巻頭言
高橋 敏夫(拓殖大学副学長)
21世紀の扉が開かれた。この世紀がどのような歴史を刻むのか、どのように変化していくのか、多くの人が興味を持っていると思う。特に、大学という教育の世界に身を置いていると、われわれが関わった若者達が、どのように21世紀を切り開いていってくれるかに、特別の関心が湧く。併せて、少子高齢化社会がますます進行する中で、今後予想される社会システムの大きな変革が、20世紀から21世紀へ人類の財産として引き継がれた、IT(Information Technology:情報技術)を中核として引き起こされるであろうと予想するとき、これらの関連からも、より一層の関心が深まる。社会システムの危機を救済するのも、窮地に追い込むのもIT革命に深く関係すると考えるからである。
IT革命は、ここ20年の間に、これまでの社会システムを根本から変革してきた。特に、企業環境への影響は、熾烈な競争を生き抜くための効率向上や省力化、そして、新しいビジネス創造への切り札として導入・活用されてきた。これら企業努力の結果の特徴は、多くの場合著しく成功した事例と、そうでない事例に分極化している。成功した企業の事例に共通することは、企業の高い戦略性とコアコンピタンス(中核的な能力)、そしてITの本質をよく理解し、それを巧みに活用した相乗的効果が現れた場合が多いことである。
大学にとってIT革命は、どのように位置づけるべきであろうか。少子高齢化は、入学人口の激減に繋がり、大学間競争の激化からはじまる大学ビックバンが、予想を遙かに上回るスピードであらゆる範囲に押し寄せている。企業経営環境の激変を、もはや対岸の火事として見ることはできないであろう。IT革命を如何に活用するかは、企業とは質的に多くの相違はあるものの、難関打開に先行し実践・努力した企業に学ぶことが多々あると思う。何よりも重要なことは、大学としての使命、そして、コアコンピタンスは何であるかを原点に立ち返って、大学人全員が真摯に考えるべきだと思う。大学の使命は、それぞれの大学がもつ「建学の精神」に基づく知識創造のコアとなる人材の育成であろうと考える。
IT革命は、その効果とインフラストラクチャ(以下インフラ)整備に強い相関が認められる。私情協は、共通インフラ整備の効率的運用とIT活用のためにも、その舵取り役として、今後も重要な役割を果たさなければならない。
21世紀は、知識と創造の時代。ハードウェアを中心とするインフラ整備から脱皮して、ソフトウェア中心にシフトすべき成熟期に突入したことを認識すべきである。過去のイノベーションが証明するように、地に足の着いた変革は、ハードウェアよりソフトウェアである。大学は、活用を含めた広義のデジタルデバイドが生じることなく、教育・研究をより効果的にできるようなインフラ整備と活用を率先して、かつ継続的に実践していく必要がある。同時に、地域社会、国家、そして国際社会などグローバルな範囲で情報発信をして、創造と英知に満ちたソフト的インフラ提供をして問題点を解決し、「対岸の火事」を鎮火させるようなリーダシップを取れる人材育成をしなければならないのではないだろうか。