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水野 邦太郎(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス非常勤講師)
2000年10月よりTOEFLがコンピュータ方式に変わり、ライティングが必修となった。そこで、英語圏に留学を志す学生たちがライティングのセクションで高得点を上げ、留学中に課せられるレポートにも対応できることを目標に、Writing for the TOEFL testという授業を実践してきた。その取り組みを紹介する。
ライティングのセクションの採点は0.5点きざみで0〜6点の幅があり、2人の採点者による平均点でつけられる。授業でも同じ採点方法をとり、筆者とアメリカで英語教師をしているアメリカ人の平均点が、インターネットを介して表示されるシステムをつくった。
(http://www.sfc.keio.ac.jp/iwc/TOEFL/2001f/)
学期始めのスコアの平均点は3.0前後である。目標として、全員が4.5以上を目指す(毎学期、SFCと上智2クラス合わせて40人程度が受講)。毎学期、8割の学生が目標に到達し、半数が5.0以上のスコアに到達する。
学期の前半は「採点者が高得点を与えるエッセイとはどのようなものか」という主題を追究し、後半はホームページ上のBBSを活かしながら毎週テストを行い実践を重ねていく。そして、学習の「過程」において、「21世紀を生きるための3つの力(段取り力、盗む・まねる力、コメント力)」[1]とリンクさせながら「学びの経験としてのカリキュラム」[2]作りをめざす。
まず、最初に「TWEであること」[3]を敷衍しながらエッセイの基本について把握する。「TWE」とは、以下のような高得点をとるための秘訣である。
採点者は大量のエッセイに対し短時間で評価を行うため、問題には的確(Topic-Oriented)に答える。また、「読みやすい構成(Wanted-to-be-read)で書かれたエッセイにするために、最初の5分くらいの間にブレーンストーミングをしアウトライン(段取り)を組む。相互に重なりがなく、漏れのない(Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive=MECE: ミッシー)[4]な「切り口」がロジカル・コミュニケーションには必要である。
そして、自分の主張を効果的に演出するために、ワクワク(Exciting)するような具体例(ネタ)を盛り込み、個性を織り込む。
出題される問題は、TOEFLの公式ホームページに公表されている185題の中から一題が選ばれる。 以下はその一例。
Do you agree or disagree with the following statement: Teachers should make learning enjoyable and fun for their students. Use reasons and specific examples to support your opinion.
問題は、大きく分けて四つのタイプに分類することができる。
Type 1: Discuss both sides and choose a position
Type 2: Take a position
Type 3: Agree or disagree
Type 4: Wh-questions
各タイプごとに、「書き出し」「展開」「結論」を論理的に構成する「型」がある。基本的な「型」を「なぞり」ながら自らの思考の「かたどり」を遂行し、自分流にアレンジして実践に活かしていくことが、最も効率的にコンスタントにライティングの力をつけていく秘訣である。そこで、学生一人ひとりの「型」を「まねる・盗む力」を基礎に置いて、教師は、タイプごとの典型的な良いエッセイをTWEに注意を向けて観察し、「書き出し」「展開」「結論」の「型」を「抽出」していく「技(わざ)」を見せる。その抽出のコツを学ぶ側に盗みとらせる。
学期の後半は,本番さながらの試験を毎週行う。同じタイプの問題を2週間続けて行い、1回目のテストで4.5に到達しなかった学生は、次回までにMECEな「アウトライン」を執筆し、エッセイを論理的に構成する「型」とトピックに関連する「コロケーション」を準備してテストに臨む。一方、4.5以上のスコアをとった学生は、次週、同じタイプの違う問題を解く。
エッセイは、その問題専用のBBSに投稿され、数日後に、各エッセイにスコアが表示される(図1)。その後、BBS は、学生たちが「互いにエッセイを読み合い交流して吟味する場」として活かされていく。
●Mr. R.B.(SFC)………… Score: 3.75 Outline & Collocation Score: 4.35 Reflective Report ●Ms. E.H.(Sophia)……… Score: 4.45 Outline & Collocation Score: 5.0 Reflective Report 図1 スコアが表示されたBBSの画面
自分のスコアより高いエッセイを読むことを通して「TWEであること」「型の効用」を見抜き、次回のエッセイでまねる。自分と同じくらいのスコア、自分より低いスコアのエッセイを読むことも、自らのエッセイを客観的に見つめ直すよい機会となる。このような「省察」と「反省」はReflective Report として同じBBS に投稿され「分かち合う」ことができるようにする。このように、仲間との間で「表現し、共有し、吟味しあう学び[5]」を通して、仲間と違いを大切にしあいながら、協同で学びあっていく授業づくりが進行している。
一方、教室では、教師が先週書かれたエッセイの中からいくつかを取り上げて、なぜそのエッセイにそのスコアがつけられたのかを解説する。文法・語法へのフィードバックも行う。しかし、直接的に「教える」という行為を超えた BBS上での「学び=まねび」― 仲間のエッセイを「足場かけ」にして、自ら考え、自ら課題を発見し、仲間の技を盗み取り、自己との対話を重ねること―を通して自分のスコアをUPさせていくことが、この授業における何よりもの「学び」の実践となる。
ライティングの力を伸ばすには「量」を書かせることが必要である。そこで、授業外に英語を書く「機会」をいかに創出できるかが求められる。そして、英語を「人と人との絆を結ぶ言葉」として「本モノの表現活動を実践する」こと、これこそがライティングの授業の目標となる。その実現のために開発されたのが、Interactive Writing Community(IWC: http://www.sfc.keio.ac.jp/~kmizuno)である。
IWCには、国内外の学生たちが参加しGlobal IssuesやFor&Againstにおける様々なトピックのBBSにエッセイを投稿し、互いに読み合い「コメント」を書く(図2)。
● What is true happiness? - Ms. I.T.(SFC) … Mr. O.K. (Sophia) … Ms. I.T. (SFC) … Mr. A. I. (Korea) … Ms. I. T. (SFC) … Ms. F.Y. (Texas) … Mr. S. H. (Kyoto University) … Ms. I.T. (SFC) 図2 IWC のBBSの画面
いい「コメント」を書くには、エッセイの内容を的確にとらえる「要約力」が必要である。そして相手の考えを自分の思考のコンテクストに組み込み、どのような「レスポンス」をすれば「クリエイティブな関係」を作っていくことができるかが求められる。投稿される「生きた反応」を通して「コメント」の質についての意識が高められていき「他者への贈り物としてのコメント」を書こうという気持ちが、コミュニケーション能力の向上につながる。
次の文章は、このIWCに参加した学生が書いたものの一部である: I learned that it is important to think how the readers will interpret my words because sometimes my essay was misunderstood or didn’t have the impact I intended. In some cases the words became a knife, having a far stronger meaning than I anticipated, so I realized I had to read my essay repeatedly and change some expressions to make my intentions clear and my essay better.
また、海外の学校から以下のようなメッセージも届き、IWC上で、生きた英語による異文化コミュニケーションが実現できたことを物語っている: Your words brought Japan to life for us and made our learning entertaining as well as meaningful….Your shared personal experiences and knowledge was a key unlocking the wonders of a country thousands of miles away. Thank you for this special gift!
このように、IWCに参加し英語で書く楽しさを重ねていくことが、TWE なエッセイを書く力を磨いていくことにもつながる。
学期を通じて「学んでいることがどう生きて働いているか」をウェブ上で数字という形で互いに見ることができるのは、授業に参加し努力を続けるうえでの大きなモティベーションとなる。さらに、IWCへの参加を通して「自分の英語が生きて働いている」ことを肌で感じとることができる。このような「活動的で協同的で反省的な学び」を組織する「機能的な学習環境」を築きあげるのに、コンピュータは有力な道具となる。
参考文献 | |
[1] | 斉藤 孝:子どもに伝えたい<三つの力>. NHKブックス, 2001 |
[2] | 佐藤 学:教育の方法. 放送大学教材, 1999. |
[3] | 神部 孝: TOEFLテスト パーフェクト ライティング. 旺文社, 2001. |
[4] | 照屋華子,岡田恵子:ロジカル・シンキング. 東洋経済新報社, 2001. |
[5] | 佐藤 学:ゆとり教育では何も解決しない.潮4月号. |