捉えればいいのでなないか、学生が集まればよいのではないか、といった意見があった)
  6. 作成した教材の著作権はどこに帰属するのか、教員が他大学へ移った場合どうなるのか。(これに対しては、私情協でガイドラインを作成中であることが、私情協事務局長より紹介された)

(文責:成蹊大学 飯田善久)


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