特集−IT活用によるファカルティディベロップメントへの取り組み(4)
本特集は、前号(Vol.12 No.3)に引き続き掲載しています。

順天堂大学におけるITを活用した医学教育支援への試み


江原 義郎(順天堂大学大学院医学研究科生体工学研究部門室長)



1.はじめに

 順天堂は1838年(天保9年)に設立された江戸薬研堀の蘭学塾に始まり、本年で創立167年となります。開学以来、一貫して健康について多角的、総合的に取り組む「健康総合大学」です。現在、東京の本郷キャンパスに医学部、千葉のさくらキャンパスにスポーツ健康科学部および医学部の1年次、千葉の浦安キャンパスに医療短期大学(平成16年4月より医療看護学部開設予定)があります。平成16年2月現在、学生数は、医学部550名、スポーツ健康科学部1,277名、医療短期大学309名、大学院医学研究科276名、大学院スポーツ健康科学研究科70名です。また、4月に開設予定の医療看護学部は1学年定員100名となっています。なお、学校法人順天堂の教職員は、専任教員832名、非常勤教員160名、専任職員3,107名、非常勤職員370名です。


2.ファカルティディベロップメントへの取り組み

 本学の医学教育改革はカリキュラム委員会、医学教育研究室を中心に行われていますが、特徴的なものとして医学教育ワークショップがあります。昭和50年より開催されているワークショップでは、多くの教員が医学教育に関する共通の認識を深めるとともに、医学教育の総合的な改善を行ってきています。毎年、学外のホテルに1泊2日の泊り込みで行われ、学長、学部長を含めた教員のみならず研修医、学生も参加した全学的な教育改善の会です。毎年、決められたテーマについて出席者を幾つかのグループに分け、グループ討論の後、発表、出席者全員による検討会があります。最近3年間の医学教育ワークショップのテーマは次の通りです。

年度 テーマ
平成13年度(第27回) 一般教養と基礎医学、基礎と臨床、臨床と卒後研修の連携
平成14年度(第28回) 順天堂医学教育の新展開−大いなる飛躍を求めて 
(1)PBLを用いた教育−問題解決型の教育法
(2)基礎医学統合型カリキュラムの点検−臨床医学の導入として 
(3)臨床研修必修化に伴う卒後研修カリキュラム及び卒前臨床実習のあり方
平成15年度(第29回) 社会と医学・臨床現場から求められる医学教育
(1)統合型カリキュラムへの対応
(2)実践的医療の医学教育
(3)FDについて

 選択科目を中心とした一般教育の改革、PBL(Problem-Based Learning:問題解決型の教育法)の基礎・臨床教育への導入、基礎医学教育を臓器別に行う統合型カリキュラムなど、最近のワークショップによる教育改革の成果です。また、学生教育の一貫性を図るとともに、試験問題の作成法についても検討する医学教育ミニワークショップも開催し、教える側のスキルアップにも取り組んでいます。教育の一貫性に関しては、内科的診察・技法、縫合などの外科基本手技の実技教育においても教員個々人の癖や好みを極力排し、手技の統一を図るため、毎年teacher's trainingを実施しています。なお、現在のカリキュラムの問題点については、医学教育の再検討に関する会も開催しています。
 このような教育の改革には教員サイドばかりでなく、個々の学生の意見を教育に反映させることも大切です。本学では学生による教員評価を行い、その結果を教員一人一人にfeedbackして授業の改善に資するよう努めています。


3.教育支援システム

(1)試験問題のIT化

 学内における試験問題をプールし、学生が自学自習できるシステムを開発しています。試験問題は、各研究室のパソコンから学内ネットワークを介して教務課のサーバに保存します。このシステムでは医学教育に特有な医療画像を含み、解答および解説を読みながら学生はパソコンとネットワークを利用して自学自習できるシステムになっています。教員もこのシステムを利用し、過去の問題、関連科目の問題を参照することができ、より適切な試験問題の作成が可能となっています。

図1 試験問題検索システムの一画面

(2)医用画像の保存、検索システム


 医学の授業においては様々な画像を利用します。医用画像を教務課のサーバに保存し、ネットワークを介して各授業で検索できるシステムを開発、現在データを蓄積中です。

(3)ハイブリッドなマルチメディア教室

 医学部のマルチメディア教室は平成12年度文部科学省私立大学等教育・学習方法高度情報化推進事業の補助を受けてでき上がりました。この教室の特徴はアナログ・デジタルそれぞれの長所を生かした医学教育支援システムです。教室には学生用コンピュータ95台、教師用コンピュータ1台と数台のサーバマシンから構成され、アナログ系とデジタル系のネットワークで結ばれています。
 デジタル系のネットワークは授業における教師と学生のinteractiveな通信、インターネットを使った教育情報のやり取り、自学自習等に利用されています。
 アナログ系のネットワークは主に画像配信に利用し、顕微鏡画像、書画カメラ、黒板カメラ、スライド、ビデオ映像などのアナログNTSCコンポジット信号をRGB信号にアップコンバートし、学生用コンピュータのディスプレイやスクリーンに表示しています。授業中に教師が実際の試料を用い、顕微鏡を操作しながら学生に説明するなど、臨場感のある教材は教育的にも効果が大きいようです。また、PowerPointなどを利用して提示するデジタル画像ばかりでなく、従来からのアナログスライドをこのシステムを利用して学生用コンピュータに表示するシステムも広く授業で利用されています。プレゼンテーション用のソフトを利用した授業はIT化によりかなり普及し、効率的な授業が可能となりましたが、学生は見ているだけであまり憶えていないというデメリットもあるようです。
 一方、従来より行われている板書にも、学生が黒板の内容を自分で写しながら学ぶ教育的メリットはあります。黒板カメラと映像配信システムを利用して、学生マシンのディスプレイに黒板の内容を表示することにより、従来の黒板が見えにくいという問題点は解決されたようです。

図2 アナログ画像配信システムの一部(顕微鏡)

 マルチメディア教室は基礎・臨床の医学教育に利用されるとともに、授業時間外は学生の自学自習用に開放しています。また、本教室を利用してCBT(コンピュータを使った全国共用試験)にも参加しています。
 マルチメディア教室にはコンピュータ技術員が常駐し、教員に対する情報インフラ利用法の教育、学生に対するコンピュータ相談窓口にもなっています。


4.今後の課題

 コンピュータを中心とする教育のIT化だけで理想的な医学教育ができるわけではありません。教員すべてが、変化する医学教育を充分に理解した上で、学生にとってどのような授業、カリキュラムが望ましいかを考えていく必要があります。そのためには教育支援としてのITをどのように活用するのが望ましいか、IT機器のもつ情報蓄積能力、情報検索能力、通信能力、画像処理能力等を利用して、学生をいかにpassiveからactiveにしていくかが課題です。



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