特集
e-Learningの実践〜魅力ある教育を目指して〜
大学においてe-Learningは、授業や自学自習などあらゆる場で導入されていますが、より学習意欲や能力を高め、教育効果を上げるためにはどのように開発し活用すべきなのか、教育現場で模索されています。本特集では、e-Learningを成功させるための留意点についてアメリカの事例を踏まえながら紹介するほか、五つのe-Learning実践事例を紹介します。
〜e-Learningを成功させるために〜
サイバーキャンパスとこれからの大学教育
平成14年度大学情報化全国大会 基調講演より
(本稿は、平成14年9月3日「平成14年度大学情報化全国大会」の基調講演を文章に起こし、本誌用に編集したものです。)
清水 康敬(国立教育政策研究所 教育研究情報センター長)
1.大学のサイバー化と四つの視点
大学全体のサイバー化にあたっては、「教育面」、「学術研究面」、「大学運営面」、「学生サービス面」の四つの視点から考えることは言うまでもありません。学生・教員・職員が、オフキャンパスから大学にいるのと同等な機能やサービスを受けることがサイバー化にとって重要です。
●教育面
●学術研究面
●大学運営面
●学生サービス面 |
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図1 大学のサイバー化と視点 |
(1)教育面
オンキャンパスでは、授業や個別指導があります。教育的に考えると、最近はファカルティ・ディベロップメント(教員の授業内容・方法を改善し、向上させるための取り組み)が非常に重要になってきています。大学審議会からの答申により、これからは教育・指導の力が各教員に求められることになりました。大学にとってみれば、入学してくる学生の資質だけでなく、どういった人材を社会に送り出すのかが重要になっているため、教員の指導力が求められています。そういった意味で、アメリカで行われているファカルティ・ディベロップメントが注目されているところですが、授業という観点で指導法、その技術、評価の仕方についてはまだ日本の大学では確立されていないと思います。
最近、ネットワーク環境の発展に伴い、e-Learning、いわゆるオンライン教育で、オフキャンパスにいる学生を指導し、単位認定をして卒業させることが注目されています。アメリカの大学でも一気にe-Learningが立ち上がったわけですが、もう勝ち組と負け組がはっきりして、2002年から負け組はどんどん撤退しています。失敗の原因は、すべてをe-Learningで行おうとしたり、新たに独立採算の形で作ろうとしたためです。コンセプトの面からも、経営的な面からも無理なのです。一方、オフキャンパスの学生に対する指導を、オンキャンパスとの「ハイブリッド型/サンドイッチ型」としてうまく扱っている大学は成功しています。
もう一つ重要なことは、初等中等教育との連携の問題です。2002年4月から小中学校の新学習指導要領が始まり、2003年4月から高等学校の新学習指導要領が始まり、全体的に学習する内容が少なくなります。そういったことから大学生の学力低下の心配もありますが、大学進学率が高くなったために大学生の平均的な学力が低下しているのは間違いないと思います。
また、学生が多様化し、学生との価値観が我々とは大幅に違うということは、それに対応した教育を考えなければなりません。そういったときに大学の教職員のパワーを考えると、ここで扱っているような情報化が非常に重要なポイントになります。
(2)学術研究面
今までのネットワーク時代から、さらに高度化したブロードバンド時代の学術研究面でのサイバー化は確実に進んでいます。研究と教育の接点としては、研究の成果を公開講座などで、学生だけでなく広く市民にも伝えるということですし、インターンシップも研究に合わせて考えていくということが挙げられます。
(3)大学運営面
大学審議会の答申にもあるように、「教員中心の大学から、学生中心の大学へ」ということです。学生中心ということは、学習環境や、研究環境など、学生が関わる大学施設の情報化をすることになると思います。すべての子供達が情報の考え方を理解して社会に出ること、わが国が専門的な情報人材と幅を拡げた意味の情報人材の育成をすることが必要となります。
2003年4月からスタートする新しい高等学校の新学習指導要領では、新教科「情報」が必修となります。しかし、情報が必修となっても、大学入試で扱うかどうかを非常に心配しているところです。大学入試で扱わないということは、高等学校では「情報」の指導をしなくなってしまう、という不安があるからです。
(4)学生サービス面
図2はアメリカの大学で、e-Learningを行うときに、学生サービス面として挙げられた必要項目です。学生サービスもサイバー化における大きな視点となっています。学生サービスがうまくいかないということは、学生がオンラインで授業を受けないことに繋がることになります。アメリカでは、この視点がうまくいかないために撤退せざるを得ない大学がありました。
●オリエンテーション情報の提供
●入学手続き
●授業のシラバスの提供
●授業の履修登録と中止登録
●奨学金案内と申請手続き
●教科書の注文
●試験実施に関する情報
●成績の通知
●進級の確認 |
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図2 学生サービスの必要項目 |
2.米国におけるe-Learningの成功と失敗
(1)企業と大学における発展と成功
e-Learningによって企業が成功してきた事例を紹介します。
企業における教育の評価には、「カーク・パトリックの4段階の評価」というのがあります。
第1段階は参加意識あるいは満足度で評価するものです。第2段階は、学習成績や内容面で評価するものです。ここまでは大学でもやらなければならない評価です。企業では、第3段階として、応用力がどのぐらいその教育によって向上したかという点があります。最後に、営業成績にどのぐらい寄与できたか、その教育の投資効果まで評価する第4段階があります。アメリカの企業等ではカーク・パトリックのレベル4までの評価をしていくわけですが、図3に示した企業は、e-Learningによってビジネスが効果的になった、ビジネス展開が発展できた、あるいはコストダウンに繋がったことになります。日本企業も「我も我も」と何でも集合教育をe-Learningに置きかえれば良いのではないかと考えてしまいます。しかし、これでは間違いなく失敗するのです。また大学も授業そのものをただe-Learningにすると失敗します。
米国の大学においてもe-Learningは非常に発展しています。これは、アメリカでは「継続教育」という言葉で、昔から大学を卒業した後、あるいは社会に出てから、継続的に学習するという層がたくさんあったからです。コンティニュー・エデュケーションの授業料収入がかなり多い大学もあるわけです。そういった社会で、e-Learning化したということでうまくいっているところはあります。
●IBM 営業部隊教育 |
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4000ドル/人 → 200ドル/人 |
●Deloitte&Touche 新規パートナー研修 |
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100万ドル → 3万ドル |
●アスベクト |
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新入営業スタッフ研修 |
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時間と旅費の節減 |
●フォード |
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投資対効果 23%増 |
●ダウケミカル |
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投資対効果 20%増 |
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図3 e-Learningの成功企業 |
(2)大学における後退と失敗
e-Learningは、開発費が莫大にかかるというのも事実です。例えばアメリカの公立の大学では約80%がe-Learningを行っており、私立大学は20%弱です。これは、私立は経営面を考えるとe-Learningが難しい、ということです。公立は州からの資金により、その収支が明確にならなくても、学生サービスにポイントを置けば実現できることになります。
大学がe-Learningに注目し、一気に実施しようとしたのですが、2002年になってどんどん駄目になってきているところがあります。例えば、ニューヨーク大学、ウェスターン・ガバナーズ大学、カリフォルニア・バーチャルユニバーシティ・コンソーシアムなどが失敗しています。非常に有名だったウェスターン・ガバナーズ大学は「バーチャルユニバーシティ」で注目されたのですが、大学のアクレディテーションの認可がとれなかったのです。候補にはなっていたのですけれども、最終的にはコンテンシー(能力)レベルで評価するというところが評価されず、バーチャルユニバーシティとして認定されました。
アメリカの大学が撤退した理由は二つあって、一つはメリルリンチがe-Learningのビジネス、あるいは大学も含め、夢のような予測をしたのですが、これはe-Learningの世界を拡大解釈し過ぎていました。ですから、そのような拡大解釈に基づいて、「成功するだろう」と、我も我もとスタートした大学や企業が、投資したけれども一銭も回収できずに撤退、ということが既にアメリカではたくさんあります。このような予測の失敗が原因です。もう一つは、アメリカでは、大学に行かずに受講する学生はたくさんいると予測したのです。インターネットの世界がこれだけできて、家庭で授業も受けられる、学習できるという世界さえ提供すれば、受講者が増えると思ったのです。しかし、学習意欲の高い人は、それほど多くないのです。現在、日本の学生を見ても学習意欲はそれほど高くないようですが、アメリカもそれほど高くないので、失敗した、ということです。
3.e-Learningを成功させるために
(1)e-Learningの定義と機能
e-Learningは遠隔教育と同じだと言う人がいますが、これは違います。
これは私の定義ですが、e-Learningはディスプレイで内容提示がされて、要するにメディアを使っているということです。その次に、学習者が能動的である、という条件がつきます。ただ学習できる環境を用意すれば良いということではなく、インタラクティブという要素が重要です。インタラクティブというのは、画面についてインタラクティブなだけではなくて、教員や、授業をサポートする人たち(メンター、コーディネーターと呼ばれる人たち)がいて、何かあったときにインターネットや電話で質問できる、というインタラクティブ性です。そういったものを用意して初めてe-Learningと言えます。一番重要なことは、学習者のインセンティブの問題です。インターネットを使った教育をe-Learningと定義している人もいますが、それだけではありません。遠隔教育も含むけれどもそれがe-Learningのすべてではない。技術は変化しているため、技術では定義しません(図4)。
e-Learning・システムの機能は図5をご覧下さい。様々な機能がありますが、すべてを満足しなければe-Learningでないということではなくて、左の上三つは必須機能です。図5の機能が総合的になって初めてe-Learningがうまくいくということです。
ディスプレイの提示内容に対して、
能動的な学習者が
インタラクティブに学ぶ形態 |
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インターネット利用を含むが、それだけではない
遠隔教育を含むが、すべてではない
今後の展開を考えて、利用技術で定義しない |
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図4 e-Learningの定義 |
●提示機能
●チュータリング機能
●対話機能
●登録機能
●学習評価機能
●成績管理機能
●能力管理機能 |
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●情報提供機能
●交流支援機能
●面接授業機能
●技術支援機能
●支払い受付機能
●コース開発機能
●関連機関連携機能 |
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図5 e-Learning・システムの機能 |
(2)e-Learningラーニングが成立する条件
1)学習者のインセンティブ(自己学習力・達成感)
学習者のインセンティブがあるかどうか。「e-Learningのシステムを作りさえすれば成功するだろう」というので、例えば集合教育、普通の授業をビデオに撮って、企業に渡して「これをe-Learning化してください」という発注の仕方をしているところが結構あります。これは間違いなく失敗します。Face to faceの授業と、e-Learningの授業、企業の講座も含めて言っているのですが、根本的に違うものをそのまま置き替えるのは失敗します。
2)学習環境・ネットワーク環境
この中には、受講者のコンピュータ・リテラシーの問題も含まれます。アメリカの大学では、チェックリストがあり、インターネットを使ったときにどの程度のレベルまで使えるかをチェックしています。ある点数以上になるとe-Learning学習が認められ、ある点数範囲の人にはアドバイザーへの相談の必要性を伝え、さらに下のレベルの人に対しては、技術的レベルを上げなければ授業を受けられない旨を伝えます。誰でも受けられるということはあり得ません。学習者の技術的なスキルによる学習内容の区分けが必要です。
3)e-Learning部分の明確化
e-Learningはe-Learningの得意とする部分があるし、集合教育は集合教育での得意とする部分があって、e-Learningと集合教育をサンドイッチ型やハイブリッド型にする(複合形態にする)ことで特徴あるところをうまく利用するということです。つまり、一部をe-Learning化していくのが最大のポイントになります。
4)運用側の文化と基本的姿勢
運用側である大学が基本的な姿勢をどこに持つかということです。大学の理念にまで関わる問題ではないかと思います。そこまで大学の経営陣が明確な指針を持っていくことが必要です。これは、一部の試みという形ではe-Learningは成立しないためです。アメリカの大学で勝ち組・負け組ができたのも、指導者あるいは管理者層が明確な指針を持って推進したところは勝ち組に入ってきていますけれども、そうでないところは負け組になっています。
5)自己学習力と強制力
図6にe-Learningにおける自己学習力と強制力を表しました。
縦軸は「自己学習力」、自ら学んでいくという力を持っているか、右側は強制されるかどうかということです。初等中等教育で考えると、家庭教育などの発展的な教育を除けば強制力が高いです。意欲があり、成績の良い子供は、結局はe-Learningでなくても何でもでき、そういう子供達には、e-Learningが成功する、ということになります。
社会教育になると、インセンティブが低いのが普通のようです。大学生はどのぐらい強制されているか、強制されていない範囲ですし、意欲が高い人もいれば、低い人もいる。学生の資質、意欲の問題です。ただし、アメリカの事例で、意欲が多少低いという場面でも、算数のドリルなどが遅れた子どもに強制的にやらせるe-Learningは、Slow Learnerのスキルとかドリル的なものが成功しています。意欲がなくても強制力を働かせた場合とみています。図には入れていませんが、家庭教育でのe-Learningはやり方によっては可能ではないかと思います。これは学校教育、大学教員との連携が重要だろうと思います。
自己学習力 |
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強制力 |
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図6 自己学習力と強制力 |
(3)e-Learningの発展のために
e-Learningの発展のためには、定義の枠組みを広げないというのが最大のポイントです。何でもかんでもe-Learningと定義も大きくしていくようでは、発展しません。また、学習者が限定されることを最初から意識しなければなりません。また、研究開発のほかに、運用を始めた後に定着させる努力がないと成功しません。
4.e-Learningと単位認定
大学の授業は、ビデオを利用した授業で単位認定ができるようになりました。また、外国で履修できるだけでなく、外国からの授業を受講して単位も取得できるようになりました。以前は同時性・双方向性の授業だけでしたが、今は同時性・双方向性がなくても、教育効果が得られるものであれば単位が取得できます。
しかし、インターネットで教材をホームページに置いて、学生がアクセスして学習するのは、文部科学省が定めている単位認定できる「メディアを利用した授業」にはなりません。これは定義からいくと、通信教育の印刷授業に相当します。印刷授業はパラパラめくっていくものですが、CD-ROMでもパラパラめくるものと同じわけです。インターネットであっても、こういったパラパラめくるものと同じことになります。インタラクティブ性を持った授業でないと単位認定ができないということです。
大学の授業
外国でも履修できる |
大学設置基準
●講義 15-30時間
●演習 15-30時間
●実験 30-45時間
●実習・実技 30-45時間
●メディアを利用した授業 |
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大学通信教育設置基準
●印刷教材等による授業
(+添削指導)45時間
●放送授業(+添削指導) 15時間
●面接授業
●メディアを利用した授業 |
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図7 大学授業の単位認定 |
5.e-Learningの開発
(1)インストラクショナル・デザイナーの必要性
アメリカと日本では、e-Learningの開発体制が全く違います(図8)。
アメリカには「インストラクショナル・デザイナー」という専門家がいます。インストラクショナル・デザイナーとは、「メディアを使って授業をする際に、教育的効果を上げるためのノウハウを持った専門家」です。日本で実際にインストラクショナル・デザイナーとしての資質を持っている人はほとんどいないとみてよいでしょう。インストラクショナル・デザイナーが教員(教育内容の専門家)と協議しながら、教育効果を上げるにはどうすれば良いかをしっかり決めた上で、コース開発をしていくことになります。ですから経費はかかります。どのくらいコストを使って、どのくらいの授業料でフィードバックがきて、ペイできたかというコスト・アンド・ベネフィット・アナリシスの観点から見ると、アメリカの大学でもペイできていることをきちんと言える大学はほとんどありません。ですから、インストラクショナル・デザイナーはコスト・アンド・ベネフィット・アナリシスまで考えます。最終的に黒字にならなくても、コストと利点とメリットを企画して、できるだけメリットを上げることを考えるわけです。
米国の大学 |
●マネージャー
●教員
●インストラクショナルデザイナー
●開発技術者 |
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日本の大学 |
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図8 開発体制 |
(2)企画
大学のオンラインコースを考えるとき、企画の段階では、以下のような点を明確にしなければなりません。
・メディア利用コースの必要性
・利用技術の環境整備
・目標達成に必要な要員
・面接授業との内容の一致、首尾一貫性
・著作権の尊重、手順の明確化
・評価方法と基準の明示
・教授陣と学生の訓練体制
・継続的な監視体制
上記のうち、「面接授業との内容の一致、首尾一貫性」についてですが、アメリカの大学ではオンキャンパスの学生に対してもe-Learningで行います。オンキャンパスの学生もe-Learning的に学習するサンドイッチ型もありますし、それをオフキャンパスの学生にも使うといったときに内容面で差が出てはいけない。あるいは、一部ですけれども、Face to faceの授業とオンラインとが併設されているのもあります。そういったときにも内容面が一致して、首尾一貫性があるかどうかがチェックポイントになります。
「評価方法と基準の明示」については、インストラクショナル・デザインでは目標を決めた後に評価をどうするか、先に評価のことを決めるのです。授業をやった後、「さて、試験だ」というのは駄目です。
「継続的な監視体制」というのは、見張るという意味ではなくて、学習効果が本当に上がっているのかという意味の監視体制です。
(3)インストラクショナル・デザインの手順
簡単に言うと、工学的に考えた普通のシステム設計、製品設計と全く同じです。「分析→設計→開発→実施→評価→フィードバック」という流れです。このように、インストラクショナル・デザインでは、できるだけ直接的な観点で学習した範囲の内容を明確にし、口頭で請け負うだけでなく、ドキュメントで残していくことが非常に重要になります。具体的に、コースの目的、学習目標をどうするか、目標と内容はどのように一致させるかなどドキュメントを残すことは、考えを明確にすることでもあり、ポイントの一つです。
コース目的の明確化
学習内容の明確化
学習内容を目標と一致 |
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図9 インストラクショナル・デザインのドキュメント |
1)分析
特にニーズ・アナリシス、学習者分析をかなり真剣に行います。この授業が必要なのか、また、どのような資質・能力、要求を持った人を受講者の対象にするのか。その上でコース開発をします。誰でも良いというコース開発はあり得ないということです。ターゲットが明確ではないと、内容をどういうふうに教えていくかが定義できないことになります。タスク分析は、学習の内容を、項目を挙げてモジュール化するという作業をします。
2)設計
達成目標(授業終了後、どのような能力、知識、スキルが身につくのか)を決めます。次に、どのようにそれを測定するのかを先に決めます。その後に指導する順番を決めます。構造化、系列化などと言いますが、内容をモジュール化した後、どれが上位概念で、どれが下位概念か、どれが易しくて、どれが難しいか、そういったことから構造化して、教える順番、学ぶ順番を系列化します。この部分はメディア、この部分はFace to face、この部分は小ブロックのディスカッションにするといったような戦略を立て、次に、学習フローをします。
3)開発
e-Learningの重要性は、再利用でコストダウンできることですが、アメリカのシステムをそのまま日本の学生には適用できないと思っています。それは日本とアメリカの学生は根本的に行動が違うからです。このほか、オンラインなので、機密保持、プライバシー問題への対応を真剣に取り組むべきです。
4)評価
評価の視点は何を評価するのかということで、大きく二つに分かれます。評価する対象、成果を評価(学習者を評価)するのか、実際のシステムを評価(学習者が評価)するのかということで、根本的に考え方が変わります。
今、大学では、レポートでの評価というと教員に一任されています。ただ、普通の授業でレポートでの評価といったら、教員が学生の資質も分かった上で行われます。しかしe-Learningでは、先生とのFace to faceがないので、レポート提出のガイドラインを明確にする必要があるということを、アメリカでも随分言われています。この他、コミュニケーションの評価をどうするか。ペーパー試験か、オンライン試験か、また試験時の本人確認の問題があります。
受講科目の評価では、学生のニーズをどのくらい満たしているか。今の学生は本当に主体的に自分の学習の目標を持っているかというと不安があるため、学生のニーズだけを満たせば良いということではなく、指導者側で明確なものを決めていかなければなりません。ですから、そういった意味での学生のニーズに対する評価が必要となります。アメリカのオンライン教育等では、指導教官と学生の間に入ってサポートする「メンター」、あるいは「チューター」、「アカデミック・コーディネーター」と様々な呼び名がありますが、こういった人たちがいないとe-Learning、オンライン教育がうまくいきません。一人の教員がどのぐらいマネージできるかという数の問題もあります。
設計 |
1.目標 |
2.評価項目 |
3.順番 |
●構造化 |
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●系列化 |
4.戦略 |
●メディア |
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●対話(教員、学生) |
5.学習フロー |
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開発 |
●コース、教材、素材 |
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内部開発(既存の変換を含む) |
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内部開発済みの二次利用 |
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外部機関開発の利用 |
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商業的政策の利用 |
●コース開発システム |
●コース管理運用システム |
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図10 設計と開発 |
6.著作権の問題
著作権の一番の問題は、情報化が急速に進んだために、すべての人が著作者と利用者となり得る、ということです。今は多くの人が、パソコンを使い、図なども描けるし、それをインターネット等で簡単に配信できます。著作権は情報社会のルールになっているので、著作権に関しては大学人だけではなくて、すべての人が学ぶ必要があります。著作権というルールの指導と、モラルの問題ははっきり分ける必要があります。
著作権法第35条では、大学の授業で新聞記事をスキャナーで読んで提示する、というのは認められています。しかし、これを他の先生に使わせようとすると駄目なのです。教育者が教育的な観点であれば何でも使用して良いと誤解していることが多いですから、気をつけねばなりません。また、引用については32条にありますが、引用の必要性があるか、自分の主張を補強するために引用しているかがポイントになります。
学習者がコピーして自由に授業に使えるという世界にしてほしいし、他の人が授業に使うこともできるようにしてほしいと思います。また、著作権法は約30年前の条文なので、公衆通信の問題(無線LANが著作権法的に問題で、有線では良いが無線では駄目という条文になっている)があり、現在、著作権審議会で検討していただいております。
7.終わりに
共有する世界の一つの流れとして、アメリカ、イギリス、情報先進国で進められているのは、Learning Object Metadata(LOM:学習対象メタデータ)です。大学のLOMの構造については、現在、私がシラバスを基準にして作成していますが、初等中等教育については既にできましたので、教育情報ナショナルセンター(http://www.nicer.go.jp/)から情報提供しています。このようなLOMという観点は今後の情報共有の中で必要なことであろうと思っております。各大学がe-Learningあるいはサイバー化を実現したときに、お互いに共有できる世界を作っていかなければなりません。
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