特集 e-Learningの実践〜魅力ある教育を目指して〜

教員個人でのe-Learning導入
−LMSを用いた多人数授業の改善−

小林 貴之(日本大学文理学部講師)



1.はじめに

 筆者が勤務する日本大学文理学部は17学科、約8,500人の学生数です。17学科は哲学・史学等の人文系、心理学・教育学等の社会系、そして数学・物理学・化学等の理学系の3系統からなり、学部といえども小規模総合大学程度の多様性をもっていることが特徴です。他大学と同様に本学部も1997年頃からインターネットを利用した就職活動や電子メール利用が増加し、学生のコンピュータリテラシー向上の必要性が学内で議論されました。その結果、40台パソコン設置のコンピュータ実習室でコンピュータリテラシー教育を始めましたが、受講可能者数に対して希望者が非常に多く、既存コンピュータ実習室では対応できないことが明らかになりました。このため既存教室を160台ノートパソコンを設置した大規模コンピュータ実習室1部屋へ、二分割可能な100台コンピュータを設置した中規模コンピュータ実習室一部屋へとそれぞれ改造しました。
 ハード面の整備は進みましたが、科目担当者として授業内容や指導に関するソフト面の充実の必要性を感じるに至りました。本稿では筆者個人で可能な範囲で改善を試み、現在利用しているLMS(Learning Management System)を用いた授業方法について紹介します。


2.多人数受講科目の授業実施問題点

 現在担当科目のうちコンピュータ実習室を利用しているのは「コンピュータリテラシー(半期2単位、1コマあたり受講生約160人)」と「表計算ソフト活用法(半期2単位、1コマあたり受講生約160人)」の基礎情報科目、「情報処理I・II(半期3単位、1コマあたり受講生約30人)」と「化学表現I(半期1単位、1コマあたり受講生約50人)」の専門科目です。
 受講者が100人以上の基礎情報科目は受講者の所属学科が複数にわたり、前提知識に大きな差があるのが授業中よくわかります。特に科目「コンピュータリテラシー」は必修ではありませんが新入生の8割程度、理系学科を除くとほぼ全員が受講を希望します。受講理由アンケート結果のトップが「コンピュータを自由に使いこなしたい」ですから、受講生の目的はコンピュータ基礎知識の取得になります。したがって実習時間を多く取ること、異なるレベルの受講生に対応させること、理解度のチェックを行うこと、さらに授業アンケートなどが必要と考えています。一方多人数受講「情報処理I・II」や「化学表現I」では専門知識の習得が受講希望のトップのため、発展課題の提供や予習・復習教材提供が必要と考えています。
 これらを叶えるには授業時と自己学習の両環境で各受講生個別に適切な指導ができる環境が必要になります。


3.LMSの導入まで

 当初授業教材はデジタル化してWebサーバ上に置き、受講生にアクセスさせることを想定しました。しかし、コンピュータの初心者が多い「コンピュータリテラシー」ではWebブラウザ利用講義をするまでアクセスできない受講生がいる可能性が考えられました。実際にそのような受講生がいましたので、持ち運びや参照の容易な紙ベースの教科書「初心者のためのコンピュータリテラシー」(共立出版)を作成しました。ただし、コンピュータの操作手順など文字よりも動画を用いた方が説明しやすいものは別途教材を作成しました。
 作成は画面録画ソフトウェアもありますが、電源投入時など録画できない画面があることと、ハードウェアに比較して画質がどうしても落ちるので、コンピュータ画面のモニタ用出力信号を分岐してビデオデッキに入力し録画しました。録画画像はパソコン上でAdobe Primerを用いてWindowsMediaやRealMediaのストリーミング形式で作成しました。作成したストリーミング教材は、電源投入後ログインするまでの手順、フロッピーディスクのフォーマット、アプリケーションの起動、そしてLMSの利用方法などです。これら教材の利点は学生に実際の操作画面を見せるよりも簡単に繰り返して表示させたり、不要なところを早送りできることです。また教育用計算機システムのWindows2000サーバに無償のWindows Mediaサービスを導入して受講生が個別に操作手順を確認できるようにもしました。これら以外にも講義資料や実習課題をWebサーバ上に置き、受講生に利用してもらいました。さらに欠席者や授業復習者のために復習用教材を作成しました(図1)。
 授業時にはマルチキャストでMicrosoft PowerPointのスライドを受講生側に提示しますが、このスライドと授業録画テープを同期、編集させてストリーミング教材を作成するソフトウェアを利用しました。今回はMicrosoft社から無償提供されているMicrosoft ProducerやCyber Link社Stream Authorを利用しました。ただし、固定カメラでの授業録画は教員が移動できず一人では難しい作業になりますので、動画ではなく音声だけで教材を作成しました。授業時にポケットに入るICレコーダを用いて音声を録音し、このデータとスライドを組み合わせて作成しましたが、画像がなくても音声がはっきり聞き取れれば充分教材として成り立ちますし、作成の手間とデータ容量の削減にも効果的でした。

図1 Stream Authorを使った化学表現I 復習用教材

 次に取り組んだのはテストやアンケート、レポート提出管理です。個々の受講生を管理するためには、各受講生のデータを保持するLMSを導入する必要がありました。教員個人で最初からプログラムを作成するのは、かなり手間がかかるので必要な機能をカスタマイズでき、導入が簡単な製品がないか検討しました。特に教員個人での実施のため導入費用が安価であることが必須条件でした。調べてみるとライセンス形態は年間利用料または買い取り形式、ライセンス数が同時アクセス数または登録受講者数と分かれていることがわかりました。さらに事前にデモ版等で機能を確認できるかも重視しました。製品検討時は遠隔授業に対応できる高機能のものや、海外で実績のあるものの日本語化が完全でないものなど、さまざまな製品があり、これらを比較検討しました。比較の詳細はNew Education Expo 2002(内田洋行主催)講演で報告しましたが、その結果富士通社製Internet Navingware Ver6.0を今回導入しました。これはApacheがインストール済みのWindowsサーバかSoalrisサーバ上で動作するものです。ライセンス形態は買い取り、同時アクセス数の製品です。主な機能は教材提示、アンケート、テスト、レポート提出、掲示板です。同時アクセス160人程度ならパソコンと同程度価格のエントリマシンSun Microsystems社製Blade100で充分対応できました。


4.LMSを用いた授業

 LMSは既存教材Webサーバからアクセスする追加機能と位置づけて設置しました。LMSを導入後、最初にアンケート機能を立ち上げました。アンケートはこれまで紙媒体のものを実施することはありましたが、集計に時間がかかるため頻繁には実施できず、全講義中1〜2回程度の実施にとどまっていました。しかし、LMSでは受講生が回答後即座に集計できるので、必要に応じて何回もアンケートを実施しました。アンケートはテンプレートを使って、単一もしくは複数選択回答や自由記述欄を作成しました。アンケート実施時に注意したのは、アンケート回答は匿名性が守られるので思った通りに答えてほしいことと、アンケート結果は極力受講生に開示し、講義の進度や方法をどう改善するかを説明するようにし、積極的に講義参加を求めるよう努めました。
 テストは小テストとし5問程度の選択式としました(図2)。受講生が回答後、採点・正解を表示するようにしました。このテストは主に復習用とし、理解度の測定に利用しました。正解率等はその場で確認し、必要があれば前回授業の復習を多くするなど機動的に講義内容を変えるようにしました。
 レポート提出は受講生が作成したファイルをWebブラウザから行えるものです。締め切りを指定し、締め切り後は受け取らない設定にしました。LMSで提出者が特定できるため提出者が不明ということはなく、さらにExcelのワークシートなどでは、どんな式で計算したのかも簡単にわかります。提出内容が似ている提出課題の確認も容易にできました。採点もオンラインで行い、必要があればコメントをつけて再提出するよう指導しました(図3)。受講生側からは課題が提出済みかどうか、採点中か採点終了済みかをオンラインで確認することが可能です。基礎情報教育科目では復習を中心に専門科目では予習中心のレポートテーマにしました。
 掲示板機能は作成してもなかなか書き込みにくいようでほとんど利用されませんでしたが、専門科目で議論の場として活用できないかを考えています。教材管理は既存Webをそのまま利用し、LMSの機能としては利用しませんでした。これはLMSで管理すると最初に全教材を用意する必要があり、機動的な授業には不向きだったからです。これらの機能を使って図4に示す流れを基本に基礎科目、専門科目とも授業を進めています。LMS管理ログから、レポート提出などでかなり多くの学生が学内からだけではなく自宅からもシステムを利用していることがわかっています。

図2 表計算ソフト活用法小テスト画面


図3 教員側レポート評価画面例


前回の復習
(Power Pointと板書)
小テストの実施
(授業後半の場合も)
今回の授業内容解説
(操作方法ストリーミング、Power Pointマルチキャスト)
実習
(TA・SAのサポートと操作方法ストリーミング)
ま と め
(必要に応じて課題)
授業内容のアーカイブ化と質問掲示板
(TA・SAとの連携)
図4 授業進行

5.最後に

 今回個人規模で導入したLMSを用いた授業改善の試みは、受講生から小テスト、アンケートやレポートでフィードバックが得られること、特にそのフィードバックが瞬時に得られるので、必要に応じて講義内容を変えるなど、LMS導入以前と比較して機動的な授業展開が可能になったことが大きな成果だと思っています。学生側の評価としては学内FD委員会実施のアンケートで、数値的にも授業満足度が得られたことが裏付けられています。一方レポートに関して採点結果を早く提示して欲しいとの要望やこちらからの指導内容の基準策定に注意が必要など、個人指導の面を強く出そうとすると教員の負担はそれなりに増加します。しかしLMSを利用しないで同様な効果を求めようと考えたとき、LMSは非常に強力な道具となることがわかりました。今後はさらに教材提示や指導方法の改善、TAや他の教員と連携した効果的な授業運営を目指すLMS環境の構築を試みたいと考えています。



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