ニュース

「コンピュータで展開されるマルチメディア利用建築教育の追加アンケート」集計報告


社団法人私立大学情報教育協会
建築学情報教育研究委員会



1.アンケート調査の背景

 先年、「私立大学教員による授業での情報機器使用調査」のアンケートが実施されたが、授業で直面する問題点、授業での情報機器の利用状況など、多くの貴重な意見が寄せられ、冊子で結果が報告されている。
 その後を受けて本委員会では、さらに、「詳細な情報機器の利用状況を調べ、授業の工夫・改善の資料として情報を共有し、活用できるようにしたい」と考え、「授業を実施する上で、どのようなコンピュータソフト(CD-ROMを含む)を用いているか、どのようなコンピュータソフトが望まれているか、情報の共有や交換にWebやE-mailを利用しているか、授業の公開や交流にテレビ会議などのインタラクティブなツールや方式を用いているか、受講者の習熟度はどうか」などを問う追加アンケートを実施した。以下にその概要を紹介したい。


2.調査の対象と実施状況

 前回、回答いただいた方のうちで、計画系(意匠設計系を除く(1))、構造系、環境設備系等の関連の講義を担当されている方68名を対象者として、平成11年10月21日より同11月4日の期間でアンケートを発送、回収し、構造系17名、環境設備系6名、計画系5名、その他(情報・力学系)2名、計30名の回答をいただいた。回答率は44.1%である。


3.集計結果の概要

 コンピュータソフトの利用に関しては、全体で76.7%の回答者が利用し、構造系:82.4%、環境設備系:50%、計画系:80%、その他:100%であった。利用ソフト種類の内訳は、ワープロ、表計算、プレゼンテーションの順に多く、プレゼンテーション、表計算は計画、設備・環境系の方が多く利用されている(図1)。構造系では、その他に構造計算や自作ソフトが表計算と同程度(約30%)に用いられている。自作ソフトは、構造系では、構造計算、静定、不静定構造の応力図、変形図表示などが、設備環境系では、描画、モデラー&レンダーソフト、配管・ダクトの自動設計呈示ソフトが、計画系では、ホームページ(HP)へ写真を入れ込むソフトなどが挙げられている。
図1 使用ソフトの名称・種類(2)

(1)除いた理由は、同時期に日本建築学会でも設計を中心として同様のアンケート調査の動きがあり、重複を避けようと考えたからである。
(2)図1ソフト名称の [1,0,0,0] などは順に構造、環境設備、計画、その他の各系の回答数を意味する。自作ソフトの数などアンケート項目3-3aで答えられたもので、他の項目で答えられた数と必ずしも一致していない。
 ソフトの用途は教材作成、教材提示が半数程度を占め、構造系では、その他に学生の自主学習が30%を占めている。出席成績管理、調査結果の分析にも使われている。使用ソフトはMS-Word、MS-Excel、MS-PowerPointが多く(図1)、自作ソフト(プログラム)も全体で9件挙げられている(構造6、環境2、計画1)。これらは、全体では教材作成、レポート作成などのために利用され、構造系では力学の理解のためにも学生の自主学習などによって、構造や力学に関心を持つように使われている。HP上の教材ソフトも自作ソフト同程度に作成されている。また、開発して欲しいソフトとしては、構造力学自習用ソフト、振動解析ソフト、Javaで書かれたWeb上で利用可能な構造解析ソフトや設備メーカー製品の電子化データ、環境工学関係で使用できるフリーソフトやスキャナーの使用を簡単にできるソフト、GIS関連の学生が利用しやすい廉価版ソフト、町並み景観評価のソフトなどが挙げられている。
 ソフト利用の問題点としては、「学習できるソフトの少なさ」、「その場で分かったような気がするが後に残らない」、「設備や運用の問題」その他が挙げられており、開発に時間がかかりすぎることから、ソフト開発支援体制の必要性が求められている(全体で20%)。開発支援協力への承諾は消極的なものも含めると全体で33%、拒否はその半分であった。自作教材公開(URL)は検討中を含めて全体で27%の表明があった。
 インターネットの利用では、全体で43%が利用していると答え、情報検索、収集や教材提示、レポート収集等に利用している。電子メールも全体で53%の利用で、院生との打ち合わせ、レポート提出、授業時間外の質問等に利用されている。また、情報コンセント、教室内ビデオは全体で37%程度の普及であった。HPによる教材の配信と電子メールによるレポートの提出、学生、教員間の連絡といった利用が多い。インターネットの普及状況を慮れば、利用率はますます高くなっていくであろう。
 テレビ会議・衛星中継などによる公開・交流授業については、「設備が大掛かりなためまだ」、「一部の利用」であり、全体としては、必要性は理解できても、具体的な利用法が分からないという意見が多かったが、関心は高く、「利用できる状況になれば使いたい」、「学生諸君を刺激する方法として模索したい」という意見も見られた(図2)。利用にあたっては、「単に黒板の前で講義したものを配信するだけでは意味がない。多くの関連資料をインポーズしたり、関連資料をインターネットから配信できたり、また双方向性があることが必要である。また、一度配信した内容は、オンデマンドで再配信可能なことが望ましい。」という提言も得られた。
図2 電子メディアによる公開・交流授業の必要
 学生のコンピュータ事情では、「入学時に買わせている」ところもあり、2年になると、基本的な利用法は習得しているようである。学生のコンピューター保有率は年々増加していくであろう。3年次までに「コンピューター入門〜建築情報処理〜建築プログラミング〜建築CAD、構造解析演習」などの科目が2科目から6科目にかけて配当されている状況であり、「4年次になれは誰もが使いこなせる」という状況が間近なことが窺える。
 以上の状況がどのような教科の授業で行われているか、また、その状態など、詳しくは当協会ホームページに掲載される集計資料を参照願いたい。
http://juce.shijokyo.or.jp/senmon/kentiku/jirei_kyouzai/index.html


4.その他

 授業内容の説明などから講義での教員の種々の工夫(OHPの多用、授業時間内の短時間課題とその評価、予習復習のための授業資料のインターネット公開、制度的ではない他の情報処理系科目との「興味をひきつけ、理解を深める」ための連携など)が見られ、また、パソコン〜プロジェクタによる表示設備の充実を望む意見も2、3見られた。
 系別の特色としては、構造系は、構造解析手段として、また、解析方法の学習のための手段としてコンピューターソフトの利用が多く、環境設備系では、設備や環境システムのプレゼンテーション手段としての利用が、計画系では、イメージデータ処理や情報の交換などの利用が多いようである。ただし、先進的利用がなされている意匠設計系の資料が欠けているため、最も有用なところが抜けてしまった感が免れない。その点は、本委員会のWebページの「建築学情報教育データベース(教育情報、研究情報、企業情報、その他のデータベース情報などとともに、マルチメディア利用教育に関する個人の創意工夫が特徴的な事例やイベント的な事例など多様な事例を収集する)」での検索で補っていただければ幸いである。(ただし、現在このデータベースは検討中である)

アンケート回答の中で目にとまった興味ある例として、

1)北海道東海大学芸術工学部建築学科(渡辺 宏二講師)の「本学教員有志での教材・資料公開のプロジェクトを実施中
http://www.htokai.ac.jp/DA/wtnb/study/index.html
http://www.htokai.ac.jp/DA/vschool/index.html
2)道都大学短期大学部建設科(佐藤 勝泰教授)の「マンネリ化した座学授業に、変化・楽しさ・意外性など学生が飽きない、興味を示す工夫の一つの道具として、情報機器を、学内で教育テクニックを試し、研究するグループを作りつつあり、短期大学として特色ある物作り教育に大きな変化をもたらせればと試案・実行中」

等の試みが挙げられる。
 1)の成果は前掲のURLに公開されており、ここにほんの一部を紹介させていただく(次頁の図3−6参照)。図3は上記1)のURL(北海道東海大学芸術工学部建築学科渡辺研究室)から開くことのできる「建築入門講座」のページで、多くの科目のテキスト教材にリンクし、アクセスすることができる。
 図4は図3の下部のリンクスポットVirtual School of ARCHI のトップページの切り抜きであり、左図の「建築入門講座」を含み、より多くの科目の教材や授業記録などへのリンクが張られている。
 図5、6はその中の一部の教材のページの切り抜きである。非常に広範な教科のテキスト教材や授業の記録をWeb上で活用し、広く公開しようという意気込みに感嘆するとともに、敬意を表したい。ぜひとも、前記の建築学情報教育データベースに登録していただきたいものである。
 2)の成果については不明であるが、これもWeb上に公表されることを期待したい。
なお、大学名等の掲載にあたり、以下のコメントをいただいた。

1)「『建築入門講座』は当研究室が運営しておりますが、『Virtual School of ARCH.』は有志との共同作業であります。また、どちらのコーナーとも授業と直接連動しない資料情報も含まれています。」
2)「その後、改組転換により、短大部・建設科が4年制大学(美術学部・建築学科)に移行されることになり、学部生の教育テクニックとして、継続して試案・検討しているところです。」


図3 「建築入門講座」のページ
URL:http://www.htokai.ac.jp/DA/wtnb/study/index.html
 
 
図4 Virtual School of ARCHI トップページ
 
 
図5 教材のページ1
 
 
図6 教材のページ2


5.まとめ

 回答の中でも見られたことであるが、教材、特に自作ソフトなどを作るには多くの時間が必要となり、作成の分担や共用という方法ができれば望ましい。Web上で公開されたページは、例えば、前出の建築学情報教育データベースに登録していただき、共用の道を公開してもらえると、その教材そのものも有効に生かされることになる。利用する場合、出典を明示して、作成者に報いるというような礼をつくす。いかに学生のレベルに合わせて教材を用いるかが、教えるものの技量ではないかと考える。よい教材を提供するのは作成者の度量である。教材そのものは、多くの人に使ってもらってこそのものであろう。ぜひ、多くの方々が自作の教材を公開してくださることを期待する。
 昨今は建築を志望する学生そのものが減少していると聞く。建築に関する教材を含めた色々な情報が公開され、建築に学生を惹きつけられるようにしなければならない。そういう意味でも建築学情報教育データベースに様々な情報を登録していただくことを切望する。アンケートのまとめが1年以上も遅れてしまい、結果の鮮度があせてしまったかもしれないが、回答いただいた資料が少しでも今後の授業の工夫改善の糧にならないか、と願いながら紹介させていただいた。この場をお借りして回答者の方々へお礼とお詫びを申し上げたい。
 最後に、教材のヒントになるきっかけとして、自作ソフト、開発して欲しいソフト、公開されているURLの詳細を挙げておく。

(1)自作ソフト

構造系: AutoCadLT(自作、構造計算等)、フレーム解析ソフト(VB)
イントラネットのホームページで説明し、自作ソフトで、シミュレーションする。
マトリックス法による簡単な応力計算(トラス、ラーメンの応力)静定梁のMQ図の図示と値の表示(集中、等分布、等変分布および組合せ載荷)。年1回およびマトリックス法による平面トラスの変形および応力計算。必要時に学生に見せる。
完成度8割の解析モデルのケーススタディ/変数は、ヤング係数比、部材断面等。
(Visual Basicで静定梁の応力、変形図を図示し、値を表示するプログラムを学生各自に作らせる。)
環境設備系: Excel、VBAを利用して防音計算のシミュレーションソフトを作成中。
描画・モデラー・レンダラーソフト、自作の自動配管自動ダクト設計・呈示ソフトなど
計画系: ホームページへの写真入れ込み用ソフト。

(2)開発して欲しいソフト

構造系: 力学自習用ソフト、振動解析ソフト、構造解析ソフト(教育用廉価版)
Javaで書かれたWeb上で利用可能な構造解析ソフト
フリーソフトで使える構造力学関係のソフトやその情報
環境設備系: 各設備メーカー製品の電子化データ、環境工学関係(伝熱計算、照明計算、音響計算など)で使用できるフリーソフト
計画系: スキャナーの使用を簡単にできるソフト、CADソフト
GIS関連の学生が利用しやすい廉価版ソフト、町並み景観評価のソフトなど

(3)URL

http://www.htokai.ac.jp/DA/wtnb/study/index.html
http://www.htokai.ac.jp/DA/vschool/index.html
http://y-nts.fuce.fukuyama-u.ac.jp/(8月以降は下記へ)
http://y-nts.fuhrc.fukuyama-u.ac.jp/
http://www.andos.k.hosei.ac.jp/
http://www.dohto.ac.jp/
http://tera730.b6.kanagawa-u.ac.jp/teraolab/teraolab.html(原則未公開、履修学生には公開)
http://www.arch.cst.nihon-u.ac.jp/~ilab(準備中)
http://juce.shijokyo.or.jp/senmon/kentiku/jirei_kyouzai/index.html


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】