特集 e-Learning いつでもどこでも学べる環境づくり


インターネットを活用した新しい通信教育
〜 iNetCampus 〜

杉原 明(産能大学・産能短期大学通信教育事務部)



1.はじめに 〜開講の目的〜

 産能大学・産能短期大学通信教育課程では、社会人学生を中心に約10,000名が学んでいます。社会人学生は目的意識をもって大変真剣に学んでいますが、卒業まで学習を継続するためには多くの困難が伴います。特にスクーリングの受講は大きな負荷となっています。
 本稿で紹介する「iNetCampus(アイネットキャンパス)」はこうした学生の学習環境を改善するための一つの手段として、インターネットを利用することにより自宅に居ながらにしてスクーリングと同様の学習効果が得られる授業の開発を目指して、1999年10月に検討を始め、2000年12月から開始しました。
 学生が普段から利用しているパソコンで受講できるように、受講生側に特別なソフトウェアを必要としません。通信環境もアナログ回線でも受講できます。このため、普段パソコンを利用している学生であればほとんど誰でも受講が可能です。


2.iNetCampusの授業形態

 iNetCampusには「iNet授業」と「iNetゼミ」の二つの授業形態があります。

(1)iNetゼミとは?

 iNetゼミ(バーチャルゼミ)は、電子会議室によるコミュニケーションを中心に据えた授業形態(メディア授業)です。
 インターネットというメディアが今までのメディアに比べて優れている点は、「コミュニケーション」の機能であると考えています。このiNetゼミはいわゆるWBT(Web Based Training)とは一線を画して、教員と学生、学生同士のコミュニケーションにより学習効果が上がることを目指しています。そのため、教員のほかにTA(ティーチングアシスタント)という授業のコーディネータ役を配置し、インターネット上でのコミュニケーションが円滑に行われるようにしています。
 従来の印刷教材(テキスト)は原則として使用しません。その代わり Web上に作成した講義資料、VOD(ビデオ・オン・デマンド)による教員の講義、企業のWebページなどを様々なものを教材とします。
 学習期間は約3ヶ月間です。1〜2週間程度で一つの単元を勉強していきます。単元ごとにVODによる教員の講義を視聴するとともに、電子会議室を利用した学生同士の意見交換、教員やティーチングアシスタントを交えたディスカッション、教員からの指導、教員への質問、インターネットを利用した資料の検索などを通して密度の濃い学習ができます。リポート提出と試験(小論文)もWeb上で行います。

(2)iNet授業とは?

 VOD(インターネットを利用したストリーミング配信)による「放送授業」です。受講者は授業のビデオをインターネットで視聴します。1科目につき15講義で、1講義は45分程度です。 受講期間3ヶ月の間であればいつでも好きなときに視聴できます。印刷教材(テキスト)に沿った授業で、当然授業についての質問もWebで行えます。
 また、板書の内容をパワーポイントで作成することによって、授業の映像といっしょに画面上に見やすく表示できることができます。この画面は講義に合わせてタイミング良く切り換わります。
 リポートは現在のところ従来の郵送により添削する方式を併用しています。
 受講期間の最後には、Web上に試験問題が提示されます。約1週間の提出期間の間に自宅で答案(論述形式)を作成します。提出もインターネットを利用して行います。

図1 iNetCampusの画面


3.2001年度の実施状況

 2001年度は9科目を開講しました。各科目とも年間2〜3回の開講で、受講者数は産能大学・産能短期大学あわせて延べ約650名、沖縄や北海道、海外からも受講しています。 全科目とも正規の授業として開講し、合格者には単位を認定しています。受講者の合格率は平均約6割です。

(1)積極的な発言を促す−iNetゼミ

 iNetゼミは「経営特講(00)―II」(あらためてブランドを考える)、「経営戦略ビジネスゲーム」など5科目を開講しました。TAは、担当教員の推薦により助手、兼任教員などが担当しました。
 iNetゼミの一番のポイントは、受講者が発言(書き込み)をするかどうかです。 そこで、いくつかの仕掛けをつくりました。
 まず、発言数や発言内容を評価の対象とすること、そしてもう一つは、授業の最初の課題を「自己紹介」にしたことです。
 最初から授業の内容についての意見や質問を書くことは、電子会議室での発言に慣れていない学生にとっては荷が重すぎます。そこでまず最初の書き込みは気軽に、自分がこのゼミを履修しようと思った理由などを含めた自己紹介をするところから始めました。
 各科目20名ほどのゼミということもあり、受講者は自分の仕事の内容なども含めて、かなりフランクに書いてくれました。
 このような仕掛けが効を奏して、授業内容についての積極的な発言につながり、ゼミ終了時の発言数は300〜400発言にもなりました。
 最終課題の小論文ではかなりレベルの高いものも見受けられ、学習の成果の一端が現れています。これからのネット社会では、文章で自分の考えを伝えることがますます重要になるため、このような授業には大きな意義があると感じています。

(2)ブロードバンド時代の授業−iNet授業

 iNet授業については、「会計学」「企業社会と自己実現」など4科目を開講しました。VOD教材の視聴に関して、回線の状況やプロバイダの状況によっては多少見づらい、聞きづらいこともあったようですが、まずまず合格点と考えています。また、通常のスクーリングと違って、わからないところで止まったり、何度でも見ることができる点をメリットとしてあげた学生もありました。これはVODの優れた点といえるでしょう。
 ADSLなどのブロードバンドと呼ばれる高速・大容量の通信環境が当たり前になりつつある中、VODのコンテンツがますます脚光を浴びるでしょう。


4.運営体制および教材作成について

 iNetCampusの企画は事務組織である通信教育事務部が中心に行っています。ゼミの授業内容や進行方法については、教員と通信教育事務部の担当者が共同で検討していきます。
 教材については、いわゆるWBTのような電子教材は使用していませんので、問題はVOD教材だけとなります。
 iNet授業で利用するVOD教材については、実際の授業(集中講義)を学生が受講する中で撮影し、最小限の編集を行った上でVODとして配信しています。教材の作成のために特別な授業をすることはなく、普段通りの授業を撮影しています。試験や演習・グループワークなどの部分は編集でカットします。
 撮影は専門の業者に委託しています。編集については、どの部分をカットするかについては事務局の担当者で決定し、実際の編集作業は委託しています。「板書」については、すでに授業でMS-PowerPointを利用している先生についてはそれを利用し、板書で授業をしている先生については板書をもとに事務局でPowerPointの資料を作成しています。


5.システム開発と運用体制について

 東日本電信電話株式会社にシステム開発およびサーバの管理、授業の撮影などを委託しています。学内には最小限の機器のみを設置し、大半をアウトソーシングすることにより学内でのシステム管理の負荷はほぼゼロとなっています。機器構成などの詳細は本誌「賛助会員だより(東日本電信電話株式会社)」にて紹介されていますのでご覧ください。


6.今後の課題

 今後継続的に開講していく上で、インターネットによる授業の教育効果を検証することが必要となります。
 2002年度は15科目程度を開講する予定ですが、その中でいくつかの科目について面接授業と教育効果を比較することを計画し、現在その具体的な方法を検討中です。


問い合わせ先
SUGIHARA_Akira@hj.sanno.ac.jp
(通信教育事務部 杉原)
iNetCampus デモ画面にアクセスできます。
http://sipf-web.dl.sanno.ac.jp/inet/index.html


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