特集
小野坂 敏見(神戸学院大学教授)
『パソコンを活用して教育しよう』と考えたのは、純粋な動機ではありません。以前から「授業に出席しても、理解しなければ意味がない。最も良い学生は、授業に来ないでA(優)を取る学生。一番困るのは、真面目に出席してD(不合格)の学生」と宣言していました。そして、2年程前、PowerPointのアニメーション機能を用いたプレゼンに圧倒され『これを利用すれば、宣言したような教育ができるのでは』と感じたのが発端です。 5年程前には、講義ノートはパソコンのファイル化を行っていましたし、それをパソコン所有の学生に渡すと、授業にはまず出席しないことも経験済みでした。PowerPointは独学で20日ほど試行錯誤してから、2000年の8月に慶應義塾大学を会場にした私情協主催の講習会に大学から参加させてもらい、技術面でもほぼマスターできました(と思っている)。
パソコンは使用していないと忘れる、という致命傷があるので、学部の今年度の1年生から全員に購入することを義務付けました。他学部がDOS/V機を採用する中、デザイン、使いやさすさ、アプリケーションのインストール、不調時の回復が容易、などの理由でiBOOKに決定したのです。骨が折れたのは、この機種が法人での購入の対象外だったので、業者探しでした。そして、20名以上から購入間際になって、「色の選択は可能か」「DOS/Vを持っているが」「どこで買えばよいか」等々、電話がかかってきました。一番困ったのは、ちょうど新機種への変更と重なって、「在庫が無く入手できない」という2本のご父兄からのお電話でした。それでも、大学、特に情報処理センターのサポートによって、なんとかMacを導入できました。
講義は、すべてPowerPointを利用して行っています。スライドに共通する主題、質問、課題、結論などの部分は、アニメーション化と、色彩の統一(パソコンで美的感覚が要求されるとは)のため、部品化しています。スライドはカラーのせいか、学生も静かに聞いてくれます。スライドの字が小さいと、前のほうに学生が移動してきます(居座ったままの者も)。3年生にはまだパソコン所持を義務化していませんが、「このファイルを配ったら、授業に来るか?」と訊いたところ、「来ない」とハッキリ言われました。ねらいどおりの反応でしたが、同時に教員として寂しさをタップリ味わいました。
学生は、ファイルを自宅で見て学習できるようになります。そして、私と同じ講義科目を他大学のホームページで見ることができるようにもなるでしょう。私が作製していないファイルを自由に見ることができる時代が迫ってきています。『そんな時代にクビにならず、可愛い娘を養っていけるだろうか』と悩みました。その答えは、「私にしかできない授業をすればよい」と、そしてそのためには研究しかない、というのが私の結論です。
URL http://kgu-n.nutr.kobegakuin.ac.jp/~eiyouhm/top.html