経営工学の教育における情報技術の活用


マルチメディアを活用した生産管理演習授業


渡辺 一衛(成蹊大学工学部教授)



1.はじめに

 経営工学の多様性を、応用場面の経験が少ない高校生や大学の新入生に画一的に伝えることは非常に困難です。そのため、応用場面において経営工学がどのように役立っているのかを学生に示し、経営工学に興味を持たせることを目的とした教材を作成することにしました。
 生産管理に関連した管理技術であるIE(インダストリアルエンジニアリング:industrial engineering)およびVE(価値工学:value engineering)の分野について、マルチメディアを活用した教材の作成を筆者は担当しました。両分野ともほぼ同じ構造で作成してあるため、授業に試用したVEの事例を中心に報告します。


2.授業のねらい

 「VE入門」は、1)VEとは何かを理解し、企業での役立ちについて知る、2)VEの問題の定式化とその解決法について学ぶ、3)VEの事例に基づき、VEの基本ステップを学び、応用ができるようになる、という3段階によりVEの概要を知り、演習を通じてその内容を体験することを目指しています。特に、シラバス全体の目標として掲げた、高校卒業直後の学生の理解を深めるため、企業における応用事例を示すことが重要な要件です。


3.授業の運営

(1) 教材運用の環境条件

 本教材は次の条件で使用しました。

CPU:PentiumIIIプロセッサ450MHz
メモリ:64MB
HDD:12GB
本文:Internet Explorer5.0またはNetscape Navigator4.6にて再生可能
動画像:Media PlayerなどのMPEGの画像が再生可能か、Internet Explorer5.0などのJPEGの画像が再生可能
静止画像:MS-Excel、PDFまたはJPEGの画像のいずれかが再生可能

(2)授業の構成

 上記の段階をもとに、表1に示す8セクションからなる授業内容を設定しました。プレゼンテーション全体の標準正味時間は60分であり、残りの時間を前回のレポートの解説、今回のレポートの説明、VEに関する補足説明などに用いることとしました。

表1 VE入門授業構成
番号各セクションのテーマ使用時間・内容累計時間
VEの概要5分(説明)0〜5分
会社説明と商品紹介10分(約3分ビデオ画像)5〜15分
問題状況と解決プロセス20分(約10分ビデオ画像)15〜35分
VEの対象選定5分(ワークシート1枚使用)35〜40分
VEの機能定義5分(ワークシート3枚使用)40〜45分
VEの機能評価5分(ワークシート2枚使用)45〜50分
VEの改善案の作成5分(ワークシート6枚使用)50〜55分
VEの提案と実施5分(ワークシート1枚使用)55〜60分


4.授業時間の学習内容

 作成した代表的な画面例とともに各セクションの学習内容を以下に示します。

(1) 画面の構成例(図1参照):VEの概要

 経営工学分野でのVEの位置付けを理解することを目標にしています。画面の構造として、標題(テーマ)、目的、方法という項目分けにより1ページを構成しています。

(2)写真を利用した構成例(図2参照):会社説明と商品紹介

 VEを適用している会社での具体的な事例を写真を中心にして紹介します。詳細な会社説明が必要な場合には、ホームページを参照できるように設定してあります。

(3)ビデオ映像を利用した構成例(図3参照):問題状況と解決プロセス

 旧製品の問題点およびVEを適用して得られた新製品をビデオ、写真により紹介します。さらに、会社でのVE適用による製品開発の模様をビデオにより再現しています。

(4)ワークシートを利用した構成例(図4参照):VEの対象選定以降のセクション

 これ以降のセクションではVEの適用手順について、事例を基に紹介します。説明に必要なワークシートは、Excel形式、PDF形式、HTMLによる画像2種(大きい画像と小さい画像)の合計4種類を用意し、インストールされているブラウザの影響を受けないようにしました。また、前のセクションまでに示されたワークシートとの関係を示すために、ワークシートの用語にリンクを張り、前のワークシートを参照できるようにしました。セクション5〜8は自習用の教材でもあり、これに基づいてレポートを作成できるような構造としてあります。

図1 説明用の画面構成例
 
図2 写真をベースにした画面例
 
図3 ビデオを利用した画面例
 
図4 ワークシートの画面例


5.授業の効果と今後の課題

 実施実験対象者は学部3年生19名でした。授業中に講義を行い、後で各自この教材を用いて自習形式で学習しました。アンケートによれば、この教材を見て初めてVEの内容について理解できたという学生が8割程度いました。また、この内容を学び、VA/VEを理解した学生は9割を超えていました。この理由として、1)これまでは講義中心の授業だったが、今回はパソコンを利用する授業であったため、学習内容の印象が強くなった、2)自分のペースで理解していけた、3)総合的なレポート課題があったので、内容をよく理解しないと書けなかった、などが考えられます。
 最後に、教材を作成・使用した体験から感じた今後の検討項目を以下に列挙します。
  1. 授業形態(遠隔授業と対面式)に対応したコンテンツとその表現方法の検討。
  2. ネットワークを利用したコンテンツを使用するときの動作環境の整備。
  3. 副読本、テキスト、実物を利用した遠隔学習の検討。
  4. ネットワークを利用したグループあるいはプロジェクト型の学習形態の検討。
 VE入門の内容を作成するにあたり、次の点に留意しました。
  1. 授業内容の作成方法をできるだけ手順化し、同じ手順により他の内容も作成できるようにする。
  2. 授業内容の構造(図5参照)を作り、これに基づいて画面の作成をする。
  3. 画面1ページの構成のルールを決め、どの画面も同じ構成からなるように標準化する。
  4. 画面に使用する文字や色分けの仕方も標準化する。
  5. 授業の内容が入ったファイルを管理する方法を手順化する。
図5 授業システムの構造図
 このような手順化、標準化を行ったために、次に作成したIE入門の授業内容は、短期間で完成することができました。


参考URL

http://www.is.seikei.ac.jp/%7Eisie/index.html



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