私情協ニュース1

平成13年度教育の情報化フォーラム開催される



 平成13年度「教育の情報化フォーラム」が、6月22日(金)、23日(土)の2日間、大阪の追手門学院大学において開催された。参加者数も昨年度とほぼ同数の約400名余り(135大学、12短期大学、賛助会員20社)に上り、今後の授業改革の視点から「情報技術を活用した教育の情報化」に関わる問題について、テーマ別に幅広い討議が行われた。
 第1日目の全体集会では、フォーラム運営委員長山崎和海氏(立正大学)司会のもと、戸高敏之私情協会長(同志社大学)による開会挨拶、そして会場校を代表され追手門学院大学の戸塚 登学長による示唆に富んだ挨拶が行われた。
 フォーラム運営委員の紹介に続いて、「大学教育の情報化の意義と課題」と題し、舘 昭氏(大学評価・学位授与機構評価研究部評価システム開発部門教授)による、21世紀冒頭のフォーラムの基調講演が行われた。同氏は、情報技術の発展は高等教育に新たな可能性と危機をもたらしつつあるとして、このハイテクの装備に失敗した大学は衰退せざるを得ないとの論調の下で、「大学とITとの関係(教育のIT化、e-Learning、distance learningなど)」、「世界的な傾向とアメリカの数々の事例」、そして「教育力のある授業展開」について、さらに「国家的戦略(大学を起点とする日本経済活性化のための構造改革プラン)」についてご講演された。
 引き続いて、井端事務局長による私情協活動報告として、平成13年度の事業計画、日本私立学校振興・共済事業団の補助金申請についての補足説明等が行われた。
 フォーラム運営委員(各2名)による司会のもとで進められたテーマ別分科会(第1日目4分科会、第2日目4分科会)では、実質2時間半ほどの時間を有効に使った、課題提起者(1名から2名)を中心に、会場からの積極的な参加を得た活発な討議が行われた。今年もフォーラムの趣旨である「授業改革の視点から教育の情報化に関わる問題について広く討議を行い、対応策を模索する。またそれぞれの教育現場で実際に直面している問題・課題についての意見交換と情報の共有、会員同士の理解と協力を必要とする問題および関連情報等について協議すること」が、全体的に活かされたフォーラムとなった。
 また第1日目の分科会終了後に懇親会が開催され、参加者相互の親睦を深めることができた。また2日目の分科会終了後の午後に、追手門学院大学のキャンパスツアーが組まれ、多くの方々がキャンパス見学に参加された。
 最後にあたり、本フォーラムの会場校をお引き受け下さった追手門学院大学の関係教職員の皆様に謝意を表します。

(文責:立正大学 山崎 和海)



テーマ別自由討議(6月22日)

A:大学におけるネットワークセキュリティー

 本セクションでは、大塚秀治氏(麗澤大学国際経済学部助教授)より、大学におけるネットワーク管理を推進する立場から、ネットワーク・セキュリティの現状や最近のトラブルに見られる特徴などを解説いただき、ネットワークセキュリティ・ポリシーの重要性を訴えられた。引き続き、内田昌宏氏((株)ネットマークス ネットワークシステム事業本部長)に不正侵入監視システムIDSの詳細機能を紹介いただき、こののち討議に入った。
 最近のインターネットの規模増大につれて、セキュリティ・トラブルが増加している。例として、バックドアを作った不正侵入、スパム中継などの不正利用、特定のサイトに大量のパケットを送り続けてシステムダウンさせるDoS、さらにそれを複数のマシンから行うDDoSなどがある。一方、攻撃ツールをダウンロードできるサイトなどからツールを入手したエンドユーザーが、遊び半分でハッキング攻撃を行うケースが増えつつある。また、いわゆるウィルスメールによる被害も大きい。ウィルス感染の90%がメールによる感染とも言われ、偽のウィルス情報を流すデマメール対策などもあり、注意深い管理体制が必要である。
 ネットワーク・セキュリティの支援システムには、FIREWALLやIDSなどがある。IDSとは、不正攻撃パターンのDBとサービスプログラムのパケット・モニタリング機能を用いて、送受信パケット中に該当パターンを検知したとき、警報の送付やサービス自体の停止が可能なシステムである。
 セキュリティ・トラブルの形態は多様に拡大しつつあり、FIREWALLやIDSもその設定や使用法に注意し、常に監視や維持を続ける必要がある。定期的なシステム監査の実施は、セキュリティ維持のためには必須であり、そのためにも、「ネットワークを含む学内情報システムの運用・利用の指針」を運用者・利用者に伝達し遵守させることが必要である。
(文責:武蔵大学 梅田 茂樹)


B:高校の新教科『情報』と大学における人材育成の課題
  −高校新教科の実施と大学の対応を考える−

 平成15年度より高校において新教科「情報」が独立・必修の科目として展開されようとしている。それに対応すべく平成13年度より全国数百の学部・学科で、教員養成のための授業が展開されている。
 本分科会では、新教科「情報」の成立に関わった岡本敏雄氏(電気通信大学大学院情報システム学研究科教授)を招き、講演いただいた。
 岡本教授の講演では、新教科「情報」が専任教員による独立した必修科目として設置された背景、その中核となっている教育目標、カリキュラム構成の考え方、諸外国における情報基礎教育の実態、教育を実施する教師に求められる条件、本年度における高校側の動向など、具体的かつ多岐にわたる説明と問題提起があった。
 岡本教授による講演に対して、会場からは活発かつさまざまな質問や意見が出された。各大学とも新教科「情報」のためのカリキュラム設定や実施上でさまざまな問題を抱えていることが明らかにされた。特に制度上でさまざまなグレーゾーンがあることに問題があるとの指摘があった。また、新教科「情報」の内容の一部には高校教育の水準を超えているものや、情報科教育法のように内容がまったく新しいものがあり、新教科「情報」教育を維持・運営していく不安も聞かれた。しかし、本分科会の議論その他を通じて次第に問題点が明らかになりつつあり、今後、新教科「情報」は様々な改善が施されつつ、我が国の情報基礎教育の発展に寄与していくものと期待される。
 本分科会には100名近い参加者があり、教員養成教育を実施する諸大学側にとっても今回の議論や意見交換を通じて、新教科「情報」の基礎となる考え方や問題意識が共有されたことには大きな意義があったといえよう。
(文責:専修大学 齋藤 雄志)


C:教材コンテンツ作りと支援環境

 わかりやすい授業、興味をもたせる授業を展開する上で、教材のデジタル化は必要不可欠な手段になってきた。これに伴い、学生の利用環境整備はもとより、教員の教材コンテンツ作りを支援するための環境整備が今まさに求められている。しかし、現実には教員のスキルアップをはじめ製作支援や知的所有権への対応など組織的な体制づくりまで至っていないのが実情である。
 本分科会では、まず宇野正人氏(江戸川大学社会学部助教授)より、学内の情報環境ならびに教材コンテンツの事例を紹介いただくとともに、作成教材の著作権、使用権を含めた教材コンテンツの公開性に関する諸問題や、素材利用の際の知的所有権、教材の共有化・大学間連携の必要性、教員の学内評価のあり方、人的支援を含めた学内支援組織体制づくりなど、様々な課題をご提起いただいた。
 続いて、とりわけ今後の教材コンテンツづくりに欠かすことのできない知的所有権問題に的を絞って論議するため、紋谷暢男氏(成蹊大学法学部教授)にコメンテーターとしてご登場いただき、作成教材ならびに素材活用の際の知的所有権について、ガイドラインを紹介いただくとともに、参加者との熱心な質疑応答がなされた。本分科会における参加者の関心は、知的所有権問題に集中し多くの質疑応答が行われたが、個々の教員が現実的に悩みながら教材コンテンツ作りに取り組もうとしている姿を実感した感がある。
 今後、知的所有権等に関する諸問題を含め、教材の共有化、大学間連携など学内外の組織だった支援環境を早急に整備していくことが必要不可欠であろう。
(文責:長崎総合科学大学 横山 正人)


D:リメディアル教育と情報技術
  ―情報技術を使ったグループ学習の組織化―

 入学生の基礎学力の不足や入学生相互の学力差の補正の必要性は、いわゆるリメディアル教育と呼ばれ各大学で議論され、それぞれの目指す教育を実施していく上で避けて通れない問題の一つとなってきている。これに対する従来までの対応は、プレースメントテスト等による学力別クラス編成と少人数教育が基本的なやり方であった。当然のこととして、これには施設・設備およびマンパワーが必要であり、コスト等の面から現実的な解決になっていないのが実情である。こうしたやり方はいわば「囲い込み型の教育」である。これに対して、課題提起者である小嶋弘行氏(広島工業大学環境学部教授)は企業等の情報関連の部署で行われている社員教育の方法と効果について詳細に報告され、適切なグルーピングのもと、明確な目標と役割分担を与え、ネットワーク技術等による支援があれば効果的な協調学習が行われ得ることを示唆された。実際、氏は担当する授業でグループ学習を試行し、詳しい評価は行っていないが、かなりの成果が見える旨報告した。
 これに対して、かなり具体的に踏み込んだ質疑応答がなされた。従来型の囲い込み型補習教育との比較で議論され、学力差のある者で構成するグループ内での協調学習による学力の底上げの可能性について議論があり、達成目標の明確化、サポート体制の重要性などが指摘された。さらに、電子メールなどの情報技術の支援が重要な要素となるだろうとか、語学の学力低下が言われているがこれに対応できるかなどの問題が提起された。リメディアル教育の議論は、レベル合わせの問題と学力の底上げ問題を整理してなされるべきであるとか、評価や達成目標の多様化を積極的に取り入れる必要があるなど多くの指摘がなされた。小規模のセッションの良さを生かした熱心な討論ができ、今後に課題を残して終了した。
(文責:広島工業大学 喜久川政吉)


テーマ別自由討議(6月23日)

E:ネットワーク利用とユーザー教育

 本分科会では、森下 正氏(明治大学情報科学センター副所長)から、ネットワーク利用のためのユーザ教育について課題提起をいただいた。司会者の下坂陽男氏も所属を同じくするため、明治大学の事例を中心に討論が進められた。
 明治大学では、内部監査制度も含めて学内ネットワーク管理のための規程類が早くから整備されている。ネットワーク利用のIDにはアクセスレベルが定められており、無条件に与えられるレベル1では学内のホームページしか閲覧できない。しかし、インターネット講習会や特定の講義を受講することにより、通常のインターネット利用(PPP接続と情報コンセント利用を含む)が可能となる。講習会は、共通のテキストを用いた70分間のコースが年間40〜50回開催されており、大部分がトラブルとなった事例と措置の紹介など、倫理面の解説に当てられている。この内容は、http://www.meiji.ac.jp/mind/seminar/shikaku2001/index.htmlに載せられている。また、規程類をわかりやすく解説したガイドラインを整備・改訂し、便覧・シラバスへの掲載も含めて周知徹底をはかっている。
 このような教育の効果により、違反の発生件数は年間2、3回と少なくなっている。他方、違反内容が学外にかかわる比率が増えており、学生が裁判等に巻き込まれる危険もある。ただし、迅速な対応が可能で、かつ学内措置が明確であるため、刑事事件に発展する可能性がある違反者でも、学内措置の範囲内に留められる場合がある。
 なお、教員ホームページからの発信内容とプライバシー保護および言論の自由にかかわる問題や、実習室の入室管理と利用マナー、サポート要員の配置等についても討議が行われた。
(文責:関西学院大学 岡田 孝)


F:学内情報部門の統合化をめざして

 50名余りの参加者の下、齊藤 剛氏(東京電機大学総合メディアセンター長)と、当時、メディアセンター設立に関わられた蓮尾章子氏(教務第一課長)より事例紹介いただいた。
  1. 電子計算センター、図書館、事務システム開発室、教育工学センター→総合メディアセンターに統合。
  2. 扱う情報資源は、ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク、データベース、書籍、活字資料、メディア資料である。また、学園全体のネットワークを設計・運用・管理し、学園の情報環境の充実と最適化をはかっている。
  3. 横断的組織として、人的・物的資源の配置の最適化をはかり、各部署やキャンパスに依存しない全体的かつ柔軟な組織を目指している。
  4. 統合化の効果としては、予算が一元化されたこと、中期の年次計画、重点的事業を教授会に図る必要がなくなったこと、キャンパス横断事業が容易になったことなどが挙げられる。
  5. 抱える問題は、組織が大きくなり柔軟性に欠けること、「センター予算」が大きくなり、目立ってしまっていること、人事異動はスキルがないと容易ではないことなどである。
  6. これからの課題としては、電子図書館の構築、コンテンツ作成および支援、組織としてのさらなる効率化、センター教員の配置などである。
 この後、熱心な質疑応答と意見交換が行われた。
 以下に討議内容の一部を挙げる。

Q:予算規模が大きくなったということだが、結局、予算規模は増えたのか?
A:機器の費用について、最初のリプレース時は多少増えた。少しずつ増えている。
Q:ウトソーシングした方が良いのでは?
A:アウトソーシングは常に出ている問題。考えざるを得なくなってきている。メディアセンターを法人化してしまって、メディアセンターで稼いだらどうか…という意見もあった。

 その他、会場からも各大学における事例や意見が多数報告され、学術情報機能の統合化についての関心の高さを実感させる分科会であった。
(文責:甲南大学 鳩貝 耕一)


G:21 世紀に向けた新たな「教育システム」の試み
  −ネットワークによる授業連携/授業統合連携と大学間・学生間交流−

 本分科会では、「21世紀に向けた新たな『教育システム』の試み」というテーマのもと、岡田昭夫氏(早稲田大学メディアネットワークセンター)大澤美智子氏(東京医科大学医学部4年、IPCP代表)から課題提起いただいた。
 セッションの前半では、ネットワークを活用した授業統合の試みについて、2カ年にわたる経過の報告があり、続いて、その中から生まれた学生の自発的研究団体であるIPCP(Intercollegiate Palliative Care Project)設立の経緯、現状、そして今後の展望について事例紹介いただいた。この授業連携・統合の試みは、複数の大学の学生が同一の課題に取り組みながら、学生の主体的な参加が可能なネットワークのあり方を模索するものである。学生の学習意欲を刺激し、的確な動機づけを実現するにあたり、以下の点が重要であることが指摘された。1)各授業共通の研究課題の設定、2)授業統合の中心となる組織、3)相互交流、4)各大学共通の学外授業の企画・実施、5)各授業の課題研究班の早期発足。
 これらのポイントは、他大学の資源(施設や人的なサポート)を積極的に活用すること授業時間外に授業・ミーティングを実施することなど、従来からの大学の「境界」を越えた仕組みを共有もしくは分有することの重要性を示唆していると言えるだろう。
 80名ほどの参加者があり、活発な質問やコメントがあった。本フォーラムで、学生が課題提起者として参加するのは今回が初めてであった。言うまでもなく、大学における教育の情報化を考える上で、現場の学生の声を聴くことはきわめて重要であり、今後もこのような機会が提供されることを期待したい。
(文責:慶應義塾大学 加藤 文俊)


H : 米国大学にみる教育の情報化と日本の課題

 日本の多くの大学では、情報環境は整備されたが、教育コンテンツ等の整備が遅れ、情報環境の活用はそれほど進展していない状況にある。このような現状を踏まえ、平成12年度に私情協では「日米大学マルチメディア教育セミナー」を実施し、米国の先進大学の視察と討論を行った。本分科会では、セミナーに参加された小澤太郎氏(慶応義塾大学総合政策学部助教授)曽我部 潔氏(上智大学理工学部教授)より、まず、米国における教育の情報化の事例紹介いただいた。
 小澤氏からは、ハーバード大学、MIT、スタンフォード大学と、文科系グループで訪問した、カーネギーメロン大学、ロヨラ・カレッジの事例が紹介された。すべての事例が教員の負担を軽減することを目的としたものではなく、学生に対する教育サービスの向上を目的としていることを、小澤氏は注目点として挙げている。小澤氏からは、多人数の学生を対象とした、企業から招いた講師によるオムニバス形式の講座において御自身が担当、開発した情報技術の利用についても紹介いただいた。
 曽我部氏からは、理工系グループが訪問した、MITにおける遠隔学習の事例、カリフォルニア大学バークレイ校における大学院レベルの遠隔授業の事例を紹介いただいた。これらを踏まえ、日本でも、学外の社会人を対象とした教育への準備が必要で、今後の課題であるとの指摘があった。
 後半のセッションでは、紹介された事例に対する質問が行われた。ただし、セミナーで訪問した大学の事例については、セミナーが短時間で全貌を把握できず、情報化について経営者がどのように考えているのか、情報化によりどの程度成果が上がっているのか、といった内容について、本分科会では明確な討議ができなかった。
 日本の課題を検討する充分な時間が取れなかったが、サポートスタッフの問題と教材・素材の共有化について討議が行われた。サポートスタッフは米国では職員だが、日本の現状では博士課程修了者等の力も活用する必要があり、その登録制度を立ちあげたらどうかといった提案もあった。これらは、今後発足するであろう私情協の「サイバー・キャンパス・コンソーシアム」での検討対象となろう。
(文責:成蹊大学 飯田 善久)



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