巻頭言
篠置 昭男(関西福祉科学大学学長)
福祉系大学(学部)は、創設ラッシュこそ漸く終わりそうですが、私どもが『臨床福祉学』を標榜して関西福祉科学大学を開学した97年以降だけでも相当の数になるでしょう。福祉系大学の情報教育ということで、以下に本学の情報教育とサイバーキャンパス構想の現状を申し上げて文責を果たしたいと思います。
私どもの標榜する『臨床福祉学』は、人間の生きる意味を福祉の視点から哲学する「福祉人間学」と、福祉を実現する「援助技術」の理論と方法を科学する「臨床心理学」とを基礎学とする、福祉を「臨床」するのに不可欠な理論と技術の総合科学です。私どものめざす21世紀の福祉社会の構築は、援助者と被援助者がまさに「遭遇」として同じ地平において向き合う「臨床」によってのみ達成可能です。もちろん、その「臨床」は「負の克服」にとどまらず、よりプログレッシブな福祉の創造をめざすものです。
したがって、本学における情報科学は臨床福祉学の一環として「福祉臨床」を支える重要な手段です。まず、大学院では、本年度開設された社会福祉学研究科・臨床福祉学専攻で「福祉情報科学」という講座を「特論」、「臨床実習」、「研究演習」の三点セットで開講しています。この講座ではユニバーサル・インターフェイスと呼ばれる障害者と健常者が分け隔てなく利用できるソフトウェアの開発を目標に、福祉臨床の場と大学を行き来しながら、現場に必要なコミュニケーション支援ツールの開発と理論の構築をめざしています。
学部の情報教育では、コンピュータ・リテラシーを教育するコンピュータ基礎、プログラミングを通して構造的理解や豊かな発想力を育むことをめざすコンピュータ・サイエンス、さらに福祉臨床を電子カルテや保健カルテ、遠隔医療の観点から取り上げる医療データベースシステム論などでカリキュラムを構成しています。こうした情報科学プロパーの教育にあたっては、福祉関連の諸科学の基礎となる統計学とも関連させながら、「考えること」「発想すること」の啓発を特に重視しています。
さらに、情報プロパーの科目にのみ目を奪われていては、もはや時代遅れです。インターネットという膨大な情報源を活用して、時空を超えた拡張を図ることが急務です。諸大学でサイバーキャンパス構想を推進中ですが、本学でも公開用の教育コンテンツの製作を始めるとともに、サイバーキャンパス構想に向け、大学情報センターのメディア教育センター化を検討しています。なお、こうして膨大な情報が居ながらにして瞬時に入手できるようになればなるほど、情報に「使われる人間ではなく使う人間」の教育をサイバーキャンパス構想にどう盛り込むか、常に問い続けねばならぬと戒心しています。