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シェフィールドハラム大学のアドセットセンターを見学して

図書館情報サービスとコンピュータ利用、
メディア制作部門と学習と教育の研究所が統合されたラーニングセンター


眞鍋 信太郎(東京工芸大学工学部教授)



1.はじめに

 2001年5月12日から24日、図書館計画コンサルタントが主催する英国図書館の視察旅行に参加した。視察目的は大きく3点あった。一つは、歴史の古い英国の公共図書館の現状を見ること、The People’s Network[l]と呼ばれる公共図書館のIT化推進策によって、どのように図書館のIT化が進んでいるのか、その運営上の工夫や問題点を含めて確認すること。二つ目は、近代建築の遺産であるセント・パンクラス駅に隣接して新設された大英図書館を見学することと、その貸出部門で世界中を相手に、日本の企業や研究所も情報サービスを受けているボストンスパ(リーズ近郊)のBritish Library Document Supply Centre(BLDSC)を見学すること。そして、三つ目に大学図書館として、シェフィールドハラム大学(以下SHU)のアドセットセンターを見学することであった。
 今回の視察対象の設定には、英国とスコットランド両図書館協会の協力を得たことから、成功例に偏った嫌いはあったが、短期間にいろいろな典型的例を見学することができた。また、参加者が大学人や建築関係者だけでなく、図書館員、図書館関連業者、文庫活動や図書館設置運動の方も加わっていたので、多様な視点が加わり有意義であった。
 ここに報告するアドセットセンターは、事前のWeb検索[2](図1)では変わった形態の大きな図書館と予想していた。駅前のバスセンター奥の急傾斜地に建つ建物であったが、はじめに丘側の6階レベルの講義室ゾーン出入口に案内されて面くらい、セミナー室で館長Graham Bulpitt氏のPowerPointによる説明とコーヒーブレイク後の館内ツアー[3]で予想外の内容に驚かされた。まず、建築空間が快適であった。開放的でゆったりした空間に書架と多様な形でPCが置かれた閲覧机が並んでいた。全館で500台という数の多さとともに、大勢の学生とその集中した姿に感心した。しかも、利用者が多く、上下に連続する空間にも拘わらず全体が静かに保たれており、社会の仕組みや大学制度の違いはあるものの、ぜひとも参考にしたいと考えた。

図1 Adsetts Centre electronic guide
http://www.shu.ac.uk/services/lc/lc_guide/  参照


2.SHUのラーニングセンター

 ラーニングセンターは公共図書館内にも見られた。職業に就く経歴の向上のため、あるいは生涯学習のため、コンピュータを学習することと一体になっていた。しかし、SHUのものは図書館を含め他の組織や機能も統合しており、独自のモデルと考えてよいだろう。

(1)SHUのラーニングセンターの背景

 この組織は1996年9月にスタートした。図書館サービス、利用者用コンピュータ、メディア制作部門、そして学習と教育の研究所(教官も加わった研究組織Learning and Teaching Institute:以下LTI)を統合しており、3キャンパスを横断して、中心キャンパスのアドセットセンター(施設名)内の蓄え(Provision)を運用している。
 この統合は、大学教育において顕著になっている「教える」ことから「個々人で学ぶ」への移行に対応することと、情報技術の可能性を先取りして実施された。学生数の増加と学生の多様化という問題に制約予算の中で対応するため、Independent Learning(セルフラーニング)を推進することにし、それを担保する資料提供と場所・装置の提供を一体にし、一方で学習・教育用ソースを作成し使用を支援する部門、そして学習法と教授法の研究機関を統合して、学ぶ側と教える側双方を支援することを目指したとあった。

(2)他大学への影響

 このSHUのラーニングセンターのモデルは多くの大学で、特にスカンジナビヤで採用されているとのこと。また、国際的にも有名になり開館以来、2,000人を超える国外からの見学者が来ており、次週館長はポルトガルに出かけ紹介するとのことであった。

(3)学寮(schools)や研究所との関係

 この組織は、「学生の学習を刺激し、教える側の専門的な活動を高めるに足る質の高いサービスを提供することで、大学の発展に貢献する」ことを目的にしており、学寮や研究所との協調が大切である。そこで、情報専門担当者を学寮や研究所に割り当て、学寮内の情報資源に関する専門家として、情報資源の最大の能力がコース運営に発揮されるようコース展開チームの一員にしている。情報の扱い方を学生に教える担当でもあり、ラーニングセンターのサービスが学寮の教育と研究スタッフそして学生の要求に適合するよう責任を持つ。また、LTIによる学習と教育の点検評価を受けるとともに、大学の主要な運営会議にセンターの代表を出しているとのことであった。


3.ラーニングセンターの活動について

(1)SHUの概要

 国立の大学で、1992年にシェフィールドシティ技術専門学校(Polytechnic)から総合大学[4]になっている。学生数:約24,000人(Part time 7,200人含む)、スタッフ:3,000人(800人の教授)、400以上の選択コースと11学部、6研究所を持つ。市内の3キャンパスからなり、アドセットセンターのあるシティキャンパスが最大。年間予算は1億1千万ポンドである。英国の100大学中、6番目と規模の大きい大学で、学生はこの地域からが3分の1で、他はUK全土、海外からも来ている。

(2)アドセットセンターの概要

(3)ラーニングセンターの活動状況

 館長から、各担当グループの今週の活動状況が示された。(以下、数値は週単位)

  1. 情報サービス担当者は、(今週、以下省略)
    ・3キャンパスの施設に53,000人以上の来館者を迎える。通常1万人/日の学生が利用し、24時間開館している。(フルスタッフサポートは8時45分から21時までである)
    ・65,000冊の図書の貸出と返却を行う。
    ・2,336件の質問に答える。
    ・48のグループと、62の個別指導を行う。 ・40人の遠隔地学生に対して情報サービスを用意する。
  2. スタジオ担当者は、
    ・900以上のクラスにAV装置を供給する。
    ・98のTV録画をし、800のVTR録画を教官に貸し出す。
    ・800の写真とスライドを撮影、処理する。
    ・30分間TVを台本も含め制作を担当する。
    ・出版物を1,500ポンド販売する。
  3. LTI担当者は、
    ・20万ポンドの外部との契約を取決める。
    ・間もなくあるTQA(教育評価)について、大学担当者に助言する。
    ・時間割の構成を検証する。
  4. LTIマルチメディア担当者は、
    ・教官がマルチメディアパッケージ(55本所有)を用いる支援をする。
    ・コンピュータを用いた学習を評価する。
    ・教育担当者に対して5回のセミナーと1回のワークショップ(1日)を行う。
であった。多機能な組織の姿が伺える。

(4)学生の利用状況

 利用者にとって、この施設は、従来の大学図書館に自由に使えるPC、マルチメディアパッケージ、データベース、多くのアプリケーションソフト、インターネットアクセスが付加されたに過ぎない。その利用は、コースの学習に必要な資料と情報があり、所在検索ができて一定期間に手に出来る仕組みと有用な資料の保有量によって決まってくる。
 このセンターへの来館者数が1日平均1万人であることは、学生数に比しても決して少なくない。また、図書利用だけを見ても、65,000冊/週の図書貸出量は多いと言える。図書はKey text, Day loan, Week Loan, Long Loanと授業コースとの関連で貸出区分されており、図書の返却遅滞金もKey textでは時間当たり約100円と厳格で、コースの受講には指定された図書が必須であり、よく利用されていることが分かる。同時に、印刷媒体以外の利用も盛んと推測できる。

(5)スタッフについて

 職員は250名で、情報サービス、メディア制作、LTI、セントラルチーム(財務、マーケティング、蔵書計画、システム担当)、シニアスタッフ(各専門の統括責任者4人)に分類される。それぞれチームを組んで担当しており、ピラミッド型ではない。各人は自己の専門性を生かして働くが、他のグループと協同作業することも多い。例えば、バーチャルラーニングの場合では、情報担当に教育担当、マルチメディア担当、研究調査担当、システム担当者が協力して行っている。
 図2はスタッフの出身分野と相互の関連[6]を示すが、各自出身分野の研鑽は当然として、他分野の知識や技術の研修が必須とあった。

図2 スタッフ研鑽の枠組み


4.館内ツアーから

(1)利用者領域に関して

 図3の6階レイアウト[7]はまるで図書館であるが、写真1のように閲覧席には多くのPCが並んでいる。館内は平面的にも上下にも連続し、また家具配置の自由度も保たれている。
 写真2は書架近くに置かれた15分間の制限付きPCである。ここで、学生は選択コースの図書リストから所在位置や貸出区分、予約状況を調べる。オンラインカタログとデータベース検索のデモがされたが、日本からもアクセスし検索可能である。しかしデータベース内には登録者でないと入れない。

(2)スタッフ領域に関して

  1. 4Fのメディア制作スタジオ
    アニメスタジオで作成ソースの例を見学。
    ・不動産学科のプロモーション用VTR
    ・心理学の識別に関するCGアニメーション
    ・交通関係のアニメーション教材
     状況を見て、問題を発見し解決案を示す課題。
    ・CGアニメーション作成の基礎技術学習用
  2. 7Fの LTI内Multimedia Centre
    Virtual Learning 教材の開発作業見学。
    ・Fields Tripの例
    ・不動産関係の例
     実際に家の中を見学できる機会は稀である。そこでQuick time VRMLで仮想体験させるもの。
    ・映画や出版関連学生の演習課題の例
    断片イメージを組み立て直し物語る課題。
これらスキルの高い専門チームによるソース作成体制とその環境は、大規模大学ゆえに可能なのであろうが、羨ましい限りである。
図3 6階の社会科学、法律分野
左は講義棟部分で左下に専用の出入り口がある。
http://www.shu.ac.uk/services/lc/lc_guide/
 
写真1 7階LTI会議室から6階を見る
開放的な空間、閲覧机のPC設置状況がわかる
 
写真2 階段吹抜け周りの検索用15分PC
左手書架は手前から図書、雑誌、VTRの順で各階ほぼ同じ。
吹抜け右手には閲覧席が並ぶ。


5.おわりに

 セルフラーニング推進の蓄積と成果を見ることができたが、それらを外部へ販売し資金調達する計画であった。さらに、今後の重点課題として、センター活動内容の継続的な検証と評価、スタッフ研修の継続的強化、蔵書量の不足の解消、研究者・大学院生の研究活動の支援強化、教育スタッフ間でのセンター認識の不揃いや学寮スタッフとの関係の不均衡の解消、が挙げられていた。


[1] 1998年4月英国政府により政策化された。
[2] http://www.shu.ac.uk/services/lc/lc_guide/
ここから施設内配置・装置内容等が検索可能。
[3] 取得資料と当日のVTRテープ(沖縄大学組原洋教授撮影)は私情協事務局に保管願った。
[4] 詳細はhttp://www.shu.ac.ukを参照されたい。
[5] 建設費の1/4は英国政府からで、3/4は日本興業銀行からの借り入れとのこと。
[6] 館長のプレセンテーションから作成した。
[7] Adsetts Centre electronic guideより転記。


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