情報教育と環境
本学の履修はすべての学部(文学部、経済学部、国際学部、経営政策学部)で、1)セメスター制、2)他学部・他学科科目の履修、3)副専攻制度、4)GPAに基づく履修単位制限とアドバイザー制度を取り入れています。これらの履修に関わる制度をシステム的に処理するためには、大変複雑な条件や膨大なデータのチェックを必要としています。今までの教務事務システムは、独自開発のもので平成9年から利用してきました。度重なる履修制度変更や例外処理を取り入れるために、毎年のようにシステムの改良や、手作業による処理を繰り返す必要がありました。また、OCRによる授業コード入力の読みとり精度の問題もあり、目視による履修登録確認作業が必要でした。その結果、履修確定に時間がかかり、学生や教員に確定情報を提供するのが遅れていたことは否定できません。また、この教務システムに登録されている学籍情報を入試システムや就職システム等の他システムと共有できない悩みもありました。
新しいシステムを導入する際考慮したのは次のような機能を実現することでした。1)教務システムと他の事務システム間でのデータ共有、2)教務事務の処理のみでなく、教員が容易に指導を行うための情報提供、3)リアルタイムのエラーチェック機能を持つ履修登録システム、4)授業を円滑に行うためのサポート機能、5)学生個人別の教務情報発信。
これらの機能を実現するために利用したパッケージは、日本システム技術株式会社が提供するGAKUEN Revolution(統合事務処理基幹システム:以下Revolution)、Universal Passport(Web利用情報開示システム:以下UP)です。
Revolutionは教務、就職、同窓会、入試、経理、管財、人事、経営戦略等のアプリケーションを一つのデータベースを用いて実現する「統合」事務システムのパッケージです。すべてを同時期に利用開始するのは大学側の負担が大きいため、学生に近いところからの利用開始を決定し、最初に教務事務システムの運用開始を目指しました。
UPはWebを用いた学生、教員向け情報開示システムで、Revolutionで蓄えた情報のうち、公開することが可能なデータを抽出して提示するシステムです。桜美林大学ではこのUPにOBIRIN e-Campusという名称を付け、学生・教員向けの情報開示システムとして利用しました。
Revolutionおよびe-Campusのアプリケーション間の関連を模式的に表すと図1のようになり、Revolutionおよびe-Campusを稼働させるシステム構成は図2のようになります。Revolutionで処理された結果はDBサーバに蓄積されますが、公開可能データはUP DBサーバに定期的に書き込まれます。UP DBサーバのデータはWebサーバ経由で学内の教育研究用ネットワーク、外部のInternetへ公開されます(Internetからは一部アクセス制限あり)。Webサーバは負荷分散装置により負荷が均一化されるようになっており、同時多数のアクセスを実現するように設計されています。以下ではこのe-Campusに焦点を当て、その機能および運用方法等を紹介します。
図1 アプリケーション関連図
図2 システム構成図
学生向けの主な機能としては以下があります。
1) | パスワード変更 |
2) | 個人情報照会:学籍データベースに登録されている本人の情報確認 |
3) | 授業情報:履修登録・授業時間割参照・授業シラバスの確認 |
4) | 成績情報:過去の履修履歴やGPAの変遷を参照 |
5) | スケジュール・掲示板:学生個人のスケジュール管理および大学からの個人別掲示情報開示 |
1) | パスワード変更 |
2) | 学生情報照会 |
3) | 教員・職員情報照会 |
4) | 授業情報 |
5) | 成績情報 |
登録期間の履修登録は、早朝のバックアップ時間を除いて、どこからでも(学内、学外とも)システムへのアクセスを許可しました。学生は登録の前にアドバイザーと相談を行い、履修登録の許可を取った後、システムにログインします。時間割冊子を元に、履修する科目の授業コードを入力し、「参照」ボタンを押すと、入力した授業に対して履修エラーのチェックが行われます。エラーチェックを行う項目は本学の履修規程のほとんどすべてで、代表的な検査項目として授業コード、科目配当、授業時間重複、履修単位上限(直前セメスターGPAに基づく)、重複履修、配当年次、授業レベル、先修科目等があります。チェックが終了すると、入力した授業コードに対応する「授業名称」、「担当教員」、「開講曜日・時限」が表示され、エラーがあった場合エラー内容が赤字で表示されます。学生は、エラーメッセージを参照した後、修正入力を行います。エラーが無くなると初めて「登録」ボタンが現れ登録することができるように設計しました。学生が所属する学科、学年で履修規程が異なりますが、すべての学科、学年にカリキュラムを配当することによって、個別対応を行っています。なお、履修登録の前に抽選を行う授業の抽選申込みもe-Campusで受け付け、抽選の結果は自動的に履修登録データとして反映(書き換え不可)させました。
図3 科目登録エラー表示
2002年度秋学期(後期)の履修登録からe-Campusの本格稼働が開始されました。履修登録対象者は、大学6,750名、短大500名、大学院250名の合計7,500名です。抽選科目申込み期間(9月12日〜17日)に引き続き、9月20日(金)9時〜9月27(金)24時を履修登録期間(最終日は24時でプログラム停止)としました。学内の履修登録用PCとしては、180台のデスクトップPCおよび25台の無線LAN対応ノートPCを利用しました。混雑を回避するため、学科毎に優先登録期間を設けるとともに、端末操作の質問に対応するためにTutor(学生アルバイト)を複数名配置しました。学生にはあらかじめWeb履修登録のスケジュールおよび操作方法を記載したお知らせを配布し、新しい登録方法の周知徹底を試みました。
履修登録者の推移は、学科指定登録期間を設定してあったにも関わらず、最終日に約3分の1が登録する結果になっています。履修登録に要した時間は一人1回当たり平均6.3分、一人あたりの平均登録回数は1.4回、最も集中したアクセスは最高446アクセス/1時間という結果でした。システム的にはエラーチェックに最も負荷がかかりますが、パフォーマンスチューニングの結果、きわめて高速で応答する環境が実現され、学生がストレスを感じることはありませんでした。システム操作上の混乱は予想より少なく、学内のPCも待ち行列ができるほど混雑したことはありませんでした。図4に示すのは、アクセスの推移で、学内と学外に分けて示したものです。外部からのアクセスの割合はほぼ4割に達し、夜間特に23時以降のアクセスが顕著でした。
本システムを利用することによって得られた効果としては、以下を挙げることができます。
(1)履修確定までの時間短縮
リアルタイムで履修条件チェックを行うため、大半の学生の履修科目確定がその場で行え大幅な時間短縮を実現することができました。
(2)履修者名簿の早期配布
教員はe-Campusから履修者名簿をCSVファイルでダウンロードできるため、授業開始以前に履修者名簿を入手できるようになりました。また、OCRシートによる履修登録に比べ、登録期間終了後、直接システムにデータを取り込めるため、履修動向の把握をより早く行うことができました。
(3)窓口問い合わせの減少
履修に関するエラーメッセージを提示するため、履修条件エラーに関する教務課窓口への問い合わせ件数を少なくすることができました。
(4)例外処理の削減
履修条件に反する科目登録ができなくなったため、以前は数多く処理していた例外処理(教員の許可等)の申請件数を削減することができました。
(5)印刷の削減
履修確定に至るまでの通知を以前は印刷物で行っていましたが、Webで確認できるため印刷物の枚数を減らすことができ、かつ確実な情報伝達ができるようになりました。
(6)読み合わせ作業の軽減
授業コード入力を履修者が行うことにより、データの読み合わせによる確認作業を行わずに済みました。
(7)時間割変更の対応
授業時間割の情報を一元管理するため、変更が発生した場合にも授業データに反映されるため、時間割の変更による履修登録の誤りを削減することができました。
(8)学生の履修登録動向を知る
履修登録期間中の履修動向が即時に把握できるため、「いつ・どこで・どのように」履修を行っているかを、より具体的に把握できるようになりました。
図4 Web履修登録アクセスログ
e-Campusの開発は、パッケージの提供と機能拡張を日本システム技術株式会社、システムの導入・設置をITF株式会社、プロジェクト全体の進捗管理を日本IBMに依頼し、学内からは全学的な開発体制の中で、特に教務部と情報システム部が担当しました。開発開始は2001年5月、FIT&GAP、要件定義、外部設計等の作業を経て、一部利用開始を2002年4月にスタートさせ、2002年の9月から本格稼働を開始しました。様々な困難を解決し、無事利用開始を実現できたのは、プロジェクト参加者全体の協力に寄るところが大きかったといえます。2003年4月からはネットワーク利用課題提出システム、個人対応掲示情報提示システムを稼働させ、今後とも学生の情報活用動向に対応するシステムの拡充に努めていきたいと考えております。
文責: | 桜美林大学文学部教授、 |
情報システム部長 大道 卓 |