特集
ITとセルフラーニング
慶應義塾大学におけるIT基盤環境の24時間運用
松村 邦仁(慶應義塾大学理工学インフォメーションテクノロジーセンター(ITC))
大賀 裕(慶應義塾大学インフォメーションテクノロジーセンター(ITC)本部事務長)
1.はじめに
慶應義塾大学では、横浜市港北区にある矢上キャンパス(理工学部3年以降が在籍)を草分け的な存在として、国内ではいち早く学内にネットワークを敷設するなど、高度な情報基盤環境の普及に取り組んできた。当時から世界各地に活動拠点を持つ研究者が多かったこともあり、理工学部の研究室やバックボーンネットワーク、キャンパス基幹サーバーなどは、常に24時間運用体制をとっていた。またコンピュータリテラシー教育を主要テーマの一つとして掲げ、先端的な教養・専門課程一体型の教育研究拠点として評価されている湘南藤沢キャンパス(SFC)は、オフキャンパス・アクセスやユーザモビリティを保証しており、 約10年前の開設当初から24時間キャンパスとして機能している。
ここでは慶應義塾のキャンパスネットワークを、キャンパス間ネットワークの24時間運用、オフキャンパス・アクセスのサポート、マルチメディア対応広帯域キャンパス内ネットワークなどの観点から紹介し、さらに湘南藤沢キャンパスにおける24時間オープンエリアの運用やそれを用いたセルフラーニング等での利用について解説する。
2.キャンパス間ネットワークとオフキャンパス・アクセス
慶應義塾では、インターネット接続環境やそれに伴うキャンパス間ネットワークの構成に関する研究や開発には、ITCのみならず教員主体の各研究プロジェクトなども広く関わっている。例えばインターネット接続は、WIDEプロジェクトとの共同研究の一環として同プロジェクトの回線を経由し、湘南藤沢および三田の2キャンパスから独立して行っている。これによって各キャンパスの電源施設に対する法定点検などに際しても、24時間運用を維持することができる。
各キャンパス間接続は、商用ATM回線による接続に加え、NTTとの共同実験の一環として最先端のWDM技術を利用したLAN/WAN統合型のギガビットイーサネット多重化ネットワークが一部に導入されている。
機器レベルの冗長化については、シスコシステムズ社製スイッチの持つイーサチャネル機能や冗長スーパーバイザモジュールを用い、その上で同社のホットスタンバイルータ機能(HSRP)等を利用することにより実現している。
商用インターネットプロバイダや常時接続サービスの普及により、インターネット経由でキャンパス内資源にアクセスする学生・教職員も増加しているが、現状では各キャンパスに設置された商用ISDN回線(1.5Mbps)を利用したリモートアクセスポイントも広く利用されている。
3.キャンパス内ネットワーク(LAN)
キャンパス内ネットワークは、慶應義塾情報スーパーハイウェイ2(KISH2; Keio Information Super Highway 2)プロジェクトの一環として、基幹部分にシスコシステムズ社製のL2/L3統合型インテリジェントスイッチルータを導入している。キャンパス内のIT基盤としては、遠隔授業などで用いられるマルチメディア双方向コンテンツの円滑な利用や、各種情報共有に対する需要増加に対応するため、広帯域のネットワークインフラが必須である。慶應義塾では、一般にどのキャンパスでもギガビットイーサチャネルにより4Gbps(全二重換算)以上の広帯域を確保できるように構成している。ただしリプレースサイクルなどの関係で、FDDIをセカンダリ・バックボーンとして持つキャンパスやATM(OC-3C)をバックボーンの一部としてもつキャンパスもある。
例えば矢上キャンパスではシスコシステムズ社のCatalyst6000シリーズ複数台をコア・スイッチルータとして3室ある主機器室のうち二つに分散配置し、それらをギガビットイーサチャネルで冗長接続している。このシステム構成をとることで、VLAN機能を用い、各教室・研究室内の情報コンセントへ柔軟にネットワーク接続を供給できる。エッジスイッチにはCatalyst2948Gを多く使用しており、支線系であっても100〜800Mbpsの高速・広帯域有線接続が利用できるようになっている。
さらにモバイル・ユビキタス環境をキャンパス内で実現するため、無線LANも積極的に利用されている。SFCではすでにキャンパス全域を11Mbps無線LANでカバーしており、矢上キャンパスでは2000年4月に竣工の創想館を手始めに、キャンパス全域をカバーすることを計画している。2001年度には全学的な無線LAN配備計画の展開も検討されている。
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図1 慶應義塾キャンパス間ネットワーク |
4.24時間オープンエリア
SFCでは、体育の実技科目の予約を24時間受付可能な「体育予約システム」や、授業のレポートをネットワーク経由で提出できる「レポートシステム」を初めとした、24時間キャンパスにふさわしいアプリケーションが様々な形で開設直後から稼動している。またITCの提供するWWWサーバー上での自習教材の配布や授業シラバス・修士論文などのWeb化も広く行われており、学生に利用されている。また、授業をストリーミング素材として蓄積して学生に24時間公開しておくという授業形態をとっている例もあり、セルフラーニングのために活用されている。
こうした発想から、アプリケーションなどの資源を24時間利用可能な「オープンエリア」の考えは自然発生的に生まれた。マシン上のソフトウェア群は、 CNS(Campus Network System)クオリティと呼ばれる基準を満たすSFC-CNS標準環境にカスタマイズされている。これによって有人サービス時間を9時から23時に絞り込むことが可能となった。また、IDカードによる入退室管理、警備担当が異常事態を瞬時に察知できる監視カメラシステム、夜間利用を前提とした室外照明の整備などの事故・防犯対策によって、昼夜を問わない24時間キャンパスライフが可能となっている。
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図2 矢上キャンパス内ネットワーク概念図 |
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図3 SFC24時間オープンエリア |
5.おわりに
24時間運用とそれが支えるセルフラーニングの形態について紹介した。一般的に「ネットワーク」や「サーバー」とオープンエリアに代表される「クライアント」の24時間運用には大きな差がある。地球規模での共同研究に代表されるグローバル・コラボレーションが21世紀の新しい大学では必須なため、文系のキャンパスでも人がフェース・トゥ・フェースで集うことができる24時間オープンエリアへの要求が高まることに間違いはないだろう。そしてそれこそが次世代を担うと予想されるシームレスかつユビキタスなIT環境の中にあって、「人を中心とした関わりあい」までも実現することができる理想形の一つであるといって過言ではない。
ただしそれに伴うコストを考えると、全学的に導入することの是非に関しては、常に慎重な検討が必要であることも間違いない。そういった際には、http://www.sfc.keio.ac.jp/に掲載されている定期見学会などを利用して直接環境をご覧になることをお勧めする。
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