情報教育と環境
Computer Education and Information Technology
共立薬科大学における情報教育と環境
〜「調べて、書いて、発信する」力を〜
1.はじめに
本学は、1930年東京都港区芝公園に前身である共立女子薬学専門学校として設立され、1949年学制改革により共立薬科大学(女子のみ)として発足した。1986年に大学院を開設し、よりよい環境の下で学べるよう施設・設備・教育全ての面の充実に力を注いできた。1996年からは時代の流れに沿って、より一層の活性化を図り男女共学となった。また、1998年には、生涯学習センターを発足させ、卒後教育を充実させている。2000年には新校舎の完成、2001年4月には、実際に調剤を行う附属薬局を中心にした医療薬学センターが設置される予定であり、設立以来、一貫して薬学教育に徹してきている。現在、薬学科、生物薬学科の2学科、薬学専攻、医療薬学専攻の2大学院専攻約900名の学生・大学院学生が在籍する。本学では、生物学、化学、物理学の基礎の上に薬という化学物質を通じて生命現象を明らかにすることを目指し、薬剤師のみを養成するのではなく幅広く社会に貢献できる人材を社会に輩出している。そのため、卒業生は病院や薬局製薬企業はもとより化学工業、バイオテクノロジー、環境衛生、食品衛生の分野で活躍している。また、近年医療法が改正され、薬剤師が医師、看護婦とともに真の「医療の担い手」と明記されたのを機に、医療法の精神に応えるべく薬剤師教育にも力を注いでいる。
本稿では、新校舎完成に合わせ全学に、新たに敷設した学内情報システムを中心に、このシステムを利用し、今後の将来構想も含め紹介する。
2.教育面での取り組み
インターネットの発達により情報化社会が到来し、私たちを取り巻く環境は劇的に変わりつつある。今後、コンピュータで自分の主張を他人に伝えられるかどうかが最低限のリテラシーとなり、それを身につけることが重要であると考えられる。
しかし、情報教育は、キーボードのオペレーションやソフトの使用法だけではなく、情報化の進展を予想し、また、大きな状況変化にも対応できるような能力を与える情報教育でなければならないと考えられる。つまり、小手先の技ではなくて、むしろ、コンピュータの基本的な知識を身につけ、どんな大変化にも適応できる能力を身につけておく必要がある。このためには、コンピュータとはどのようなツールなのか、何ができて何ができないのか正確に教えなければならない。
情報化社会への流れは、現代医療の現場にも顕著に波及してきており、インターネットなしではそれが成り立たなくなることも予想される。
今後、インターネットはさらに一般的になり、関わる領域のあらゆる情報がオンラインで得られる時代が到来することが予想される。これまでの情報の入手や情報を伝達するための手段は、主に本とか雑誌であったが、インターネットでは、瞬時に公開ができさまざまな有用な情報が提供されている。今後、オンラインで得られる情報、電子媒体で得られる情報、書籍より得られる情報を効率よく的確に入手するための情報探索能力を身につける必要がある。薬学においては、よりよい医療を行うための、個々の患者にあった最新の医薬品情報や、文献の収集が必須になりつつあり、次々に世界中で発信される情報を収集する必要がある。そして、その中で信頼でき、最も適した情報を効率よく「調べる」能力を身につけ、医療に貢献しなければならない。さらに、インターネットは国境の壁、専門家と非専門家の壁、玄人と素人の間の壁を取り去っただけではなく、正確な情報や不正確な情報の氾濫も引き起こしてしまった。このため、得た情報が本当に信頼できる情報か見極める能力を備える必要がある。
次に必要となる能力は、調べた情報をもとに得られた情報を記録し、今後の医療の補助とするためのデータベースを構築する、すなわち「書く」という能力である。
さらに、以前は副作用の報告や新たな有効な治療法は、紙に書いて発信する方法が主流であり、緊急で重要な情報の伝達にかなり時間が必要であった。しかし、インターネットが発達した現在、コンピュータは情報収集するだけでなく、情報を即時に発信可能な双方向通信ツールとなる。その手段としては、ホームページの開設、電子メール、ニュースグループへの投稿があるが、これらのツールを使いこなして「発信する」能力を身につけ、社会への貢献も薬剤師の重要な職務となっている。
今後、インターネットを活用した多くの情報コミュニケーションへ参加できる能力を身につけた学生を育てることが重要であると考えられる。また、薬学では患者情報が取り扱われる。双方向通信が可能であるということは両刃の剣であり、患者情報の流出の可能性を十分認識させ、セキュリティ教育も欠かすことのできない重要なテーマである。
本学は薬学部のみの単科大学であり、自分でソフトを構築する能力までは必要としない。しかし、学生が社会に出て自身の所属する部門においてシステム化やシステムの再構築を行う際に、コンピュータの専門家に適切な指示を与えて自分の必要とすることを実現してもらうことができる能力を身につけるべきであると考えている。
3.システム面での取り組み
(1)マルチメディア設備装置
現在、各講義室への液晶プロジェクター等のマルチメディア装置の設置がほぼ完了した。さらに、本学では実習での教育を重視しており、学生に伝えることができる知識・技術の総量の増加、安全に効率よく理解度の高い実習を展開させるため、マルチメディアシステムを全ての実習室に設置した。
マルチメディア講義室・実習室を使って、教育のうちマルチメディアに適した部分を変えていくことにより、教育の効率が飛躍的に向上することが期待できる。特に、教員が講義・実習中に、学生と向き合って話す時間が長くなることから、迫力のある講義・実習や、学生の理解の様子が把握できる講義・実習が実施されるという点があげられる。しかし、従来の黒板を利用した講義にも優れた点があるため、教員は両者の特徴をよく知り、講義・実習内容に見合った手法を用いて行う必要がある。近い将来、学生からの要求や、教員の理解が進み、マルチメディア機器を使用した講義・実習が一般的になるかもしれない。確かにその準備には莫大な労力と時間を費やすことになるだろうが、そのマルチメディア機器をフルに活用した授業・実習が実施されれば、学生へ伝授できる知識量が増大することを確信してマルチメディア装置の整備を進めている。
(2)ネットワーク装置
ネットワークの幹線は1Gbps、支線は100Mbpsの通信速度を確保し、将来の予測される大容量のデータ通信にも対応できるネットワーク環境とした。本学ではクライアントコンピュータにはMacintoshが多く用いられており、これらのコンピュータのLAN接続や、Apple TalkやNetBEUIのブリッジプロトコルも研究室単位で頻繁に利用されているため、これらのプロトコルの利用も可能としながら、附属薬局や事務セグメントのセキュリティをFire WallやVLANを用いて構築した。
さらには、学外からのアクセス用の回線を準備し、学生や教員の学外からのアクセスのみならず、生涯学習センターが実施している通信教育でも利用可能なシステムとした。
(3)学生のネットワーク利用環境
現在、約130台のコンピュータを学生に開放している。また、図書の閲覧机の全てに情報コンセントを用意し、自由にネットワークに接続できる環境を整備し、メールアカウントを全学生に配布している。また、2年以内には、さらに約250程度の情報コンセントを整備する予定であり、これにより、半数以上の学生が同時にネットワークにアクセス可能なシステムとなる。
(4)情報コミュニケーションシステム
教員と学生のコミュニケーションを促進するため、学内情報コミュニケーションシステムを構築した。このシステムでは、学内情報システムを利用するための操作手順をWindows系のコンピュータとMacintoshコンピュータで極力共通化した。また、学生がクラブ等活動情報を容易にホームページ上で公開するための支援システムを構築し、学生の情報発信を可能とした。また、学生が講義、学生生活で疑問に思ったことを解決できるよう、Q&Aのシステムを構築した。このシステムでは質問および回答をデータベース化し、質問者の了解のもと匿名で自動的に公開することが可能となっている。
研究支援システムとしては、各教員が発表した論文を本システムに容易に登録でき、それによりホームページ上で自動的に業績を公開して検索可能とした。このシステムは、研究活動のより一層の進展に寄与できると期待できる。
本システムを整備する際には、安定し、なおかつ新しいものを採用することを心がけた。新しい技術でどのようなことが可能となるのか、学生自身がじかに接し、体験することにより、社会へ出てからのマルチメディア・情報システムの利用に有用であると考え整備を行っている。
4.総合情報センターの役割
これまでに述べた設備を含む学内の情報コミュニケーションシステム、マルチメディア機器の維持管理は、本年4月に図書館を拡大して設置される総合情報センターで行われる。さらに本センターは、新たなシステムの企画構築を行い、より快適で、安定な情報コミュニケーションの場を提供すべく活動を行っている。さらに、各部所に設置されているコンピュータの保守等の支援も積極的に行い、学内の研究支援も行う予定である。
従来、図書館が行っている外部からの情報の入手、整理、公開は今後も必要であり、今後は、図書のみだけではなく、マルチメディア媒体、オンラインシステムからの情報の入手、整理、公開をも重要な業務として行っていく必要があると考えている。
また、学内で発生する研究成果等の有用な情報をインターネットを中心とする迅速かつ適切な手段を用いて、学外に公開するための支援業務も追加し、情報発信基地としての役割を果たす予定である。
将来的には総合情報センターに研究部門を設置し、薬学領域における、適切な情報収集法や、情報公開法およびマルチメディア教育法に関する研究・教育を主として行う予定である。
5.おわりに
本学は社会の趨勢にのっとり、コンピュータやインターネットの急速な進歩や大きな変化にも対応できる基礎知識と、情報収集、自由な発信可能となるような基礎知識を学生に伝授するため、マルチメディア装置、情報通信設備の利用環境を整え、情報化社会の荒波も乗り越えられるような社会人を育成することが重要であると考え、情報環境のさらなる整備を今後の課題としたい。
文責: | 共立薬科大学情報施設管理室 室長(教授) 竹田 忠紘 |
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