情報教育と環境
音大生のためのマルチメディア教育環境の構築をめざして− 名古屋音楽大学 −
1.はじめに
名古屋音楽大学は、JR名古屋駅と同じ名古屋市中村区に位置する音楽の単科大学です。1976年に開学しましたが、前身の名古屋音楽短期大学から数えると36年の歴史があります。その間、中部地方の音楽系私学の中ではいち早く、全国でも4番目に大学院を設置するなど、高い教育水準を誇っています。
2000年度から、作曲学科にコンピュータミュージック専攻を設置しました。同時に、2000年度からの新カリキュラムの実施により、4学科10専攻(入学定員200名)にわたるすべての学生が、DTM(デスクトップミュージック)やコンピュータミュージックの授業を履修しています。
音楽大学で「ピアノ」、「管楽」、「弦楽」、「打楽」、「声楽」、「作曲」、「音楽教育」、「音楽学」など、すべての専攻の学生がコンピュータミュージックを履修する環境を整備している大学は、まだまだ珍しいと思われます。
2.マルチメディアとは_文字、映像、そして音
マルチメディアといえば、「文字」、「映像」と並んで、「音」が欠かせません。マルチメディアを活用する上で、音声・音楽データを作成し、蓄積し、配信する能力が今後ますます不可欠のものとなっていくと思われます。この「音」という領域において、音楽大学に対する期待と、音楽大学が果たしうる役割は大きいと思われます。
2000年4月、名古屋音楽大学は、音楽を重点としたマルチメディア活用のための教育研究を実施するための施設・設備として、「マルチメディアラボ(multimedia laboratory)」、「ミュージックラボ(music laboratory)」、「プランニングルーム(planning room)」を統合した「マルチメディア総合教育支援システム」を整備しました。
3.マルチメディア総合教育支援システムとは
マルチメディアを活用するにあたっては、ネットワーク環境の整備が不可欠です。そのため、教室内ネットワーク環境並びにインターネット接続環境によるマルチメディア通信環境を整備しました。これによって、音楽データを含むマルチメディア・コンテンツの配信がローカルにもグローバルにも可能となりました。教室内外がネットワークを介した双方向コミュニケーションシステムで結ばれており、マルチメディアを活用した音楽情報の配信が可能となっています。
プランニングルームの一角には、「音楽データ蓄積・配信装置」を置き、マルチメディアラボ、ミュージックラボ、プランニングルーム内にあるすべての機器をこれに接続することで、統合的なシステムが構成されています。各教室は、それぞれの機能的特徴と同時に、ネットワークを介したマルチメディア入出力・送受信環境を通じて、一体化した総合的システムとして構築されています。また、各教室を統一的にコントロールするために、指紋認証による学生情報制御装置を設置しました。これにより、夜9時までの授業のない時間帯には、学生が自由にいつでも利用できる環境が用意されています。これは、学生のマルチメディア活用を積極的に支援するためには、コンピュータがいつも稼動している状況こそが不可欠との考えに基づいています。
4.マルチメディアラボ(D301教室)
マルチメディアラボは、21世紀の音楽大学生に求められる基礎的素養を身につけるための教室として整備されています。おそらく、音大生一般を対象にしたこのような教室はまだまだ少ないと思われます。
マルチメディアラボには、電子音楽情報(デジタル音楽データ並びにアナログ音楽データ)を重点としたマルチメディア活用のための教育を行うために、個々の学生が使用する教育装置として、音楽データの作成・送受信・入出力を可能にする装置を44台整備してあります。44台の端末には、音源としてYAMAHAのMU2000と附属シーケンサソフトのXGワークスを組み込むとともに、楽譜ワープロのFinale2000、ホームページビルダーその他のソフトを組み込みましたが、さらにソフトの充実を図っていく予定です(本誌冒頭のカラーページ参照)。
マルチメディアラボでは、「DTM入門」、「コンピュータミュージック実習」、「情報処理入門」、「情報メディア論」、「情報と社会」などの授業が行われています。教職必修科目である「DTM入門」の授業では、楽譜ソフトであるFinaleの活用の他、XGワークスを用いた基礎学習を行っています。8割以上の学生がこの授業を履修しています(本誌冒頭のカラーページ参照)。この教室はComputer-Assisted Music Learning環境の整備を目指したものですが、それぞれの授業でそのねらいは実現されつつあると言ってよいと思われます。
この教室では、さらに、音声・音楽データの作成と配信、並びに画像・映像データの配信を総合的に支援するために以下のような装置構成が整備されています。
第一に、教育システムとして、マルチメディア双方向コミュニケーション教育システムを組み合わせて導入し、これにより、音声・音楽データ(アナログ及びデジタル)の送受信を可能としました。アナログ映像データの配信は当然可能ですが、デジタル映像データの配信についても、「音楽データ蓄積・配信装置」に動画配信サーバを組みこむことで実現してあります。さらに、教室内ネットワークに教育支援ツール(画像配信ソフト)を組み込むことで、LAN回線を通じた教育支援システムが実現されています。
メディアとしては、ネットワーク環境に加え、ビデオ、LD、CD、MD、DVD等を、また、音声映像装置としてはプロジェクター、各種入出力装置、各種送受信装置等が整備されています。また、独自の機器制御装置を設置することで、すべての機器を一体的にコントロールすることを可能としています。
5.ミュージックラボ(D201教室)
ミュージックラボには、既存のMacintosh16台を移設し、さらに新規に5台の音楽データ作成装置を整備することで、さらに進んだ学習を可能にする環境が整えられています。すべての端末がネットワークによって結ばれ、マルチメディアラボとほぼ同様のネットワーク環境が実現されています。
主として、コンピュータミュージック専攻生、電子オルガン専攻生、並びに中級者向けの教室として整備したものです。各端末に各種の統合シーケンサソフトを組みこむことで、音楽データの作成に重点を置いたシステムとなっています。
6.プランニングルーム
プランニングルーム(教材開発室)には、教材作成システム装置並びに音楽データを蓄積・配信するための装置を設置してあります。これらはすべてネットワークで結ばれており、教材作成並びに映像・音声データの作成・編集・蓄積・配信等に活用することができます。また、創作された音楽情報と映像とのシンクロナイズも含めたコンテンツ作成システムとしても活用可能なものとなっています。
7.事業コストと事後コスト
今回のシステム導入に要した事業経費は、6千万円弱でしたが、文部科学省より事業経費に対する比率48.9%の特別補助を受けることができました。また、今回、事後コストも考え、教室管理費用の軽減化、及び機器のメンテナンスフリーを目指しました。コンピュータ関連設備の整備に伴う問題として、管理・維持費用がありますが、今回の事業では、管理・維持費用を最小化するための工夫をいくつか凝らしました。
第1に、入退出の自動化です。指紋照合システムを導入することで、鍵や教室の管理コストを最小化することができました。これにより、教室としての稼動ばかりでなく、機器自体の稼動を最大化することができたと考えています。授業のないときに学生は、誰の手も煩わさずに自由に入退出し、機器を思う存分利用することができる環境が整えられています。
第2に、環境復元ツールの導入です。これにより、学生が無茶な使い方をしても、機器は自動的に設定状態に復帰する環境を実現しています。さらに、機器のメンテナンス費用を考えた場合にも、この仕組みは、ほぼ完全なメンテナンスフリーを実現しており、保守管理費用や人件費を含めた事後コストの最小化を実現することができたと考えています。
8.Meion Educative Digital Online Networkの構築にむけて
マルチメディアラボ教室は、学生の教育・学習環境を整備する上で、もう一つの役割を担っています。それが、現在整備途上にあるMeion Educative Digital Online Network (MEDION)の構築です。ここでは、シラバスの電子データ化による自由な閲覧を手始めとして、学生の学習環境をネットワーク的に支援する仕組みを整えていくことを考えています。
将来的には、履修登録・確認や、教員との電子メールや掲示板を通じた連絡、電子掲示板を通じた学生への諸連絡なども実現したいと思っています。MEDIONの整備さえ進んでいけば、学生はこの教室の端末を通じて、あらゆる教育・研究・学習情報にアクセスすることが可能となります。また、教室外の端末からもMEDIONにアクセス可能となるように、現在、統合認証サーバの導入が検討されています。これが導入されれば、図書館やノートパソコンなどの端末からも、自由にMEDIONにアクセス可能な環境がようやく整えられることになると考えています。
日本の音楽大学の情報環境は、まだまだ未整備な段階にありますが、音大標準のシステムとはどうあるべきかを念頭に、今後、さらなる整備を進めていく必要があると考えています。
文責:
名古屋音楽大学 情報企画室担当
同朋学園情報ネットワーク運営委員会
委員長 高橋 肇
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