特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み
全学的コンセンサスの形成と実践今安 達也(武庫川女子大学副学長)
本学は、文学部5学科、生活環境学部3学科、音楽学部2学科、薬学部2学科の4学部12学科で構成され、短期大学部7学科を併設しています(大学院は略)。教員は専任317名、非常勤504名、職員は237名です。大学の在籍学生は7,541名、短期大学部2,151名で、総数は9,692となります。女子大学としてかなりの規模であり、教職員のファカルティディベロップメント(FD)の徹底には、従来から全学的に多くの時間と精力をかけて努力してきました。
(1)FDの概念
FDの概念は、「大学の教育の理念・目標の達成に向けて、教育内容・方法を改善するための組織的な研究・研修などの取り組み」であると考えています。重要なことは、教育研究の場における具体化への取り組みであり、全教職員が認識を共有し、組織的に実践することでしょう。FDは全学的な合意を形成することからその実践までの総体なのです。
(2)本学の教育の理念・目標
本学の教育理念は、武庫川学院立学の精神に基づき、女子に広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、高い知性と善美な情操と高雅な徳性を兼ね備えた有為な日本女性を育成して、平和的世界文化の向上に貢献することです。それは専門教養に裏づけされた自立した女子社会人の育成ということです。
(3)FDのための組織
目標の実践の具体化・達成度は常に検証することが重要です。本学では昭和63年に武庫川学院将来構想計画委員会を発足させ、その審議を受けて平成3年に「武庫川女子大学自己評価委員会」を設置しています。同時に各学部の独自性の確保のために「各学部自己評価委員会」を組織しました。それら自己評価委員会において、大学・学部の教育理念・目標の実践の具体化・達成度を検証し、教育課程の再編、教育内容の確保のためにシラバスの改編・充実、学生による授業評価アンケート調査の実施や教員の教育研究活動(業績)のデータベース化について活発に審議し、さまざまな改善・改革についての提言を行ってきました。その提言は、学内の教学局の各種委員会や事務局組織での自由な議論・検討を経て、教授会・理事会での審議や決議に至っており、全学的な合意を形成しています。
(4)実施状況の大略
具体的な実施は、学内の教学局の各種委員会や事務局組織、あるいは各研究所・各センターにおいて全学的な連携のもとに経常化されているのです。現在、本学で実施されているFDは多岐にわたりますが、その大略を一覧表にしました。(表1)
表1 FD実施の大略(一覧) 教員研修 事務局研修 【理念・目標の理解】 新任研修
教育研究協議会
全学合同教授会
特別学期説明会
非常勤講師懇談会新任研修
中堅職員研修
事務局全体会議
人事考課者研修【教授能力・事務能力の向上】 研究・研修出張の奨励
在外研修・内地留学の奨励
各種研修講座
各種研究会
学外各種研修会への参加の奨励
学生による授業評価アンケート事務改善推進研修
各種研修講座
各種研究会
学外各種研修会への参加の奨励【統一ある学生指導の実現】 部長連絡会
教学局研修会
担任研修会
宿泊研修相談会
丹嶺学苑(セミナーハウス)検討委員会
学生幹事懇談会部長連絡会
技能・労務職員研修
各部課長連絡会
丹嶺学苑運営委員会【現代社会及び全学の現状への理解と認識の喚起】 各種講演会
甲子園警察との懇談会
人権講演会・研修会・実地研修
保護者との教育懇談会
資料による研修各種講演会
事務職員講演会
甲子園警察との懇談会
人権講演会・研修会・実地研修
資料による研修
(5)共通認識の徹底
本学のFDの特色は、その一々が大学の理念・目標の具体化に向けて、認識を共有するために行われている点にあります。本学では女子大学という特性に鑑み、情操・徳性を涵養し、主体性を育成することを重視してきました。そのために担任制度を採用し、1年次には初期演習という科目を設け、丹嶺学苑における宿泊研修(2泊3日)を行っています。担任研修会や宿泊研修相談会は、学生の人格形成と主体性の育成にとって、そのような教育システムが不可欠であるという認識を共有するために設けられています。本学には独自の特別学期(1月から3月)の制度があります。特別学期説明会は、前期・後期の正規授業にプラスした特別学期のさまざまな教育活動が、理念・目標の具体化であり、学生の主体性の育成と深く関わることを理解するように求めるものです。
(6)外部からの検証と社会性の養成
教育研究協議会は、新任1年後の教員と大学の役職者等の討論研修会です。それは大学の理念・目標の徹底を図る一方で、理念の正当性を常に検証する意味を込めて、新しい視点からの評価を求めるものでもあります。教員は独善に陥ってはならず社会性を持たねばなりません。そのために、外部講師を招聘しての各種講演会を開催しています(平成11年からの講演会の演題「大学の教育活動を改善するために」、「大学教授法・授業方法の改善−FDの観点から−」、「大学は何に迫られているか、それにどう応えるか−評価・サバイバル・教養教育−」など)。また研究・研修出張の奨励、在外研修や内地留学の奨励など、常に外部の諸団体とつながりを確保できるように努めています。
(7)全学連携の場の確保
本学には大学・短大の各学部・学科の全教員が出席する合同教授会が毎月初めにあります。全学の教育連絡会として連携を確保する場となっています。FDに関する講演会なども合同教授会の延長の形で開催します。さらに学生の意識調査を外部に委託し、その集計結果の報告を受けるなど、それらを通じて教職員の意識改革を目指しています。
(8)教育・研究への支援
各種研修会や研究会への参加を奨励・支援することによって、教育・研究の質的向上を目指しています。今年度3学部4学科連携のプロジェクト「健康科学をテーマに現代社会に貢献」(「文部科学省「オープン・リサーチセンター整備事業」に採用」)が発足しました。それは寄附講座「予防栄養学を研究する健康未来学」の受け入れを契機としたもので、各学科の研究グループの連携が果たされものでした。大学の組織的な支援があったことはいうまでもありません。これは本学のFDの顕著な成果であると考えています。
(1)情報化と教育方法
教育の方法にかかわるシラバスや授業評価アンケートについては、その実施は早い時期のものでした。学生・教職員の共通理解のために『スチューデント・ガイド』を始め、さまざまな手引き類を作成していますが、そのような資料の配布も、FDの一環です。シラバスや授業評価アンケート集計結果、あるいは配布資料のWebへの公開はすでに実施しています。学生の自己情報への情報端末からのアクセスは全学生に付与されたM. I. C(MUKOGAWA ID CARD)によって果たされています。しかし、それらは情報化への対応という点でまだ十分ではありません。それらは授業との関連で教育方法への活用度が低いからです。もちろん、本学では情報インフラの教育方法への活用を目指して、従来からさまざまなFDを行ってきています。例えば、「教材の電子化に関する懇話会の開催」、「教材作成に役立つパソコン講座の開催」、さらに情報関係講演会「ITの活用が大学教育をかえられるか」(14年度)「IT時代の大学教育を考える」(12年度)の開催などを列挙することができます。教員が急激に変動する情報化社会に対して正しい共通認識を持つために、多くの研修の機会を提供してきたのです。同時に情報スキルの開発にも努め、各研究室への情報LANの敷設、特色ある教育研究の推進の一環としてゼミの学生にパソコンを年間貸与する(150台)などを含めて、情報機器の積極的な導入を組織的に支援しています。それが十分な成果をあげえないでいるというのが現状でしょう。
(2)情報インフラの真の活用へのFD
課題となるのは、教員の情報リテラシーの問題ですが、情報インフラを教育の方法に活用するということへの共通認識をFDとして徹底せねばならないのです。従来の教育が知育を偏重していたのは、情報機器を前提としていない時代の教育方法でした。それに対して情報時代の教育のあり方は、どの情報を選択し、どのように加工するかという判断力や応用力がより求められているのです。
本学では、そのような主体性・自立性の付与を目指した教育方法、情報インフラの本当の意味での活用をはかるための教育方法の開発、それに対して組織的に支援するFDを目指しているのです。