経営工学の教育における情報技術の活用
富澤 儀一(東京理科大学理工学部教授)
(1) 基本編
人間工学の歴史的発展を考えながら、「なぜ必要か」、「どのような学問か」、「どの学問分野と関わり合っているか」について述べます。
(2) 応用編
応用編は3編から構成されています。「応用編(1)」では、「大気圧潜水服」を紹介し、安全性と効率性を評価します。「応用編(2)」では、深海の作業で用いられる「飽和潜水法」を紹介し、高圧環境下で働く人間の生体反応を評価します。「応用編(3)」では、「呼吸気の分析」によるAT値および代謝エネルギーの測定を紹介します。
本教材で用意したファイル群を表1に示します。またこれを実行するに必要なハードウェアの仕様およびソフトウェアは次の通りです。
表1 教材のファイル ファイル名 容 量 備 考 基本編 基本編.ppt 10.4MB、10分 人間工学の導入、ナレーション入り 応用編(1)
大気圧潜水服潜水服.ppt
歩行実験.mpg
sensui3.mpg
sensui4.mpg
sensui7.mpg5.5MB, 8分
7.2MB, 18秒
5.6MB, 16秒
11.4MB, 50秒
2.8MB, 6秒大気圧潜水服の意義・評価
水中での歩行
大気圧潜水服の全容
大気圧潜水服のコントロール
海底都市応用編(2)
飽和潜水飽和潜水.ppt
sdc.bmp
sennsui101.mpg
sensui105.mpg
sensui202.mpg
sensui203.mpg
sensui204.mpg
sensui9.mpg12.5MB, 8分
225KB, 1枚
4MB, 15秒
8.5MB, 30秒
4.0MB, 15秒
4.2MB, 15秒
4.4MB, 15秒
4.6MB, 15秒飽和潜水の基本的な原理
潜水シミュレータの写真
高圧環境下の呼吸
エックスカージョン
加圧・減圧、減圧症
圧力による物の破壊
潜水シミュレータ
呼吸特性の計測応用編(3)
呼吸気の分析mass.ppt
at.ppt
metab.ppt1.0MB, 4分
7.2KB, 3分
6.9KB, 3分呼気分析システムの構成
AT値と運動能力
代謝エネルギーの測定
(1)基本編
人間工学の導入にあたり、「なぜ必要か」、「どのような学問か」、「どの領域と関連するか」について、PowerPointのスライドと写真により容易に理解できるように説明しました。またスライドにはナレーションが挿入され、必要に応じて復習などに利用しやすいようにしました。
1)なぜ必要か
産業革命以来技術進歩に重点を置いたあまり、人間を無視した結果、人間が機械に適合できなくなりました。使いやすい、安全な機械のために、人間と機械を一体化したシステム、すなわちマン・マシンシステムととして捉え、快適な機械設計をするアプローチが必要になりました。
2)どのような学問か
マン・マシンシステムの考え方は、人間にとって使いやすい、機械を設計するアプローチとして評価されるようになりました。人間工学は人間本意の機械・環境を創る学問です。すなわち、人間の特性に合わせた機械・環境をデザインするための学問です。
3) どの領域と関係するか
人間工学の固有の手法はないので、これらに関係する他の分野の手法を利用しなければなりません。このために、多くの分野との連携が必要となります。人間工学の対象領域は非常に広いので、特に深い関係にあるのは、システム工学、生理学、経営工学、制御工学、心理学などです。
(2)応用編
人間工学の応用編として、「大気圧潜水服の評価」、「飽和潜水法」、および「AT値、代謝エネルギー測定」の三つの適用例を示します。
1) 大気圧潜水服の評価
大気圧潜水服は、人間と機械・環境を最も端的に説明することのできる材料と考えられ、取り上げました。海難事故では、ロボットによる調査・作業よりも、人間が実際に深海に潜り、目で確かめて判断する方が的確な場合が多くなっています。近頃、深海に潜る潜水服がカナダで開発され、NewSuitの名で商品化されています。この潜水服は内部では、1気圧にコントロールされ、最大深度300mまで潜ることができます。(図1、図2)
この潜水服では、巧緻性はどうか、操作性は、どのような作業ができるか、安全性は?というような問題について評価します。
2) 飽和潜水法
水深90m(10気圧)では、減圧症に罹らないためには、たった40分の潜水に対して334分の浮上時間が必要です。このように、深海では、作業をする時間よりも浮上時間が長くなり、潜水効率が飛躍的に小さくなります。大陸棚の資源開発、船の救難など、人間が深海に直接潜り、安全にしかも効率的に作業を行なわなければなりません。潜水効率を向上させるために、1960年代にG.F.ボンドが提唱した飽和潜水理論があります。この理論によると、「体内の不活性ガスが飽和状態になり、飽和状態で何時間作業をしても、その浮上時間は一定である。」
この理論による実用化は1980年代には完成し、大陸棚の資源開発、海難事故の救難に役立てています。図3は飽和潜水法による潜水法の概要です。この方法では、直接人間が高圧に曝されるので、解決しなければならない種々の問題がありますが、その中で、人間が生息するに必要な呼吸の問題を取り上げました。
3) 呼吸気の分析
人間と機械・環境を一体化したシステムとして考える上で、人間の特性を知ることが重要となります。この一つの方法として、呼吸気の分析によって種々の生体情報を得ることができます。本教材では、生体情報として、AT値と代謝エネルギーに焦点を当て、紹介します。
〈1〉 AT値の測定
AT値は無酸素代謝閾値と言われ、有酸素代謝に無酸素代謝が加わる時点での酸素摂取量です。このAT値が大きいと運動能力が大であるといわれ、体力測定の指標として用いられます。特に耐久性を必要とする運動の適正にはAT値が重要視されます。この測定には、人体に決められた手順で負荷をかけて、呼吸気を分析・処理することによりAT値が求められます。この測定法と測定結果について紹介しています。
〈2〉代謝エネルギーの測定
呼吸気の分析データを高等学校で学習した熱化学方程式を用いると、体内で消費される燃焼エネルギーの総量を求めることができます。さらに、糖質と脂質のそれぞれ燃焼エネルギーの比率が測定できます。種々の環境下での代謝エネルギーを求めると、人間と環境の関係を知る上で重要な手掛かりが得られます。測定原理と測定結果について紹介しています。
図1 大気圧潜水服、(NewSuit) 図2 マニュピュレータ 図3 飽和潜水法 図4 AT値の測定 図5 代謝測定