特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(2)
本特集は、前号(Vol.12 No.1)に引き続き掲載しています。

高知工科大学の情報ネットワークとファカルティディベロップメント


寺田 浩詔(高知工科大学副学長、工学研究科長、ネットワーク運用センタ長)



1.はじめに

 高知工科大学は平成9年開学のきわめて歴史の浅い大学です。したがって、まず本学の沿革をご理解願うことが、本稿の主題をご理解いただく上で必要ではないかと思いますので、本学設立の経緯と理念をはじめに説明したいと思います。続いて、この理念を実現するために現在進めている、期待される教員像について述べ、最後に本学情報網の現状と将来展望に触れさせていただきます。


2.高知工科大学の創設理念

 高知県には、高知工科大学開設以前には、国公私立を問わず工学系学部がありませんでした。そこで、現在本学の理事長である橋本大二郎氏が、高知県知事選挙に始めて出馬される際に、地域発展の核としての工学系学部の創設を訴えられ当選されたのが、本学設立のきっかけとなりました。
 工学系学部の創設にはもちろんいろいろな形態が可能ですが、初代学長であった末松安晴先生(現在、国立情報学研究所長)、宮地貫一元文部事務次官などを中心とする検討委員会は、国立、公立などとの比較の上で、公設民営形式が最善であるとされ、当時ではまだ一般的ではなかった形式の単科大学として、平成9年に本学が開学されました。すなわち、本学は設立と立ち上げに必要な経費を、高知県を中心として設立された財団が負担し、その後この財団が学校法人に移行する経過をとり、純粋な私立大学として自由な運営が展開できる形で設立されました。
 学部は1学部構成であり、物質・環境システム工学、知能・機械システム工学、電子・光システム工学、情報システム工学及び社会システム工学科の5学科からなっています。学科名からも推測されるように、少数の学科で工学の広い領域を覆うように配慮し、同時に境界領域型の教育・研究が実施しやすいよう配慮されています。さらに、すべての学科に共通に「システム」を冠しているのは、現代の工学が単独の専門領域に止まるのではなく、工学全体がシステムとして系統的に機能しなければならないという思想を強調するものです。現在、学部の学年当たり定員は460名となっています。
 さらに、本学は当初から研究型大学を指向しました。これは大学開設3年目に博士前期(修士)課程2年[現在、定員150名]、博士後期(博士)課程3年[現在、定員60名]の一貫型大学院コースが設立され、今年秋季の卒業期までに25名の博士、227名の修士学位をすでに授与しています。さらに、今年度からは、学部教育と修士教育との連関を強化するために、学部の各学科に直結した、修士コースまでを工学部長が管轄する体制をとりました。その結果、博士後期課程は、課程博士を育成する基盤工学コース、論文博士を育成する社会人特別コースと、さらに主として留学生に博士号を授与することを目的とする留学生特別コースに再編し、工学研究科長が掌握することにしました。これらコースの中でも、留学生特別コースは順調に機能し、現在のところ、27名の外国人留学生が学位取得を目指して研究に専心しています。
 本学の大学院について特筆すべきことは、上記の各専門コースに加えて起業家コースが設けられ、学術修士、学術博士を育成する課程が設けられていることにあります。このコースの特徴は、企業等に在籍のまま学位取得を可能にするために、東京と大阪にそれぞれ遠隔教室を設け、土・日の受講と、夏季に高知で行われるスクーリングの受講とによって学位を取得できるよう配慮していることにあります。


3.高知工科大学におけるファカルティディベロップメントの考え方

 本学では、通常のファカルティディベロップメント(FD)の諸手段に加えて教員の評価システムを整備し、数値化された評価結果が教員に明示される方式を採っている点が大きな特色になっています。このシステムそのものは、本学のホームページで詳細に公開していますので、本稿では、紙面の制約上、その考え方を要約してお伝えしたいと思います。
http://www.kochi-tech.ac.jp/jim/f-eva/f-eva.html

 この評価方式は、岡村甫学長の原案を、主として若手教員からなる企画室で検討、精密化したもので、ごく最近第一次実施案が確定し実行に移す段階に到達しました。本評価方式は、教員の活動を教育、研究ならびに社会的貢献の三つの側面から定量的に評価しようとする新しい試みです。
 具体的には、例えば教育では教育上の量的負担、就職支援、学生による授業評価などを数値化しています。研究は、種々の水準の論文発表数、講演回数、外部研究資金の導入額、学会賞の受賞など、一般的な研究活動の指標を数値的に定めています。社会的貢献の場合にも各種の地域貢献等を細かく定め、それぞれを数値化して貢献度が示されます。
 このような明確な数値化によって、教員にはどのような活動が期待されているかが明確に伝達され、自己研鑽の目標となります。さらに、この制度の導入以後、新採用ならびに昇任した教員については年俸制を採用し、教授、助教授の標準年俸額から、本評価方式の結果を勘案して、一定額の増減を3年間の移動平均によって行う方式を採りました。目下は試行の段階にありますが、来年度から本格的実施を予定しています。
 FDにはいろいろの手法や評価の方式がありますが、本方式のように明確な数量化を試み、待遇と連動させることによって、教員活動目標の明示が可能となるという考え方を本学では採用しています。


4.高知工科大学の情報環境

 本学では、設立計画の当初から地理的懸隔の払拭を意識して、情報環境の整備を重要な課題の一つとして重視してきました。現在の本学の情報網は、計画時点から数えると、ほぼ10年に達しようとしていますので、次世代の情報環境計画を鋭意検討中ですが、ここでは現状の環境をご紹介します。
 本学の情報環境整備に際して重視したのは、物理網としては、統一的な基幹網を採用し、この上に教育用、研究用、事務用ならびに情報図書館システムを含む、すべてのシステムを構築するという原則です。これは、まったく新しい大学の情報環境を一から建設するという条件の賜物で、伝統があり各種のシステムが逐次整備されてきたという歴史を持つ大学に比べれば、非常に統一性のあるシステム構想が許されたことになります。
 本学では、情報環境への利用に際して、個人認証を重視し、学生証、教職員証として、接触・非接触兼用のICカードを採用し、これとパスワードとを併用して個人認証を行っています。また、このカードには、前払い制の現金支払い機能も含まれています。
 本学は、非常に開放的な環境にありますので、20時から翌朝6時まで、各建物への入り口は電気錠で閉鎖されています。また、各建物内でも、研究室、特別教室等への入室は資格に従って制限されています。さらに、駐車場への乗り入れも特定の時間を除いて許可制となっています。これらの保安システムは、情報網とは別網として管理されていますが、これら機能の解錠にはICカードの非接触機能を用いています。
 例えば学生証は、前記のような制限区域内への立ち入りの際の解錠機能に加えて、学内売店での支払い、一部の自動販売機での支払い、教室での出席登録、一部の証明書の自動発行などに用いられています。また、教職員証は、学生証と同様の機能の他に、秘匿の必要なデータベースの参照・書き込みなどの認証に利用されています。
 この個人認証機能は前記の統一的な物理網の上ですべてのシステムを総合的に実現する上で、原理的に重要な機能を果たしていると考えています。この機能がなければ、我々のシステム思想は実現できなかったでしょう。
 物理網は、すでに紹介しましたように、10年近くも前に計画された網に、一部の追加を施したものに過ぎず、現在では、ごく普通の学内情報網に過ぎません。基幹網としては600MbpsのATMスイッチ4台を網状に接続したものと、これと独立なギガビット網を相互接続したもので、ごくありふれたものです。ギガビット網は主として研究室内網に利用されています。端末機器の収容は100Mbpsのイーサ網が中心としています。また、外部網との接続は、現時点では15Mbpsの速度保証型回線を経由しています。最近の通信事情の変化を利して、外部網との実効的接続速度の増強を実施したいと考えています。
 本学のシステムは、前述のように統合的なシステムとして構築されていますが、各部分システムは、それぞれ個別の製造業者から提供されたものを用いています。それぞれのシステムはすべてWeb形式の表示に統一しています。最近では、システム保守の合理化のために、一部機能のサーバとデータベース更新作業を外部委託を試行的に行っています。その結果を見て、さらに保守管理の効率化を進めたいと願っているところです。


5.おわりに

 ごく概略にすぎませんが、本学のFDの考え方と情報環境整備の状況とをご紹介しました。FDの道具としての情報環境はもちろん重要ですが、FDの本質は、その目標を明快に示し、それを評価する体系を持つことにあると確信します。本学の状況が何らかのお役に立てば望外の喜びです。



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