特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み
広島修道大学におけるファカルティディベロップメントへの取り組み高濱 節子(広島修道大学情報センター長)
教員による教育内容・方法改善のための組織的な取組み(ファカルティディベロップメント:FD)が、全国の大学で進められています。そこで、今回の特集に寄稿するにあたり、広島修道大学のFDに向けた取り組みを、情報教育および教育へのIT利用の側面からご紹介したいと思います。
本学は、1952年に開学した修道短期大学を母体として1960年に設立された広島商科大学を始まりとして、以来学部および大学院の増設を進め、現在、商学部、人文学部、法学部、経済科学部、そして2002年4月に開設された人間環境学部を含めた5学部9学科、商学研究科、人文科学研究科、法学研究科、経済科学研究科の4研究科を擁する中国地区最大の私立文科系総合大学です。なお、1952年以来の短期大学部は、平成13年度を最後に募集を停止し、平成14年度新設された人間環境学部夜間主コースへと移行してきております。人的構成としては、現在、学生数は約6,200余名、教員数は専任、非常勤を合わせて約420名、事務職員は専任、非常勤を合わせて約170名の構成となっています。
本学におけるFDに向けた取り組みは、各学部の主体性を重視して行われており、その進め方も学部毎にかなり異なったものとなっているのが現状と言えるでしょう。それらの活動に対する大学としての支援および取りまとめは、学長を委員長とする自己点検・評価委員会と学長室直下に配置された総合企画課が中心となって行っており、各学部・部局のFDへの取り組み状況は広島修道大学白書としてまとめられています。
また、自己点検・評価委員会は、全学的に年2回の授業アンケートと年1回の授業参観を実施しており、総合企画課は、年1回程度の大学改革研修会の開催、大学ホームページの整備等を行っています。この他、学生部は、隔年で学生満足度調査を実施しており、総合研究所は、年1回教員の研究活動調査を実施しています。これらの調査結果は、全教員に公表され、授業改善等の資料として利用されています。教務課は年2回教員の業績調書の更新作業を行っており、これは担当科目の見直しや教員人事資料として利用されています。
授業アンケートについては、毎回約50%の教員が実施しており、学生満足度調査は教務課と協力して前期の成績交付の際、同時に実施することで高い回収率を実現しています。また、授業参観は、参観者の意見を担当者にフィードバックするだけでなく、大学改革研修会等で全学に向けてその報告を行っています。
さらに本学では、FDへの取り組みをより積極的かつ効果的に進めるため、2004年度に教育研究全般の実施状況に関する第三者機関の評価として大学基準協会の相互評価を受けるよう、学内体制を整備しました。
本学は、先の大学紹介でも述べたように文科系大学であり、情報機器の扱いに不慣れな教員が多いのが現状ですが、教育理念の中に情報リテラシー能力の育成を掲げています。その実現に向け、本学では、インターネットの教育への利用の重要性について早くから認識し、近隣私立大学の中で最も早い時期から、大学として学内ネットワークと対外接続環境の整備に力を注ぎ、環境の拡充および利用者の拡大に努めています。また、より多くの教員によるIT教育利用を促進するために教員の要望に柔軟に対応するため、情報センターでは毎年1回、教育用ソフトウェアの追加希望をとり予算要求しており、大学として、この要求に沿ってソフトウェアの導入を行っています。さらに、より快適な授業環境を提供するため、前後期の授業形態や授業内容に合わせて、教室ソフトウェア環境の全面調整を行っており、これに必要な予算措置がとられています。本学のこれらの取組みは、私立大学情報教育協会の「平成11年度版 私立大学情報環境要覧」で、情報環境活用ランキング第5位、トータルランキング第2位となっています。
2002年度に行ったカリキュラム改訂においては、さらに情報教育の拡充を目指しています。それを受け、2002年度より高度情報化推進特別経費「サイバーキャンパス整備事業」を進めており、大学として教育へのIT活用をさらに推進しようとしております。
(1)デジタル教材の作成
本学におけるデジタル教材作成は、各教員の個人的活動として進められ、各学部、各研究室あるいは全学の教育用サーバ上の教員ホームページに公開され利用されています。現在、各学部教員の約20〜30%の教員が、学部ホームページに独自のページを作成していますが、教材については、著作権等の問題もあり、学内向けの公開となっているようです。マルチメディア教室には、ノンリニアビデオ編集設備があり、ビデオ教材作成に利用されています。ここには、教員の教材作成補助として、学外からの派遣職員を1名配置しています。しかし、職員の技術力の問題もあり、教員にとって作業時間を要し、技術力が要求される等負担の大きい作業のようです。
本年度からは、まずは、既に行われているこれら教員の個人的活動を大学として支援し、動画を含めたデジタル教材の蓄積を図ろうとしています。そこで、「サイバーキャンパス整備事業推進委員会」を設置しました。委員会は、全学体制で活動を支援するために、学長室長兼ネットワーク管理委員会委員長である副学長を委員長とし、教務分野から副委員長として教務部長、次長、課長、情報センターから副委員長としてセンター長、次長、課長、さらに各学部の代表委員から構成されています。委員会の本年度の活動として、既に作成されているデジタル教材の学内実態調査、教員の負荷が軽いより容易なビデオオンデマンド教材作成環境とリアルタイム遠隔授業環境の整備、これら環境を積極的に利用する教員を各学部から新たに発掘する、ということを考えています。
(2)授業へのIT活用状況
まず、本学教室のIT環境の概略を説明します。各教室棟はギガイーサーネットワークで接続され、各棟内には100Mbpsネットワークが敷設されています。情報センターには、教育用/研究用UNIXサーバ、デスクトップPC等が設置されおり、教員は、PowerPoint等によるデジタル教材利用、OHCによる資料提示だけでなく、ビデオ、DVD、CD-R/RW教材も利用でき、学生は、大容量ファイルをサーバ上、CD-R/RW、PCMCIAカードディスクに格納できるようになっています。さらに、教卓PCと学生卓PCの双方向通信環境も整備されています。また、一般教室を含めた授業でのIT環境利用促進のため、教員貸出し用ノートPCも整備されています。マルチメディア教室には、PC、プリンタの他に、ビデオ編集設備が用意されています。一般教室については、教育用情報コンセントの設置を進めており、プロジェクタやビデオ/DVD装置等の設置も漸次進めています。
授業へのIT活用は次のようになっています。
情報センター教室は、授業で約430科目のべ71,000人の学生が利用しています。中心は、情報基礎教育の実習授業でのPC操作およびリテラシー教育ですが、インターネット上の公開データを利用した専門科目の授業やゼミナールも行われています。情報センターでは、学生・大学院生による教務補助員(TA)制度を実施しています。TA採用に際しては、日本語文書処理技能検定試験3級(日本商工会議所)以上、ビジネスコンピューティング検定試験3級(日本商工会議所)以上、あるいはそれと同等以上の能力を有するということを応募条件としています。TAは、前後期の開始2週間に限り、教室のIT環境に慣れない教員および学生の授業補助(主に、機器操作補助)を行っています。集中講義の場合は、第1日目の開始2コマに補助を行いますが、特に学外教員が担当の場合、有効であるようです。また、教室・研究室のIT機器やネットワーク環境について教員の支援を行うために、補助職員を2名配置しています。
マルチメディア教室では、語学教育が中心に行われ、インターネットの利用と市販のビデオ教材、DVD教材が主に利用されています。教材作成の補助として、派遣職員が1名配置されています。
受講生が多い大多数の専門科目は、一般教室で実施されます。一般教室におけるIT活用の中心は、教員による教材提示で、利用される教材の多くは、市販のビデオ教材・DVD教材です。これは、教員の負荷も小さく、多くの教員が利用しています。また、2002年度に行った情報コンセントの設置に伴い、教員がノートPCからネットワークに接続し、自身のホームページに置いた自作教材をプロジェクタで提示し利用する授業も漸次増えてきています。
(3)その他の取り組み
教務課では、休講情報の開示、履修登録などのサービスをWWW上から全面的あるいは一部行っています。情報センターでは、4月当初、新任教員に対する情報センター利用説明会を実施しており、人事課では、職員のIT活用のスキルアップを目指したWord、Excel、Access講習会を年1回実施しています。また、商学部では2000年度に、電子メールによる連絡体制を整備し、その際、インターネット(電子メール、ファイル転送等)、ホームページ作成の講習会を年間3回実施、ホームページ作成ソフトを学部予算で全員に配布しました。また、2003年度の学部ホームページからは、学部専任教員が担当する全科目のシラバスをWWW上に公開しています。
本学の情報教育および授業のIT活用に向けたFDへの取り組みは、まだまだ教員個人の自助努力に頼っている面が大きい状況です。これらすでに活動を開始した教員に対する一層の支援をしつつ、他の教員にいかに活動を働きかけていくのかが今後の大きな課題となっています。大学・学部の予算措置等により徐々に設備環境は整いつつあります。今後一層この取り組みを進めていくには、教職員のIT活用に向けた全体的スキルアップや、実施に当たっての人的支援体制の充実などソフト面での整備をさらに進めていくことが重要かつ不可欠であると考えています。