特集 e-Learningの実践〜魅力ある教育を目指して〜


共に学ぶ e-Learning
−園田学園女子大学での取り組み−

山本 恒(園田学園女子大学国際文化学部教授 そのだインターネットキャンパス所長)



1.e-Learningに至るまでの経緯

 本学は国際文化学部(言語コミュニケーション学科・情報コミュニケーション学科)、人間健康学部(総合健康学科・食物栄養学科・幼児教育学科)、短期大学部(生活文化学科・幼児教育学科)からなる小規模な大学で、地域貢献から社会貢献へ、プロとして役立つ、前向きな女性を育てることを目標に、経験値教育を推進しています。
 情報教育分野においては、1985年に情報教育センターを開設。「文科系の大学だからこそ情報教育」をスローガンに基礎的情報教育を開始。その後「画面の向こうに人が見える」を教育モットーとして、コンピュータを人と人との豊かなコミュニケーションのチャンスを広げる道具として位置付けてきました。
 また、情報教育は技術革新が急速で、生涯学び続ける必要のある分野であり、自ら学ぶ力を育成することが最重要課題であるとの認識で、基礎的な情報教育においては教授方法も講義形態の一斉学習でなく、自ら学ぶことのできる自己学習の形態が有効と考えてきました。
 この自己学習を支える学習システムとして、1994年に自己学習のための学習支援システムの開発を行い、1995年から、全学的にこのシステムを利用した基礎的情報教育を開始しました。
 このシステムでの学習は、学生が自ら学ぶ方法や意義を理解した時点で大きな効果があり、有効な学習システムであることがわかりました。この成果をさらに実証するために、1997年には本学の情報教育のカリキュラムを社会人に開放することにしました。初年度は 86名の社会人が学生と共に、あるいは土曜日や夜間に受講し好評を得ました。現在も聴講生として毎年約200名の社会人が参加されています。
 1998年には、このシステムをインターネット技術を活用したシステムにバージョンアップし、自宅からも学習が可能になり、教員自身も、教材の修正や評価を遠隔地から行うこともでき、出張などでも学生の評価依頼などに応えることができるようになりました。


2.ユニットという概念について

 このシステムの基本にあるのが、ユニットという概念です。ユニットとは「ある目的をもった学習内容のまとまり」で、次のような属性を持っています。

学習目標、評価の視点、評価問題(課題、ミニ課題、小テスト)、自己点検、自己学習教材、標準学習時間、得点、必修選択の区別、発展課題、ユニット作成者

 このユニットを組み合わせることで、一つの科目が成立します。学内の基礎的情報教育(合計8単位)では、現在56のユニットを準備して、必修ユニット以外は学生の興味関心やニーズ、自己の能力に応じて学生自身が学習内容を決めたり、教員が学科の特性を考えて選択するユニットを指定したりしています。
 教材を単にデジタル化するだけでなく、ユニットごとに評価することで、学習者が自己の学習結果を即確認でき、学習意欲を喚起させることができます。また、評価そのものがガラス張りで学習者は自分の最終評価を予想することができます。これらは、継続して学習するための大きな要因になっています。

図1 学習支援システムの講義室の概念

3.遠隔共同学習支援システムの概要

  本学の基礎的情報教育の学習システムは、定められた時間割があり、その時間に学習者と教員が一同に会し、共に学ぶスタイルです。しかしながら、実際のe-Learningでは、時間や距離を越えて学習が可能でなければなりません。これらのことを考慮して新しい遠隔共同学習支援システムを開発しました。  図1は学習者が登校し講義室に入ったときの概念図です。

(1)黒板
 登校し講義室に入ると黒板があり教員からの全員に対するメッセージや個人宛のメッセージが書かれています。

(2)座席
 講義室にはあらかじめ学習者の座席が準備されており、その時点で講義室に入っている学習者には出席マークがつきます。氏名をクリックすると、学習者の個人情報が表示されます。この個人情報は各個人で自己紹介をはじめ写真やメールアドレスなどが設定できます。

(3)電子掲示板
 講義室におけるコミュニケーションの場として、講座単位で電子掲示板を準備しています。現実の学校の講義室での学習者同士、学習者と教員のコミュニケーションをこの掲示板で実現しようとしています。ある学習者の質問や発表を、また教員からの回答をみんなで共有することができます。

(4)チャットルーム
 同時に講義室に入っている学習者同士の、ちょっとした会話をサポートしています。

(5)書類保管所
 個々のファイルを保存しておくディスクサービスを準備しています。この書類保管所に課題などのファイルが送られてきます。

(6)教材データベース
 科目を構成しているユニット群の学習教材が準備されWeb上で見ることができるようになっています。

(7)学習診断ツール
 教員が学習者の評価をするための仕組みです。簡単な操作でのファイル提出、小テストシステム、ミニ課題、自己点検、評価依頼などの機能を持っており、それらによって教員が評価できるようになっています。学習が不十分と判断したときは、再学習を求めたりできます。

図2 現在開発中の講義室画面

4.そのだインターネットキャンパスの誕生

 2000年1月から実験協力者を公募し、そのだインターネット大学(遠隔共同学習講座)を開始しました。この実験の目的はお互いに直接出会うことのないネットワーク上で、学習者と教員のみのコミュニケーションでなく、学習者同士のコミュニケーションを図りながら共に学ぶ学習を成立させることでした。
 実施した講座は歴史分野なども含めて6講座(各2単位相当)でしたが、参加者は191名でその地域別分布は北海道から沖縄、海外と、まさにインターネットが距離を越えるメディアであることが実感できました。試行錯誤しながらもネットワーク上で「共に学ぶ」ことの難しさ、楽しさがわかりe-Learningの展望が開けました。
 また、このシステムは情報教育に限らず、他の科目にも応用でき、汎用性のある学習システムであることがわかりました。
 この実験の成果を受けて、2000年4月から本学に組織規則上、正式に「そのだインターネットキャンパス」が誕生しました。
 図3は、キャンパスの入口です。まだ建物も少なく荒野ですが今後充実させたいという願望をこめたものです。
 本学では、e-Learningを、一般社会人を対象にした公開講座として活用するところから始めましたが、現在では、本学の学生に対する授業として、また併設高校の授業の一環として、さらに、ニュージーランドのキャンパスからの遠隔学習の可能性など様々な試みを始めています。また、本学の学生が教師になって中学校のクラブ活動を援助する実験も行っています。

図3 そのだインターネットキャンパス

5.おわりに

 e-Learningに本格的に取り組むことで、次のような可能性を大学にもたらしてくれると考えています。
  1)学生の在宅学習が可能になり、自己学習力を学生に体得させることができる。
  2)在宅学習がはじまると、大学に来て学ぶ意義の再確認ができる。
  3)教員の知的財産の再構築ができる。
  4)教授指導法の再点検ができる。
  5)時間割編成や教室確保などが緩和できる。
  6)大学間連携を進めることができ、単位互換などが容易になる。
  7)生涯学習など社会への貢献ができる。
  8)高大連携を進めることができる。
  9)開発研究を推し進めることで、企業や社会と連携することができる。
  10)大学の特色の一つになり教育研究としてのステータスが向上する。
  11)将来に備えて、大学としての基盤になる力を蓄えることができる。

 以上の観点から、今後全学的に実施できるように組織と方略を見直し、平成16年度から本格的にe-Learningを教育手段として活用したいと考えています。そのために単位互換の可能性のあるもの、本学学生に対して有効なもの、生涯学習として需要が見込まれるものを厳選し30科目のストリーミング技術を導入したコンテンツを準備しようとしています。また、より汎用性があり、操作性のよい新しい学習支援システムの開発も進めています。
 もしe-Learningでの単位互換をお考えの大学や興味をお持ちになった方がございましたらご連絡いただけると幸いです。

URL
http://www.sonoda-u.ac.jp/iu/ius2/index.html


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