授業改善奮闘記
プリントからCAE、そしてe-Learningへ松本 誠治(杏林大学保健学部環境生命科学研究室講師)
生物学関連分野の講義を担当していますが、図解をすることが多く、板書では学生にとっても図の書き写しの負担は労力的にも時間的にも大きいものです。結局、板書ではなくプリントを配布することにしました。しかし、毎回の講義出席者が変動するので、多めに印刷しなければならないことに少なからず抵抗があり、改善策を模索していました。また、毎回の講義で出席カードを配布して講義の感想や意見、質問を書いてもらい、次の講義の冒頭で質問に答えていましたが、講義時間を削ることになります。そのため、この質問への回答もプリントにすることにしましたが、配布後残ったプリントを見ると、早急な改善策の必要性が生じました。
そこで、本学のWebページが公開されたのを契機に、公開ドメイン内に研究室のサブフォルダを作成して、講義の資料や質問への回答をWeb上で閲覧できるようにしたので、質問の回答は印刷しないで済むようになりました。講義時に配布したプリントは図が主なので、スキャナで取り込み図ごとに分解して解説を付けて掲載したところ、閲覧した学生からは「復習ができ、講義以外の解説があり勉強になる」と好評でしたが、閲覧した学生は多くありませんでした。閲覧には講義中に提示したパスワードの入力画面を作ったことが原因の一つかもしれません。このパスワード入力は講義履修者を他の学生から区別して閲覧への動機付けを図ったことと、講義へ出席し受講することが履修の前提であることを知ってもらうためです(図1)。
図1 科目シラバスから資料・質問のページを
閲覧するためのパスワード入力画面
数年前から携帯用の液晶プロジェクタやノート型パソコンの普及とプレゼンテーションソフトも充実してきたので、講義のIT化も目指して資料の収集と作成を始め、昨年から全面的にPowerPointを使った講義に切り替えました。PowerPointで講義資料を作ると、色チョークよりずっと多くの色を使うことができ、アニメーション効果や動画ファイルの取り込みなど利点も多く、図の説明でも単色のプリントより細かい解説ができます。また、表計算ソフトなどにリンクさせてその場でデータを変えながら講義をすることも可能です。また、従前から実行していたWebページへの資料掲載も授業で使ったものをそのまま載せることで講義内容を再現できますし、プリントを配布していたときには制限していた質問への回答もWebページではすべての質問に答えることができます(図2、3)。
図2 パスワード入力後の画面
2行目には掲示板へのリンク、各講義題目の下に
資料と質問の回答へのリンクを作ってある。
図3 講義用資料の最初の画面
講義用PowerPointファイルをHTMLファイルに変換してある。
学生の反応は、「授業が分かりやすい」、「アニメーションや動画があるので板書やプリント中心の授業より魅力がある」、「自分の質問への回答があるので理解が深まる」、「他の学生の質問とその回答は非常に参考になる」、など好評ですが、出席カードに何も書かない半数近くの学生の意識が気になるところです。昨年の「生物学」でのWebページアクセス数は履修者の5倍強でした。まだまだという気もしますが、この方式をしばらく続けていこうと思っています。
とはいえ、現在の方式はCAE(Computer-Aided Education)でしかなく、e-Learningと呼ぶには、学生へ講義をすることを超えて、学生の自主的な学習を促すような授業のIT化を進めなければと思います。今までも、学生が自分でWebページを閲覧して予習や復習をし、質問は掲示板でできるようにしてきましたが、設置してある掲示板へ書き込みをした学生は2〜3名でしかありませんでした。出席カードで質問等ができるので、掲示板を利用する必要がないと考えているのかもしれません。
e-Learningの目指すところは「いつでも、どこでも、自主的な学習」であると思いますが、通信教育制ならばいわゆるオンデマンド学習の実現は重要でしょう。しかし、現在の本学の枠組みの中では、「講義」を中心に置いた学習の支援と予習、復習、質問等の要求に応えられるIT化が重要で現実的なことと考えます。学生の「自主的な学習」を促進するには、動機付け、参加意識、達成感を学生がどれだけ持てるかだと思います。このことはどのような形態の授業にでも当てはまるのでしょうが、これからの「自主的な学習」の支援にはWebページの活用が有効であると考えています。この有効な学習支援形態を全学的に実現するために、
1) | 公開ドメインに全教科のサブホルダを設置してカリキュラム表や教科時間割表から各教科のWebページが閲覧できるようにすること |
2) | 各教科のWebページにシラバスを掲載すること |
3) | 担当教員にサブホルダへのログオンに必要な情報を知らせて、自由に教科内容を掲載できるようにすること |
4) | Webページの作成方法、掲載方法についての支援を担当教員の要求に応じて行うこと |
を提案しているところです。