特集
e-Learning いつでもどこでも学べる環境づくり
時間や距離の制約なしに教育が受けられるe-Learningは、学生をはじめ、社会人にも大きな可能性をもたらします。
本特集では、学部や短大におけるネットワーク授業、生涯学習、通信教育でe-Learningを活用し、いつでもどこでも学べる環境づくりを始めている4大学の事例を通じて、大学における新しい教育の場について提案したいと思います。
講義の状況、テキスト・資料、板書を同一画面に組み込んだ個人ユースの学習環境
石川 孝重(日本女子大学生涯学習総合センター所長・教授)
1.はじめに
21世紀の幕開けとともに、本学は創立百周年を迎えました。記念事業の一環として、IT環境の急速な発展の中、本学の独自性(歴史・教育・人)とアカデミズムを開放表現する「生涯学習総合センター(LCC)」を開設しました。当センターは、日本女子大学並びに附属各校・園の伝統と特質を生かしつつ、在学生・卒業生・市民等の生涯学習活動や社会参加活動を支援し推進することが目的です。コンテンツは情報や講座の発信・受信が中心となり、その媒介には、人間同士の交流はもとより、通信ネットワークを広く活用します。具体的には本センターと地域に設置するサテライト(開設時は札幌と福岡の2地点)を核に、情報・講座を受信する場、人々が集い語らう場を提供します。また、目白と西生田キャンパス相互や地域サテライトともネットワークを構成し、画質の高い情報や講座を、リアルタイムに双方向でやりとりできるようにしました。コンテンツとして公開講座等を収録するほか、目白にはバーチャルスタジオを設け、独自の講座・情報も制作しています。また、LCCから発信する様々な情報や各種講座を、インターネットを通じて自宅のパソコンで受信できる仕組みを新たに構築しました。これがVODシステムです。なお、通信ネットワークの玄関となるホームページは、LCCの概要や申込案内、会員登録、受講申込を、誰でもが利用できるよう、幅広い年齢層に受け入れられるデザインにしました。(構成は図1参照)
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図1 LCCのホームページサイトマップ |
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図2 VODの画面構成 |
2.情報・講座の発信形式
LCCは情報と講座の発信受信基地と位置づけています。発信形式には、大きく分けて次の3種類があります。
(1)実形式
一般の授業と同じように、講座・質疑応答など、直接対面する中で学ぶ環境。
(2)Live(ライブ)形式
テレビ会議システムやインターネットなどの回線を利用して、遠隔地でリアルタイムに講義や情報を受講する形式。現在、実講座の一部をテレビ会議システムを使って、西生田キャンパスや、札幌と福岡のサテライトにLive講座として配信し、双方向性のある学習環境を構築しています。また、各家庭などのパソコンがあるところでは、インターネットを通じて、リアルタイムに受信できるタイプも配信可能です。この場合、完全な双方向にはなりませんが、自宅で手軽に見られるところに特徴があります。
(3)VOD(ビデオ・オン・デマンド)形式
編集された講座・情報コンテンツを、受講者の求めに応じていつでも、インターネットを通じて各家庭・個人に配信する形式。LCCが所有しているコンテンツ(情報・講座)を、各自が学習したいときにいつでも、どこでも視聴できるのがVOD形式の特徴です。
次ページの図3下部がVOD形式の視聴画面の例です。画面を3分割しており、左上が講義風景で、ストリーム形式の動画音声で見られます。右側は図や表などの資料やテキストをカラーで大きく表示。講義の進行とともに自動的にページがめくられます。左下部はホワイトボードに板書した内容がそのまま描かれます。使用したペンの色通りに再現します。この3画面が一体になっていることで、他の教材を必要としません。
見たいところから始められるので繰り返し学習も可能です。つまり、VOD形式の講座や情報は、好きな時間に、好きな時間分だけ、視聴することができ、何回かに分けて分割学習したり、同じところを何回も見て理解を深めることができます。途中から視聴する場合は、動画の下のシークバーや目次を選択します。
この3画面を同時に見ながら講師の話を視聴するシステムは、本学ならではの新しいシステムで、利用者の数や解像度、回線速度の制約はありますが、各家庭で個人ユースでパソコンを利用した学習環境を構築できます。気楽に学習できるのが特徴です。
3.VOD形式の画面構成
このVODは、通常パソコン購入時にバンドルされるInternet ExplorerとWindows Media Playerで見ることができます。VOD形式はコンテンツの内容と受信側の環境によって、基本形として図2のようなA・A'・B・L・Kパターンで画面に表示されます。LCCではコンテンツの内容によって、配信回線や画面パターンの使い分けを行っています。受信側の環境とは、利用するパソコン・OS、起動するブラウザ(Internet Explorer)、Windows Media Playerの組合せによるもので、詳細は、ホームページの「VOD利用環境」で確認できます。
図2のパターンKは、「高速回線専用」で、電話回線より通信速度の早い回線専用の配信パターンです。ADSL、CATV、光ファイバーなどが対象です。普通のVOD形式に比べ、映像部分を大きくしているのが特徴です。他のパターンは映像と資料の圧縮により、通常の電話回線でもみられるように作り込んでいます。また、「Live形式用」は前述のLive形式をインターネットで各パソコンに配信するときに使用します。
4.VOD形式の視聴方法
VODの視聴方法を図3にまとめました。ホームページのアイコンをクリックすることで視聴ができます。VODには、現在、LCC会員のみが視聴できるものと会員外でも視聴できるものとがあります。LCC会員のみの視聴が可能なものでは、「会員情報登録」を済ませた会員番号とパスワードの入力が求められます。
前述したように、VOD形式ではシークバーや目次で途中から視聴できるので、何回かに分けて学習したり、同じところを何回も見て理解を深めることができます。また、図3の画面右側の資料部分の矢印を利用して、前の資料を確認したり、先の資料を事前にチェックすることもできます。講義の流れで新しい資料が必要になると自動的にその資料が表示されるので、講義資料を見過ごすこともありません。これらの機能を上手に活用すれば、各人独自の学習スタイルを構築することができるわけです。
現在は開設記念として、LCC会員への申込みとVOD視聴とも無料です。(電話代やプロバイダー料は別途)なお、現在のところ、LCC講座の受講と本学の単位取得とは連動していません。
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図3 VODの視聴方法 |
5.VOD学習環境の特徴
VOD学習の特徴を以下にまとめます。
- いつでも、どこでも学べる。年齢の制限もなく、家でも、海外でも、どこでも学べる学習環境である。
- 分割学習や繰り返し学習ができる。学習内容を再現できるシステムにより、進度や理解度の個別対応が可能である。
- 映像、テキスト・資料、板書の3画面が一体になっていることで、ほかの教材を必要としない。したがって、学習の即時性が確保できる。
6.VOD形式の発信内容・これまでの実績
さて、このVOD形式ですが、昨年7月の開設から現在までに、高速回線用を含めほぼ50コンテンツを配信しています。内容は、附属校・園を含む日本女子大学に関する紹介や昨年開催された百周年記念式の模様のVOD情報、公開講演会、LCC開講講座(「知の最前線シリーズ」、「LCC開設記念特別講座」)、学部授業(全学授業「教養特別講義2」、家政学部共通授業「人間と生活II(環境)」)のVOD講座などになります。これまでに、LCC会員へ登録された方は約5,000名になります。受講者からは、講義映像と資料が一体化されていて学びやすいなど好評を得ています。また、これらのカメラ撮影、編集作業等は、一部業者に委託していますが、コンテンツのほとんどは自前で作り込んでいます。
7.今後に向けて
現在の課題は、資料部分の著作権の許諾処理の効率化です。3画面への作り込みが終了して数ヶ月が経過しているコンテンツもあり、オリジナル資料の使用が求められます。講座・情報の発信形式を最大限に活用するべく、またコンテンツの質の向上を目指して、現在2002年度の構想を練っています。
さらに、LCC構想の段階からマルチメディア教育部門に課せられていた、学部・通信教育への利用促進も、実績を踏まえながら進めていきたいと思っています。通信ネットワークを活用した新しい授業形態・教材作成について、LCCの経験を通して利用者と講師の双方からの意見を集約し、検討を重ねる計画です。
本誌をご覧いただいた諸氏からもぜひ、LCCホームページにアクセスし、VOD講座・情報をお試しいただき、意見・感想をお寄せいただければ幸いです。ネットワーク、メディアを生かした新しい学習環境が構築できればと考えています。
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