特集

ITとセルフラーニング

 学生への魅力ある、きめ細かな教育を行うため、各大学では規模の違いはあるにせよ、授業の事前事後学習、シラバスデータベース、教員と学生とのコミュニケーションなど、情報技術を活用しながら様々な教育サービスに取り組み、より特色ある大学を目指している。
 今号と次号では、情報技術を活用し教育環境を構築している大学の実践例を事前事後学習、つまりセルフラーニングを軸に、システムの機能や運用管理、教材作りについて紹介する。



サイバーキャンパス基盤システム(青山学院大学)

田中 正郎(青山学院大学経営学部助教授)



1.教育サービスの低下とコミュニケーションの不足

 私立大学においては、特に社会科学系学部での授業では、国公立大学の場合と比較して、1クラスあたりの学生数が多い傾向にある。1クラスあたりの受講学生数が多いと、講義時間中における学生との質疑応答の機会が希薄になり、教師側で相当の工夫がなされない限り、講師側からの一方的な講義になりがちである。また、小テストやレポートを課しても、テスト採点作業やレポートに講評を加えたりする作業、テストやレポートの返却作業など、多人数になるにしたがい急激に教師側の作業負担が増大し、クラスのサイズによっては教師の能力を超えてしまうという問題がある。
 そのため、多人数クラスにおいては、小人数クラス以上にやらなければならない小テストやレポートの回数が、逆に減りがちになる。これでは学生個人の学習履歴を把握した成績評価や学習指導が難しい状況にあるといえる。つまり、学生に対する教育サービスの低下やコミュニケーションの不足が課題といえる。
 青山学院大学における教員は、多人数クラスに対する講義、昼開講制とともに夜間開講制の学部教育、社会人を含む大学院教育を兼務しているばかりでなく、地理的に相当離れたキャンパスでも授業を担当している場合がある。そのため、教員としては効果的な教育をしたいという意欲があるものの、キャンパス間の移動時間や教育サービスにかかわる作業時間が過大になっているという課題がある。
 そこで、オンデマンドな教育環境を整備することによってこれら課題を解決しようと取り組んでいる。その取り組みをAMLプロジェクトと呼び、教育の情報化によって、教師の個人的な力量や努力に依存しない教育の仕組みの構築をめざしている。その1機能としてサイバーキャンパス基盤システムを開発している。


2.サイバーキャンパス基盤システムの概要

 サイバーキャンパス基盤システムでは、次の三つの機能(表1参照)を開発している。第一は、協調型演習や集合型の遠隔授業や自習を、地理的や時間的な制約を受けずに、オンデマンドな環境で実施するための「授業支援機能」である。第二は、教師と学生との間や、学生の各プロジェクトチーム同士における意思疎通のための「ネットワーク・コミュニケーション機能」である。第三は、この基盤システム自体の運用管理や、システムのセキュリティの確保、学生履歴に関連したアクセス・ログを管理するための「システム管理機能」である。
表1 AMLプロジェクトにおけるサイバーキャンパス基盤システムの機能構成
機能区分機能名機能概要
(1)教務支援機能
講義情報管理教師またはシステム管理者が授業に関する情報(講義ID、担当教師、講義時間受講可能人数など)を登録、更新したり、授業の状態を参照する機能。
受講情報管理教師またはシステム管理者が授業に参加する学生などの受講情報(学生IDなど)を登録、更新する機能。
授業開始/終了教師が授業(講義・演習)の開始や終了を宣言する機能。
授業参加/提出学生が授業(講義・演習)に参加や退出の登録を行う機能。
出欠管理教師が授業の出欠を確認する機能。
成績管理教師が学生の成績を登録,参照する機能。
教材管理教師が教材を登録、更新したり、教師や学生が授業中あるいは授業外に参照、検索する機能。
授業シナリオ管理教師が授業シナリオを登録・更新したり、教師や学生が授業中あるいは授業外に参照、検索する機能。
提出物管理学生がレポートなどの提出物を登録、更新したり、教師や登録した学生が参照、検索する機能。
授業シナリオ作成支援教師が授業のシナリオを作成編集、保存する機能(教材へのリンクが可能)。
(2)ネットワーク・
コミュニケーション
支援機能
電子掲示板教師が授業中に解説や問題提起を行ったり、学生同士が意見交換するため、また授業外に教師や学生が発言するため、1対多あるいは多対多のコミュニケーションを可能とする機能。具体的には、掲示板に発言を投稿したり、以前の発言一覧からキーワードで検索したり、参照したりする機能(文書とのリンクが可能)。
質問箱教師と学生間の質疑応答などの1対1コミュニケーションを授業中に限らず随時可能とする機能。具体的には学生が回答者・回答期限を指定して質問したり、教師がそれに対して回答する機能(公開、非公開の選択が可能)。
ネットワーク会議Live LANによるネットワーク会議システムを呼び出す機能。ネットワーク会議システムを利用することにより、学生がテレビ画面によるプレゼンテーションを行ったり教師が画像を送りながら授業を行うことができ、授業中の1対多コミュニケーションを可能とする機能。
(3)システム管理機能
利用者情報管理システム管理者が教師、学生など利用者の情報(ユーザID、メールアドレス、パスワードなど)を登録、更新、管理する機能。
個人認証システムがユーザID、パスワードにより講師、学生など利用者のアクセス権を自動的に認証する機能。
ログ管理システムが自動的に採取したアクセス・ログを、システム管理者がトラブル解析などのために検索、参照する機能


3.授業支援機能

 コンピュータ・ネットワーク上で、協調型演習、集合型の遠隔授業、実習を行えるようにするために、まず教師側の準備段階で、授業や自習で利用させる教材などの資料が容易に更新でき、これらが常に最新の状態で保管されている必要がある。そして、授業を運営する上で、授業の開始や終了の宣言、学生の出欠管理、使用する教材の配布、授業の進め方の指示(授業シナリオ)、成績管理などのために「授業支援機能」が必須となる。学生にとっては、こうして授業への出席が認められてから講義や演習に参加し、必要な教材や授業シナリオを、授業中や自習時に地理的かつ時間的制約を受けずに参照でき、レポートを提出できる環境が整っていることが望ましい。
 実証実験を行う、開発した授業支援機能に関する評価をした。評価は多面的に行ったが、要約すると、教師側の負担を軽減することができた。他方、学生側にとっては、授業の理解度が向上するとともに、授業中のみではなく、自習時にも教育環境が整備されたことにより、学習意欲が喚起されたという結果が得られた。


4.ネットワーク・コミュニケーション機能

 ネットワーク・コミュニケーション機能として、電子掲示板、電子質問箱、ネットワーク会議の三つの機能を開発した。
 電子掲示板は、教師が解説や問題提起をしたり、学生同士が自由に意見交換をするために、「多対多」のコミュニケーションを可能にする。電子質問箱は、授業中や自習時における質疑応答のために、教師と学生との間で「一対一」のコミュニケーションを可能にする。ネットワーク会議は、教師が講義をしたり、学生がプレゼンテーションをする際に、「一対多」のコミュニケーションを可能にする。
 実証実験の結果、電子掲示板については、時間を問わず意見交換が円滑に実施でき、遠隔地からでも正確にコミュニケーションができるとともに、その情報交換の内容が他のチームにも共有できたことに高い評価が学生の側からなされた。電子質問箱に関しては、特に大教室における講義においては人前では質問しにくいという学生の意識を改善できた。具体的には、個人的に教師にリアルタイムで質問できるとともに、時間的な制約を受けずに、かつ過去になされた質疑応答の内容を検索参照できたこと(質疑応答内容の公開および非公開を選択できる機能)が有効であった。
 ネットワーク会議については、離れた教室間においてリアルタイムで学生チーム間でプレゼンテーションできたこと、教師を交えたディスカッションができたことが高く評価された。


5.システム管理機能

 システム管理機能としては、セキュリティーを保つために、教師や学生などの利用者の個人情報を管理して、システムへのアクセスを制御している。さらに、学生の学習履歴を把握したり、システム運営中に発生したトラブルを解析するために、アクセス・ログを管理する。


6.機能拡張と実用化への取り組み

 以上、述べてきたサーバーキャンパス基盤システムは、完成したものではなく、実際の授業の中で運用しながら、同時に評価を加え、進化させている。これまでの経験から、「教育コンテンツDBセンター」機能、「教育コミュニケーションセンター」機能、「教育研究開発支援センター」機能の3点をここしばらくは重点的に検討し、実用化しようとしている。
 教育コンテンツDBセンターは、教材コンテンツと、それらの教材の素となるデータや素材をネットワーク上から自由に検索できるようにするもので、教材を教室や自習している場所へ配信や提示することもできる仕組みである。教育コミュニケーションセンターは、DBセンターで蓄積された教材コンテンツや教育サービスを運用するための仕組みである。教育研究開発支援センターは、システム運用のために、教師側に対する支援体制や組織体制を確立するための仕組みである。


7.今後の展開

 サーバーキャンパス基盤システムは、青山学院だけのシステムとは考えていない。詳細は、Webで公開しているので、参照されたい。
http://www.agub.aoyama.ac.jp/aml2/



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