私情協ニュース6
去る8月4日、工学院大学新宿キャンパスを会場に開催した。当日は、108大学11短期大学より213名の理事長・学長・理事・学部長等が参加。「高等教育の質的向上とネットワークによる大学教育コンソーシアム」と題して、12年度の会議での決議を踏まえ、一大学ではなし得ない教育改善を実現するべく、ネットワークを介した大学教育の連携構想(サイバー・キャンパス・コンソーシアム)具体化の可能性について理解を深め、14年度の実施に向け、大学としての戦略的な教育政策を考究する場とした。
会は、まず戸高会長(同志社大学)より、ネットワークを活用した21世紀に相応しい教育環境構築の挨拶があり、続いて、会場校を代表して工学院大学の大橋学長の挨拶の後、基調報告、関連情報の提供、全体討議を行った。以下に、会議の概要を紹介する。
大橋秀雄学長(工学院大学、日本技術者教育認定機構副会長)から、教育の質とは何か、また、質を保証することとは、どのようなことなのか、日本における多元的な評価の実態と米国での動向及び日本技術者教育認定機構(JABEE)が目指す評価の実情について説明があった。
教育の質とは、「適切な教育目標を設定し、それを成果として実現する能力」と読み替え、教育の質保証とは、「教育の質を継続的に向上させるための組織的・体系的活動」と定義。評価は、目標に対する達成度を示し、認定は、要求基準に合致するか否かで、日本のこれまでの評価・認定機関は、大学設置学校法人審議会、大学基準協会のように与えられた条件を最低水準クリアしているかどうか証明する入力規制型が多い。米国でも「何を教えろ、かにを教えろ」と入力規制型による質保証を続けてきたが、技術者教育の硬直化を招いたことから、世紀が改まるのを機に自己改善型に切り替えた。大学評価・学位授与機構も自己改善型であるが、機関による評価となっており、教育そのものの認定まで行っていない。JABEEは、そのような質保証の新しい流れを参考に、教育プログラムごとに教育目的、具体化した教育目標、教育水準、教育成果の評価方法を設定し、教育の実施、成果を評価・点検している。その上で必要に応じて改善を導入するプロセス全体の活動に視点をおくことにより、理工農学系大学における技術者教育プログラムの専門認定を行い、国際的に通用する技術者育成教育の実現を目指している。
平成12年11月1日から11日にわたりハーバード大学、スタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学など14大学で実施したセミナーについて、総論、経済・経営・会計、物理・機械・建築・経営工学、薬学の3グループから次のような報告があった。団長の白井常務理事(早稲田大学副総長)からは、ハーバード大学、MITをはじめとする大学では教育の競争が激しく、授業の質を高めることに努力している。例えば、世界で最高の授業を実現するため、ネットワークで世界に授業支援を呼び掛け、世界中で興味をもっている人々と一緒にオン・キャンパスの授業を行っている。学生が自由にアクセスできる教育環境が整備されているので、教える授業ではなく、学生が主体的に学ぶ授業となっている。常に最高の教育を実現するため、教職員がネットワークを活用した教育に挑戦している。次いで、井端事務局長から、Webページは学生よりも教員が多く利用している。担当する授業が他の教員の下でどのように実施されているのかを知るためには、授業に立ち会わなければならないが、Webページに掲載授業の映像、教材などを見ることにより、カリキュラムの連携を図っており、今後の教育改善に非常に参考になったことの補足説明があった。
経済・経営・会計グループの小澤太郎氏(慶應義塾大学総合政策学部助教授)から、ボルチモワのロヨラカレッジでは、授業中に学生全員から課題に対する回答を無線LANで行い、学生の理解度を成績情報として履歴をとることにより、学生を授業に出席させるとともに真剣に学ぶような仕組みを設けている。カーネギーメロン大学では、因果関係の学習にシミュレーション教材を活用して、学生自身に理解させている。ハーバード大学では、“The Rotissierie”というWebページ授業のサイトがあり、事前に授業の課題を提示して学内LAN上で議論しておく。対面授業では未解決な課題のみ議論する。学生の議論は全部デジタルで履歴してあることから成績評価に反映される。教員の教材作成のツールキットが揃っており、あまり苦労しないで教材準備ができる点が日本と大きく異なっている。
物理・機械・建築・経営工学グループの田辺 誠氏(神奈川工科大学工学部教授)から、MITとシンガポールとの大学院での遠隔教育の実際として、教室の学生の机の上に追随マイクがあり、発言するとカメラが学生の顔を黒板の脇のスクリーンに映し出す装置がある。U.C・バークレーでは、大学院教育で大学に来なくてもよい、社会人を対象とした再教育としての遠隔教育を行っている。遠隔教育のポイントとしては、デジタル教材の作成が重要で、教材の作成、評価、利用などの組織が必要であること。教育に対する考え方が、教員は教えるのではなく、助言者、コーチであること、学生は学ぶものであること。いつでも学べるようにe-Learningの環境が整備されている。日本は、教育の原点を確認する必要がある。学生に学ぶ意欲をいかに持たせるか、教員の努力が必要であることが判った。
薬学グループは、山岡 由美子氏(神戸学院大学学長補佐)から、アーバン大学では、薬学教育を薬剤師教育としてとらえ、インターネットで医療相談の一環として薬剤情報を医療現場に伝えるという役割を大学自身がもっている。例えば、子供を出産しようとする女性が、妊娠から診察、病院の選択などの相談をインターネットで行うのが日常となっているが、その中でいかに薬剤師が医療にかかわっていくかという、実践的な教育をイントラネット上に展開することにより、臨場感溢れる学習環境を提供している。大学だけが独自に存在しているのではなく、インターネットの世界を通じて社会との接点をもって学生が学べるようにしている。生身の人間が社会に出ていくことも必要であるが、直接出ていけない学生がバーチャルな世界であれ、社会との接点をもつことができる点でITを利用した教育の利点がある。
フロリダ大学で気が付いたことは、ITとは無縁の薬事法の授業でもWebペ−ジに講義ノート、音声によるパワーポイント、授業の映像を掲載し、授業の前に事前のデイスカッションを行っている。ごく普通の授業で学生に満足できる教育を提供できることは、大学内の支援体制が極めて重要で、日本の大学でもコンテンツ作りに大学がポリシーを持つことが避けられないところまできている。
井端事務局長より、大学の教育活動を社会に説明する責任と教育の創造に欠かせない教育情報を大学間で共有するために、各大学がインターネット上に掲載している教育情報を私情協が設定した教育データベースに接続するシステムを構築したことの報告があり、実験を経て加盟大学に参加を呼び掛けることの協力要請があった。
最初に座長の白井副会長から、大学が履修させることができる授業等について、13年3月30日から大学設置基準第25条第2項において、「多様なメデイアを利用して教室等以外の場所で同時かつ双方向で、質疑応答、学生の意見交換などが確保されることを前提にネットワークによる授業が60単位を限界に認められることになった」こと、米国のMITはじめスタンフォード大学でも授業をネットワークで公開したり、単位取得を可能にするなど授業のグローバル化が始まりつつあることなど、世界的な動きの紹介があった。そのような中で、日本としても大学のアイデンティティを尊重しつつ、教育内容、教育方法・履修指導方法を見直し、教育の質的向上に寄与するため、昨年度理事長・学長等会議でコンテンツを提供しあうことの決議を踏まえて、大学の枠を越えてネットワーク上で教育の連携を図るため、サイバー・キャンパス・コンソーシアム(CCC)を形成する必要があるとした。
連携のイメージとしては、多様な授業分野ごとに個性的なグループが形成されるもので、特定大学が中心になって行うものでないことと、参加大学は任意で加盟大学以外の国・公立大学、外国大学も視野に入れるとした。
次いで、井端事務局長から事業の具体的な内容として、1)シラバスとITを活用した授業運営の情報、2)演習・練習問題、試験問題の共同使用、3)教材・素材情報の共同使用、4)基礎学力を補完する高校課程レベルの教材(数学、物理、化学、情報基礎など)の共同開発、5)学問分野別の教材の共同開発、6)ネットワ−クを介した授業支援、共同授業・合同授業、7)生涯学習プログラムの共同運営、8)IT技術の支援、9)ネットワ−クを介した大学知的著作物の権利処理、10)施設・設備の共同購入・運営などの紹介があった。また、進め方としては、インターネット、オンデマンドを共通の環境として考えるとともに、連携が円滑に行えるよう私情協のWebサイトにポータルサイトを設け、それを窓口にして大学とネットワーク接続ができるようにする。2年程度実験期間として進めるとの報告があり、引き続き全体討議に入り、主に次のような意見交換があった。
井端事務局長から、14年度の文部科学省の概算要求には、サイバー・キャンパス・コンソーシアムのために特別の財政援助を要請し、文部科学省も前向きに努力する感触を得た。教育学術コンテンツの申請がハードウェアの整備に比べ、極めて少ないことから、13年度の10月以降の申請に大学挙げて教員に呼び掛けを要請した。
12年度決算による情報化投資額の実態としては、教育研究に大学は11年度に比べ4.5%の増、短期大学法人で8.5%、併設短期大学で2.1%の増となった。大学の投資額は、大規模大学で平均21億円から小規模で1億円程度となっている。学生1人当たりでは、大学4.9万円、短期大学で短大法人で6.6万円、併設短大で4.7万円となっている。
教育研究部門の規模・種別情報投資額のグループ別推移 (1大学平均:単純加算平均) |
(万円) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【参考】平成11年データ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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昼間部学生一人当たりの教育研究経費における情報化投資額(単位:万円) |