巻頭言
情報化による新しいコラボレーション
白井 克彦(早稲田大学総長)
昨年は私立大学情報教育協会(私情協)も社団法人化10周年、創立からは25周年を祝うことができた。このような大きな団体に発展するのに25年は、あまり長いとは言えないが、この間の私情協の変化は本当に大きなものがある。私も、この団体の発足の頃から活動に加わってきたが、この間の変遷を思い起こすと感慨深い。しかし、ここで私立大学を取り巻く環境にも新しい大きな変化が生じてきた。国立、私立の日本における併存の様相は、昔からそれ程変わったとは言えないが、国立大学が独立行政法人化することによって、その管理運営の方法が変わり、意思決定が早くなるだろう点と各大学と教員の自由度が大幅に上がることは、私立大学の立場を一層困難にすると予想される。また、予算獲得は一段と競争的になり、評価結果が切実なものとなってくるだろう。このような雰囲気は、私立大学に対する国の様々な補助金に対して影響を生ずる可能性もある。
一方で、大学における教育研究と事務の両方における情報化も大きな転換期に来たように思う。近年の学内LANや、教室の情報設備などのインフラの充実には多くの大学が努力したし、国の補助金も極めて効果的に利用されてきたと言える。その結果、大多数の大学でPCの端末室が整い、教室での多彩な情報利用が可能になり、インターネットの利用もごくあたり前のこととなった。
それではこれから、大学教育の情報化では何が最も可能性があり、重要であろうか。各大学内で情報化によって新しく可能になったのは、教員間でのデータや知識の共有と、教員と学生あるいは学生間の教室を越えたコミュニケーションである。教員達が自分の作った教材、コースウェア、データベースなどを開放することで大学全体が大変オープンな雰囲気になったし、教育法の新しい検討なども起きた。クラス、ゼミなどで設定したBBSを通じたメールによる討論は、授業を大変刺激的にしたし、学生達の意欲を引き出す上で役立っている場合が多い。また、最近はこれが学外にも出て、大学間の交流にも同じように使われるようになってきた。とりわけ、海外も含めて大学間でインターネット経由のテレビ会議が実用的となった昨今では、昔には想像できなかったような、海外の大学との授業の交換、共同ゼミの開催などが極めて容易なものとなった。
もう一つの流れは、インターネットのブロードバンド化によって、Webベースの本格的なe-Learning(遠隔教育)が開始されたことである。この方法によって、学習者が自分のペースに合わせていつでも、どこでも学習できることになった。e-Learningの内容は、教材の工夫、メンターの訓練など、まだまだ多くの問題を解決しないと充分とは言えない状況であるが、教員と学生の努力によって新しい学習スタイルができつつある。
このような状況を考え、将来の大学間の協力の姿として私情協がイメージしているのは、CCC(サイバー・キャンパス・コンソーシアム)である。この内容は、先述したようなネットワークを利用する様々な大学間の教育に関する協力である。
CCCによる、大学間の協力は各大学の個性を失わせるという人もいる。しかし、学生本意に考えれば、将来の大学のイメージとして、Web上にできた海のようなサイバーキャンパスの上に存在する特徴ある島が各大学であって、学生達が高い自由度を持って自分の学びたいことを、好みの場所や方法で学ぶことを可能にすることは悪いことではあるまいし、やがてそのような時がくるかもしれない。
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