特集 高等学校における教科「情報」への取り組みと大学との連携
大島 修(岡山県立鴨方高等学校 情報管理室長・理科教諭)
本校は、岡山県の南西部の田園地帯に位置する1学年200名の生徒定員を持つ学校で、平成8年度に普通科から総合学科に移行しました。その特徴は、普通教科の他に、芸術系・外国語系・家政医療福祉系・スポーツ系・情報商業系を充実させて、生徒一人一人が百数十の科目から進路と興味関心に応じて自由に選択できるというものです。10名以下の少人数授業も数十講座あり、よくまるで大学のようだと言われます。情報関係では、表1のように商業系の情報科目を選択でき、実際に多くの生徒が選択しています。その中で、生徒全員が1年次に学ぶ科目として「コンピュータ I」があります。週2時間1年でパソコンの基本操作、ワープロ・表計算ソフトの扱い、電子メールの使い方とホームページ作成、それらに伴うマナー・セキュリティについて学びます。高校で初めてパソコンに触るという前提で授業は組み立てられてきています。
本校の情報環境は、二つの実習室に各40台のパソコンを設置し、ほとんど空き時間がないほど情報系科目の授業で活用されています。ネットワーク環境は、平成10年度から1.5Mbpsの専用回線が引かれていて、インターネットサーバはLinuxで自主構築しました。情報教室以外の普通教科の授業においても日常的にインターネットを利用したいという要望が強く出されていて、全普通教室にLANを引きインターネットにアクセスできる環境を整備することは急務です。しかしそれは予算の関係ですぐには実現できそうもないので、企業などに依頼して廃棄予定のパソコンを寄贈していただき、生徒減でできた空き教室を利用して多目的教室として整備しました。台数はまだ不十分ですが、これで普通教科の授業にも情報環境を提供できるようになりました。
表1 現行の教育課程で設置されている情報系科
必履修 科目: コンピュータ I 自由選択 科目: 情報処理、計算事務、文書処理、プログラミング、情報管理、経営情報
コンピュータ会計、 データ通信、コンピュータグラフィックスなど
新教育課程では、教科「情報」が必履修となっています。また中学校までに、技術家庭科を中心にしてコンピュータリテラシーとネットワークの基本的な扱いを学び、普通教科の中でもそれらを実用的に活用することを学ぶようになっています。したがって、高校以降は、先に述べたように初心者に操作を教えることを中心とした授業は、もはや成り立たないことは明らかです。
本校ではおもに実習を重視した「情報A」を中心にして設置することを検討しています。理由は、既に触れたように2年次以降で情報系科目を選択したり、総合的学習の時間や課題研究その他の科目で、コンピュータとインターネットを大いに活用することになるため、どうしても基本的な技術技能を身に付けておく必要があるからです。
誰が教科「情報」を担当するかも大きな問題です。本校では数学と商業の教員が講習をすでに受け、理科の教員も今年度講習を受ける予定になっています。そして、具体的な展開としては、授業を担当する教員が最も得意とする分野で活用する場面を設定して、さまざまな利用法を実習させてみることになるでしょう。例えば、商業出身の教員が中心になる場合はマーケティングと経営で情報ツールとインターネットをどのように利用するかとか、理科出身の教員では興味あるテーマを研究することを想定して、下調べや実験観察結果のデータ整理と分析に情報ツールを活用し、発表にはプレゼンテーションソフトの使用やWebページの活用などが考えられます。
表2 現行の「コンピュータ I」の年間計画 単元名 事 項 名 時数 形態
I コンピュータと
生活(1)情報との関わり
(2)コンピュータの機能
(3)インターネットの利用4
2
6講義
講義
実習
II パソコンの基本
的な使い方(1)操作の基本
(2)文書作成の基礎
(3)データ処理の基礎
(4)図形処理の基礎8
14
16
8実習
実習
実習
実習
III ネット社会 (1)インターネットの基礎
(2)情報モラル8
4実習
講義時 数 合 計 70
平成12年度から、岡山理科大学総合情報学部の大西荘一助教授の呼びかけに応じて、岡山理科大学・通信放送機構(TAO)プロジェクトの研究の一環として同期双方向遠隔講義の実験を年に数回繰り返してきました。1対多の可能な遠隔講義専用テレビ会議システム「セントラ」および1対1のNetMeetingの両方を使って実験しました。その結果、十分実用になると判断して、大学と高校間で話が進展し、インターネットを利用した同期双方向遠隔講義による単位認定を伴う国内初の高大連携を行う契約が成立しました。
連携初年度の今年度は、大学側では情報総合学部1年生を対象とした1単位物の「特別講義」を開き、それを遠隔講義として本校生徒が受講しています。成績評価は大学側が責任を持って行い、高校側で「コンピュータI」の増加単位として認定します。本校では、すでに漢字検定や英語検定・簿記検定などあるレベル以上の資格に対して、校外学修による単位認定制度を実施しているので、放課後を利用したこの遠隔講義の単位認定も、校内での合意はスムーズでした。ただ制度上問題となったのは、高校と大学とで単位認定に要する授業(講義)時間の違いでした。
高校では授業は1単位35時間が標準とされていて、大学の講義時間とはかなり開きがあります。そこで、講義の前後に高校教員の指導下でレポート作成などの独自学習時間を加えたり、夏休みを利用して高校教員の引率のもとで大学を訪問して対面の指導を受けたり、図書館を利用したり(高校側の受講生は科目等履修生の資格を与えられているので可能になった)する時間を加え、単位認定に要する授業時数の差を埋めることにしました。なお、この遠隔講義で取得した単位は、生徒が岡山理科大学へ進学した場合は、既に取得した大学の単位としても認定されることになっています。来年度は、科目を増やしたり、複数の高校が参加したりという進展も検討されています。
高大連携は、全国的に少しずつ実現されてきていますが、これまでは例外なく高校生が実際に大学に足を運んで受講することを前提としてきました。それでは、本校のように大学所在地から離れた場所にある高校(全国的に見て圧倒的に多数の高校)にとっては、生徒が大学まで通えないという空間的制約のために実現の見通しはなかったのです。しかし、このインターネットを使った同期双方向遠隔講義の実現は、これまでの空間的制約を一気に克服することを意味していて、大多数の高校が高大連携の可能性を切り拓く画期的な出来事です。
写真 岡山理科大学との遠隔授業の風景
(2002年6月13日)
最後に、制度上の連携ではないのですが、ユニークな大学高校間の連携として、1999年より3年間続いてきている「インターネット文化祭」という取り組みを紹介します。これは、岡山県下の高校生が学校の壁を越えてインターネット上で文化祭を行う活動で、慶應義塾大学村井純研究室と倉敷芸術科学大学小林和真研究室の支援と岡山県情報政策課の協力を得て始まりました。実際の活動は、自主的に参加した生徒達が、オフラインミーティングや合宿、高校生が管理するメーリングリスト上の議論を経て、共同のWebサイト(http://sf.okix.or.jp)を開き、各高校の文化祭の準備の様子や当日のステージの実況中継や双方向企画などを行っています。ここに参加した生徒は、インターネット上のさまざまな技術の習得以外に、企画運営、他校や校外の人とのコミュニケーション、学校当局との交渉、果ては自分の進路と価値観の再検討など、普段の高校生活では学べない多くのことを学び、大きくたくましく成長します。この活動を武器に大学の推薦入試を突破したり、進路を切り拓いたりする生徒もいます。制度上は何も保証はない活動ですが、非常に意義深い大学高校間の連携と言えるのではないでしょうか。
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