特集 高等学校における教科「情報」への取り組みと大学との連携
杉本 範雄(埼玉県立和光国際高等学校 情報処理科教諭)
「いつでも・どこでもネットワーク」。生徒が自己アカウントで電子メールをチェックしている。週末には課題を添付して自宅に送り、それを学校に返送し、そのまま教科担任へファイル提出なんて当たり前。
本校が1996年に、LANを導入して以来の光景です。電子メールのみならず、生徒は各自の責任でネットワーク(含むインターネット)を利用しています。校内の端末PCは個人環境で利用でき、課題の提出はもちろん、生徒会・部活等のデータもLAN上でやり取りが行われています。
LAN上では、全生徒・教職員が各自専用フォルダが与えられ、校内のいかなる場所・時間を問わずに同じ環境でFDD無しでの利用が可能です。そして、「共有フォルダ」により、教材提示・課題提出・校務資源の共有などの利用を積極的にしています。また、生徒には常時200台の端末PCが開放されています。
本校は1987年4月開校。各学年8クラス、普通科(4)・外国語科(2)・情報処理科(2)、生徒数960人・教職員数80人の県立高校です。
開校以来、国際化・情報化時代に対応した教育に積極的に取り組み、特に、情報処理科を中心とした情報教育と外国語科を中心とした国際理解教育を融合させた教育を全校規模で実践し、とりわけ校内ネットワークとインターネット(含む電子メール)を利用した実践は非常に高い評価を得ています。
1997年には生徒・教職員全員がユーザーIDとパスワードを持ち全国の高校に先立ち高度な情報ネットワーク利用を開始しました。その結果、生徒・教職員のネットワーク活用能力が飛躍的に向上し、海外生徒との交流もインターネットと電子メールで日常的に行われています。
以下は、これまでの情報教育とその環境作りの実践とその経緯です。
(1)1987年(開校年)から1996年度
開校と同時に普通科・外国語科1年生に必修科目「情報処理(2単位)」が設置され、情報処理科を含めた1年生全員が機器操作の基本と情報リテラシーを学ぶ。
情報処理・外国語科教員が海外パソコン通信を利用して授業に国際交流を取り入れる。1996年度に、情報処理科にNTサーバを設置し、パソコン室、職員室、進路室のネットワーク化と、インターネット(ISDN・ダイアルアップ)と電子メール(生徒・教職員の希望者にアカウント付与)を利用した授業や課題活動(海外交流プロジェクト等)を本格的に開始した。
(2)1997年度から2001年度
1997年4月、システム更新に際し、サーバ・クライアントシステムを導入し、LAN設備を拡張。全生徒・教職員にユーザーアカウントを与えて全校的なネットワーク運用を開始、同時にインターネットも常時接続とし、外部公開用WWWサーバも設置した。そして、「ネットワーク運用規定」、「ネットワーク利用規程」等の校内規定整備、「ネットワーク利用申込書」及び「インターネット利用承諾書(保護者より)」で運用手続きの明確化、1年生「情報処理」の内容をネットワーク利用中心に変え、時代に対応した情報教育の推進を常に図ってきた。 1999年12月、校内全ての教室・特別教室・会議室・教科準備室に「情報コンセント」を設置し、文字通り「全校LAN」が完成した。
1) | ユーザーID・パスワードのもとに個人管理(全生徒・教職員) |
2) | 各ユーザーに、サーバ上に「ホームディレクトリ」を与えた。 |
3) | 「教材呈示用」、「課題提出用」、「学務処理用」等の共有フォルダーを置いて、授業・学務の効率化の実現。 |
4) | 「校内情報掲示システム」を導入し、情報伝達、教材呈示・開発環境を実現。 |
5) | 生徒へパソコン常時開放(コンピュータ室、図書館、進路室)。社会科室、理科室、美術室、家庭科室はグループの授業に対応している。2002年3月より、全HRに県よりPC1台が配布設置され、生徒の利便性がより向上した。 |
6) | システムに対しては、「フィルターリングソフト」・「アンチウイルスソフト」及び、セキュリティー対策を施している。 (現在の状況については以下のページを参照http://www.wakoku-h.ed.jp/inet/env.html#gaikyou) |
上記成果として、全生徒・教職員がネットワーク活用に関する基礎操作・マナーを習得し、コンピュータを道具として利用しています。電子メールは海外との交流に、養護教諭が不登校生徒とカウンセリングに利用し、担任が生徒との相談等々日常的に利用されています。
本校の「いつでも、どこでも、誰でもネットワーク」という理念が生徒・教職員に確実に定着しています。
本校の情報ネットワークへの取り組みは、海外を含めて全国から注目されています。今後も、これまで以上の取組みと成果を目標とした実践をしていきます。2002年度当初から基幹ネットワーク設備と二つのコンピュータ室が更新となり、以下のようなますますの発展が期待されます。
(1)ネットワーク基幹設備の充実
全校的なネットワークの基幹サーバ群が更新され、校内光通信網と接続され効率的運用が可能となった。
(2)教科「情報」・「総合的な学習の時間」に向けて
両教科時間の実施に伴う内容は、既に「情報処理」・「課題研究」で十分な実践が行われている。教科「情報」は、現在「普通科・外国語科1年生」が必修科目として履修している「情報処理」を「情報A」に変更して実施する。内容は「これまでの実践」を生かしたものになる。(ネットワークマナー、操作・広範なアプリ操作、常時電子メールによる海外理解教育)。教科「情報」は、1年生時の全員履修が必須であると断言できる。それは、本校の15年間の実績が証明している。
「情報A 2単位」年間指導計画
※現在、開講されている「情報処理(2単位)」の内容と基本的に同一。
年間を通して、1回の授業(50分×2 OR 90分)の時間配分は以下のとおり。
1) | 開始〜20分:ログイン→電子メールのチェック(必要あれば返信) ※ほとんどの生徒は、休み時間中にログインは済ませ、電子メールチェックに入っている。 |
2) | 20分〜:本時の課題説明・演習 ※説明以外は、同時同業は行わず、個々生徒の進度で進ませる。 時間の足らない生徒は昼休み・放課後に自分で進める。また、家庭で課題を行う生徒もいる(電子メール・添付ファイルの利用) |
3) | 終了5分前〜終了:整理整頓・ログアウト→シャットダウン(必要に応じて) |
(3)海外交流
これまでも、海外の生徒とインターネット上でのオンラインプロジェクトへの参加、電子メールでの文化交流、チャットやテレビ会議でのリアルタイム交流と幅広く行ってきたが、最新通信技術やセキュリティー技術の導入で、より多くの授業や課外活動で実施することができる。
(4)「校内情報システム」の積極的な運用
現在の、校内情報掲示システムを発展させ、各HR端末PCで、校内の連絡事項やスケジュールを確認する。→HR配置パソコンや大型液晶ディスプレイ(購入予定)の積極的利用
(5)地域・保護者、大学との連携(計画)
ネットワーク網を利用して、本校と地域・保護者と情報の共有を行い、また、本校を軸に小・中・高校、大学との連携も図り、教育の幅と質の向上を目指す。
特に、武蔵大学(東京・練馬区)とは、筆者の母校であり、かつ、本校生徒が毎年数十人受験していることもあり、大学の専門性の高い授業・ゼミ等を高校生の進路に生かすことができないか模索中である。
表1 「情報A」年間授業計画概要
(本校は2期制で、一部90分授業があります)4月 第1時:ネットワークシステムの説明、ユーザーID、パスワードの説明、ログオン・ログアウトの練習、インターネット・Eメールの扱い方
(この段階では、最小限の説明で終え、操作・マナーは使いながら教えていく)
第2時〜第3時:第1時の復習、ホワイトハウスにメール送信(基本英文の準備・30分程度でオートレスポンスで返信がある)、海外の生徒に自己紹介のEメール送信(全員分のパートナーを用意してある。生徒は事前に英文を用意してある)5月 ・「自己紹介」作成(パワーポイントの利用、完成後、生徒同士で評価、個人情報の重要さ) 6月 ・エクセル、ワードの基本操作、演習(ワークブックの利用)
・中間考査(端末PC・ネットワークの基本操作知識、ユーザーID・パスワード等に関して出題。7月
8月・エクセル、ワードの基本操作、演習(ワークブックの利用)
夏休みには、実技課題を出す。自宅にPCの無い生徒には学校のPCを開放する。
また、夏休み中の質問は、Eメールを利用9月 ・エクセル、ワードの基本操作、演習(ワークブックの利用)
・期末考査(エクセル・ワードの基本操作、ネットワークマナー等を出題)10月 ・ホームページ作成(課題1)
自己紹介(自分のサーバー上のフォルダーに格納し、校内に公開する。生徒同士で評価、個人情報の扱い・マナーの体得
※ HTMLの文法は教えない11月 ・ホームページ作成(課題2)文化祭
・体育祭の紹介ページ作成(海外の日本語を学んでいる生徒向け)
日本語・英語で作成。HTMLの簡単な基本タグを教える。日本語表示や音声・アニメーション等のマルティメディアも扱う。12月 ・ホームページ作成(課題3)
共同で「高校の生活紹介」ページの作成(海外の日本語を学んでいる生徒向け)
クラスを数グループに分け、責任者や役割分担を決めさせて作業。
サーバー上に「共有フォルダー」を設けて、作業させる。
・中間考査(HTML・マルティメディアの基本知識、ネットワークマナー
特に、チェーン(不幸)メールについて出題。1月
2月・ホームページ作成(課題3)
(各種ソフトウエアー利用技術、著作権・肖像権、異文化理解、共同作業の体験)
作業 → 完成3月 個人フォルダの整理整頓、学年末試験はなし
注1 4月当初には、1年生用のユーザーID・個人フォルダーは事前準備しておく。 注2 Eメールの交換は、年間を通じて行い、生徒は授業以外にもHR教室や図書館などで常時メールチェックをする。 注3 10月以降、クラスによっては、海外交流プロジェクトに参加し、上記内容を行わないことがある。
全校的な情報教育の「成果」を記述しましたが、その何倍もの失敗・苦労がありました。本校見学者が必ず、「管理上の問題点は?」、「失敗したことは?」等々と質問しますが、「経験すべてが私たちのノウハウとなっています」と回答しています。
1987年、初代校長がデータ専用電話回線を引き込んで以来、漠然と始まった「ネットワーク・情報教育」は、1995年の100校プロジェクト落選を機に、3人の有志が始めた「理想=本格的なネットワーク構築・真のネットワーク教育の実践」は、全生徒・教職員の協力と歴代管理職の温かい援助のもとに「全校的なネットワーク利用」へと進化しました。パソコン初心者の先生から「サーバにデータを置けました」、英語の苦手な生徒から「外国からメールが届きました」という声を聞くたびに、「失敗や苦労」が吹き飛んでいきます。生徒を信用しましょう!初心者を大切にしましよう!