特集 e-Learning いつでもどこでも学べる環境づくり
インターネットを活用した新たな大学通信教育の開設
〜『IT高等教育時代』への先駆けとして〜
江本 健康(日本福祉大学通信教育部事務室教育計画・システム開発担当)
1.概要
日本福祉大学通信教育部の経済学部経営開発学科は2001年4月に開設した新しい大学通信教育課程です。1997年より学内検討を開始し、1999年の設置認可申請時には、概ね現在のようなインターネットを大幅に活用した大学通信教育の計画ができあがりました。計画の概要は次の通りです。
第一に、通学課程に併設しつつも、社会人のリカレント・リフレッシュに対応する教育課程と教育方法を明確にすること。したがって医療・福祉・コミュニティ・高齢社会・ベンチャービジネスなどを教育課程の対象とすること。
第二に、大学通信教育の授業方法は大きく分けて、印刷教材を利用した授業(テキスト授業)と面接による授業(スクーリング授業)の二つに分けられますが、本課程ではテキスト授業を「知識の段階的修得の取り組み」として、またスクーリング授業を「テキスト授業で得た知識を実際のフィールドに適用する取り組み」として位置付け、役割分担させることによって、全体としての教育効果をねらったこと。したがってテキスト授業は各授業科目(経済学、生物学、社会福祉学などの体系化されたものの教材化)として、スクーリング授業はテキストに沿って行われる講義ではなく、設定された課題に応じて、各授業科目を横断するようなイメージで、ワークショップやグループ研究(セッション)として開講されます。
第三に、このテキスト授業については、従来の郵送手段によるものではなく、配布される教材とインターネットによって完結すること。「知識の段階的修得」として、単位数によって学修量が統一されたテキストは各科目毎のホームページと連動し、テキスト内容の追加や修正をリアルタイムに行い、学生間の議論や質問を行う掲示板を置き、学習進度の確認を行う添削や定期試験まで徹底してインターネットを活用するものであることです。教材がCD-ROMによって配布されるビジュアル授業も同様の形態をとります。
前記のことから、授業やサービスの一部をIT化した、インターネットで代替したというものではなく、インターネットの活用は設置計画として織り込まれており、全体のプロセスの中で取り込まれたものということができます。
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図1 教育課程の仕組み |
2.開発経緯、開発体制
当初より大規模な開発内容と広い範囲のサービス領域を伴うことが想定できたので、開発開始前に実質1ヵ年半に及ぶ開発業者の選定期間を置きました。選定した富士通株式会社との間で協議を開始し、ソフトウェア開発に重点が置かれたのは言うまでもありませんが、学籍管理や事務手続きなど既存の事務システムとの整合、マルチメディア教材の開発、学生のシステム関係の問い合わせに常時対応するヘルプデスクの設置、学生に斡旋するパソコンやプロバイダなどの商品開発、その他ホスト管理や大量のドキュメント管理・メンテナンスなどの検討も同時並行で行いました。
教材の開発においては、教材開発の主担教員から構成される教材開発プロジェクトを置き、郵送で配布されるテキストとともに、インターネット上のコンテンツとなる添削課題と解題の作成を行いました。
ソフトウェア開発においては、主に各科目のホームページ、添削、試験の仕様など教学上必要な判断を伴う部分は、教授会の審議に委ねつつ、全体のプロトタイプをレビューし、自由に意見をいただくような形にしました。開発体制は、ネットワーク管理課(本学半田キャンパスの情報管理、当時)、情報システム課(本学美浜キャンパスならびに事務システムの運用管理、当時)、通信教育部事務室を中心として「事務局総動員体制」をとり、開発仕様について検討を重ねつつ、開発開始から全体のプロトタイプ作成までを4ヶ月、プロトタイプ作成から2001年4月稼動までを6ヶ月で行いました。なお開発後のシステムはアウトソーシングで同社に日常管理を委託しています。
3.ソフトウェアの概要
開発したソフトウェア全体は、『NFU online』と総称され、図2で示す機能から構成されています。
学生は、入学時に学籍番号とパスワードを支給され、ホームページの学生入口からログインします。ログインすると、まず掲示板が表示され、大学からの最新の情報を得ることができます。学生はスクーリング科目のみを受講する科目等履修生以外は、学修のためにインターネットに接続したパソコンを用意しなければなりません。
「スタディ機能」では、各学生ごとに履修した科目の一覧とそれぞれの学習進捗状況が表示されるとともに、科目ごとのホームページで、新しい教材や音声教材をダウンロードできたり、添削課題に回答したり、一定の条件を満たして、試験を受験できるようになります。学生それぞれの学習進度に応じて、添削課題はいつでも行うことが可能ですが、試験は、試験日と試験時間が各科目によって定められ、あらかじめ定められた登録期間に登録した学生だけが受験できます。
試験は年4回の試験期間のうち、任意の2回まで受験することが可能です。自宅のパソコンで受験をしますが、試験の考え方そのものは通学課程で行われるもの、会場を設定して行われるものと全く同じです。この他、ネット上の履修登録や学年暦の表示などが「スタディ機能」のホームページで提供するサービスです。
「キャンパス機能」は、いわゆるバーチャルキャンパスですが、遠隔地から在学する学生にとっての実際のキャンパスはここであることから、キャンパスと名づけています。パソコン初心者は、ここで楽しみながら、タイピングやマウス操作の基礎を身につけられます。具体的には、一人ずつにネット上の人物が与えられ、実際の日本福祉大学のキャンパス風景の中で、様々な動作を伴って、チャットで意見交換ができます。事務室や図書館、各職業別のサロンなどからキャンパスは構成されています。
「フォーラム機能」は、学生同士の情報交換の場として、自由にフォーラム(掲示板)を申請、開設することができます。会議室機能、メーリングリストの申請・開設機能、また学生や学習に役立つホームページ紹介機能からなります。この他、「フォルダ機能」は各種帳票や申請書類のフォーマットの提供、「重要通知機能」は特定の学生に対する通知機能であり、その通知内容の格納場所です。
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図2 「NFU online」全体の構成 |
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「キャンパス」の画像 |
4.実施状況について
2002年2月6日現在、入学定員1,000名に対し、1,215名の学生が全国から学んでいます。平均年齢が38歳で最高齢が73歳であり、入学時にパソコンを用意しなければならない条件であるにもかかわらず、生涯学習の高年齢化がある程度見て取れます。2名の海外居住学生(居住地域における時差で試験を受験する)と、23名の障害者手帳を有する学生が在籍し、就学のバリアフリー化について、一定の成果を上げているということができます。
学習状況については、開設後まだ1ヵ年も経ていないことで、具体的な数値は明らかではありませんが、学生の学習進捗度合いは個別に把握できるため、開設後より進度の遅い学生に対して、いくつかの「呼び掛け」を行ってきました。1年を経過しつつある現在、全学生にアンケートを郵送し、システムやサポートなどの利便性のチェックと「呼び掛け」の効果測定を実施しているところです。
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