経営学の教育における情報技術の活用

遠隔講義(3地点・双方向)による学習効果の上昇
−阪南大学の試み−


野澤 正徳(阪南大学経営情報学部長・教授)



1.はじめに −インターネット・エコノミー

 阪南大学では、総合講座「インターネット・エコノミー」という授業を、3学部(経営情報学部、流通学部、経済学部)の教員によるリレー講義として、2001年度から行っています。目的は、インターネット時代の企業情報システム、電子商取引やバンキングの特徴を学生に教え、情報社会に対応する新しい経営能力を育てることです。これがIT社会の経営学教育に不可欠の分野である、と考えています。
 授業のテーマは次のとおりです(2002年度)。

(1)ブロードバンド時代のインターネット・エコノミー
(2)電子マネーと電子決済の将来像
(3)電子商取引 B to C。e-ショッピングと消費者行動。
(4)インターネット・マーケティングとCRM
(5)電子商取引 B to B。日本のクリック&モルタル
(6)IT時代における新しいビジネスモデルの創造
(7)インターネット時代の企業情報通信システム
(8)インターネット・ディスクロージャー
(9)貿易取引の e-決済化
(10)インターネット・バンキング
(11)インターネットと日本の決済システム
(12)インターネット・エコノミーとコンピュータ・テクノロジー
(13)インターネット・エコノミーと経済理論

 このうち、第6のテーマを、慶應義塾大学ビジネススクールの國領二郎教授にお願いしたところ、遠隔講義でやりませんかというご提案をいただき、遠隔講義を計画しました。


2.2地点遠隔講義(2001年度)

 2001年10月12日(金)、國領教授(東京のスタジオ)と大阪の阪南大学(視聴覚教室)の2地点間で、テレビ会議方式&ネットミーティング方式によって行いました。

(1)技術(サポート:テレコンサービス社)

 1) ISDN(INS)回線1回線を臨時に契約し、NTTフェニックス社のテレビ会議方式で映像と音声を相互に送受信します。
 2) 視聴覚教室のテレビ会議端末の画面(講師の顔)を中央スクリーンにプロジェクターを通して投射し、講義の音声も同時に流します。
写真1 講師の顔
 3) 中央スクリーンの画面の右下の小さい部分には、ときおり、講師の質問に答える教室の受講者の顔が映ります。
 4) 画面の映像は、1秒間数フレームのため、コマ落としですが、実用に耐えます。
音声はまったく途切れなく、映像と同期化していました。
 5) 音声と同期して、講義を要約したPowerPointのスライド(テキスト、図表)がネットミーティング方式(IP接続)により送信され、その操作は、講師により行われました。画面には、講義中の顔(質疑中には、右下の小部分に、答える学生の顔)と、PowerPointが交互に現れました。
 6) 教室には、ビデオカメラ1台(業務用)により、教室風景や学生の顔が撮影され、この映像が、東京のスタジオのテレビ会議端末(およびスクリーン)に表示されるとともに、視聴覚教室のテレビモニター(アナログ)にも映し出されました。
 7) 教室内では、3、4本の移動マイクによって、学生の発言、司会者の発言がミックスされました。
 8) 教授の講義中に、わかりにくい単語や話が出ると、教室のオペレータが、優しい解説を箇条書きのメモに書き、そのメモが中央スクリーンに掲示されました。

(2)効果(出席者約150名)

 1) 距離感は感じられず、時間の遅れもわずかで、教授が隣の部屋にいるようでした。
 2) 講師は、遠隔講義の経験が豊富なため、講義の途中で学生に質問をし、学生はとまどいながらも受け答えするなど、双方向の対話は成功しました。
 3) 学生の集中力はいつもより格段に高く、学習の効果上昇がはっきりと見られました。東京の第一人者の講義を大阪で受けられるというIT活用に、満足感がありました。


3.3地点遠隔講義(2002年度)

 第2回目は、2002年11月15日、関西大学商学部・大学院商学研究科のご参加を得て、3地点:國領教授(東京スタジオ)、関西大学(大学院マルチメディア大教室)、阪南大学(視聴覚教室)を結ぶ遠隔講義として行いました。今回の特徴は次のとおりです。

(1) 技術(サポート:テレコンサービス社)

 1) ISDN1回線を用いるテレビ会議方式で映像と音声を流す方式は、基本的に前回と同じですが、3地点のため、東京のスタジオで関西大学と阪南大学との接続を切り替える操作が行われました。
 2) 阪南大学では、中央スクリーンにPowerPoint・スライドを表示し、テレビモニター(室内に6台)に講師の顔と、関西大学の教室風景(画面の右下部分)を映し出す方式がとられました。
 3) 講師は、同じ質問を、阪南大学にし、次に関西大学にする、というように進め、関西大学の学生が話している映像・音声は、モニター右下部分に映し出されました。

写真2 教室
 
写真3 挙手

(2)効果(出席者:阪南大学約150人、関西大学約80人)

 1) 映像・音声ともに、前回と同じように途切れなく、実用に耐える状態でした。
 2) 学生は、関西大学の教室に強い関心を持ち、その学生が質問に答えるときは興味深く聴いていました。関西大学への質疑中に私語をすることはありませんでした。
 3) 関西大学と阪南大学の直接の交流はありませんでしたが、モニター画面の関西大学教室・学生の映像・音声を共有して、同時に講義を受け、やり取りしている、という不思議な感覚が生まれていました。 前回以上の興奮と満足感がありました。


4.遠隔講義の内容と方法・技術

 授業の1回目(2001年度)のテーマは、電子商取引(B to C)がネットワーク上で行われるため、顧客間のネット上でのコミュニケーション(電子掲示板への書き込みやメールでの風評など)が、企業や商品の評判に直結するので、企業にはネットの特性を考慮したオープンなビジネスのやり方(モデル)が求められる、ことでした。
 授業の2回目(2002年度)には、ブロードバンドへの大阪の学生の反応と評価について双方向の話し合いが行われた後、2003年度にスタートするe-Japan戦略IIの要点が紹介され、自立する個人間のオープンなネットワーク社会が生まれることへの期待が語られました。
 今回の講義は、授業の内容が方法・技術にふさわしいものであった、内容と方法・技術に親和性があったことに、高い学習効果が得られた大きな要因があると思われます。


5.今後の課題

 全国の多くの大学を結ぶ、多地点の遠隔講義を実現することがこれからの課題です。これにより、テーマに最適の講師の講義を、距離を越えて、受け、質疑を交わす、または多地点にまたがるシンポジウムをすることにより、大きな学習効果がえられると考えられます。



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